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注目のキーワード『GDPとGNP、GDW』

松村 圭一

GDP(Gross Domestic Product、国「内」総生産)とは、一定期間内(通常、四半期や1年)に、国内で新たに生み出された財・サービスの付加価値の総額を示したものです。産出量が変わらなくても物価が変化すると、付加価値総額も変動します。こうした価格変動要因も含めたものを「名目GDP」、価格変動は含めず産出量の変化だけを考慮したものを「実質GDP」と言います。一般に経済成長率という場合は、実質GDPの伸び率を指す場合が多いようです。

日本がGDP概念での成長率公表を始めたのは今から30年前の1993年で、それまでは長年、GNP(Gross National Product、国「民」総生産)が用いられていました。経済のグローバル化が進むなか、日本人が海外に多く進出するとともに、多数の外国人も日本で経済活動を行うようになりました。一国の経済活動や国内景気をより正確に把握する意図からは、「国民」概念のGNPより、「国内」での経済活動を捉えたGDPの方がより趣旨に合致すると考えられました。

ただこの30年で日本経済を取り巻く環境は、様変わりしてしまいました。1993年当時、世界第二の経済大国として世界GDPの18%を占めた日本ですが、2010年には中国に抜かれ世界3位となり、さらに2022年には世界GDPの占率が4%強にまで低下し、4位のドイツがすぐ背後に迫っています。足元の日本のGDPは560兆円程(2022年度)ですが、この30年での伸びは1割程度で、3.7倍のアメリカ、2.2倍のドイツに伸び率では大きく劣後しています。

こうしたなか、日本は海外の成長を取り込んでいくとの考えや、海外への投資からの収益が増大している現状に鑑み、GDPよりもGNP概念(=現在のGNI、Gross National Income、国民総所得)の方が経済の現状を捉えるのに相応しいとの意見もあります。さらに、もはや物質的貨幣的な豊かさだけではなく、一人ひとりの心の豊かさ(well-being)を新たな物差しとして考えたらどうかとの議論もあり、その指標としてGDW(Gross Domestic Well-being、国内総充実)が提唱されています。高度成長期の1960年代、日本は10%を上回るGNP成長率を続けていましたが、公害問題の深刻化や「モーレツ」な働き方等が疑問視され、「くたばれGNP」というフレーズが流行りました。GDWの議論はこの再来となるのでしょうか。

(取締役 総合調査部長 松村 圭一)

松村 圭一


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