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注目のキーワード『フードテック』

鄭 美沙

フードテックとは、フード(Food)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた言葉で、生産から加工、流通、消費等へとつながる食分野の新しい技術及びその技術を活用したビジネスモデルのことです。フードテックへの世界の投資額は過去10年間で約10倍に増加しており、既存の産業とテクノロジーを結び付けるX-Techの中でも注目が高まっている分野です。

具体的な領域として代表的なものは代替食です。植物由来の原料を使用し肉の食感に近づけた「代替肉」は、大豆ミート等として食品スーパーでも見かけるようになりました。細胞から人工的に食肉を作る「培養肉」の開発も進んでいます。生産・加工・流通現場では、ロボットによる省人化・効率化や、フードロス削減に向けたAIによる需要予測があります。より身近なところでは、配膳ロボットやモバイルオーダー、スマート調理家電もフードテックです。このように、食分野のあらゆる面にテクノロジーを活用したイノベーションの可能性が秘められています。

では、なぜフードテックが注目されているのでしょうか。一つは食料の安定供給です。農林水産省によると、世界的な人口増加等により食料需要は2050年に2010年比で1.7倍に増大すると想定されています。特に、食肉や乳製品に含まれるタンパク質の需給バランスが崩れることが懸念されており、持続可能な食料供給の必要性が高まっています。二つ目は環境問題です。食料需要が増える一方、飼料栽培や家畜のゲップ由来のメタンガス排出のように食料生産は環境負荷がかかるため、低減させる技術開発や生産効率の向上が求められています。三つ目は労働力不足です。特に日本では、少子高齢化に伴い農林水産業や配送、飲食店における人手不足が深刻化しており、フードテックにその補完が期待されています。その他、食物アレルギーやハラルフード(イスラム教で食べることが許された食事)、健康増進等多様なニーズへの対応や、食の安全確保、ウクライナ侵略を契機とした食料安全保障への懸念等が背景にあります。

日本でもフードテックへの関心は高まっていますが、他国と比較して投資額は大きくなく、まだ発展途上です。食分野がイノベーションによりどのように変わっていくか、今後の国内外の動きに注目です。

(総合調査部 課長補佐 鄭 美沙)

鄭 美沙


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