Side Mirror(2023年7月号)

佐久間 啓

アメリカの国債市場で2年金利が10年金利を上回る所謂“逆イールド”、が発生してからほぼ1年が経過した。よく逆イールドの発生はリセッションの先行指標と言われているが、正確に言えば逆イールドから順イールドに戻るとリセッションになるということだ。これまで“ダマシ”はなく逆イールドとリセッションはセットで語られるものだった。

FFレートが5.25%まで引き上げられてきたが、アメリカのインフレはピークをつけてディスインフレプロセスに入っているとは言われているもののPCEコアで4.7%とサービス価格中心に高止まりが続いている。一方、失業率は歴史的低水準の3%台を維持、更に失業者を大幅に上回る求人数も維持、賃金上昇率も5%台で実質賃金もプラス圏と好調を維持している。株式マーケットは2020年の金融相場から2021年の業績相場、2022年の逆金融相場を経て2023年は逆業績相場に怯えたものの企業の利益見通しは思いのほか悪くない。逆業績相場は終わったのでは?という人もいる。

こうした状況からリセッションなしのソフトランディングシナリオが台頭してきている。確かに急激な引締めの割には経済の減速は緩やかだし、インフレは着実に減速に向かっている。しかし個人的には本当?と言いたくなる。インフレにもかかわらず実質消費が落ちてないのは2020年以降の財政支出が相当効いているのではないか?企業は値上げしても数量が落ちないことから利益を維持できているということではないのか?つまり個人消費のバッファーがなくなれば経済は急激に悪くなるのではないか?

「いやいや今回は違う。今回は債券市場は心配し過ぎだ」。そんな声も聞こえてくるが、どうだろうか。投資の世界では“今回は違う”というのは最も避けるべき考え方とも言われてきた。世界で最も合理的で流動性が高い米国トレジャリー市場のサインはまだ無視できないと思うが。

佐久間 啓


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佐久間 啓

さくま ひろし

経済調査部 研究理事
担当: 金融市場全般

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