FRBは2会合連続で据え置きも追加利上げの可能性を維持 (23年10月31日、11月1日FOMC)

~FRBは金融環境引き締まりの影響を含め追加利上げが必要か否かを慎重に判断~

桂畑 誠治

23年10月31日、11月1日に開催されたFOMCで、FRBは予想通り政策金利であるFFレート誘導目標レンジを5.25~5.50%に据え置くことを全会一致で決定した。22年3月のゼロ金利解除後初めて、2会合連続で政策金利を据え置いた。

パウエルFRB議長によると、FOMCの議論の中心は、追加利上げが必要か否かだった。現在、高い経済成長、強い労働市場、FRBの目標を大幅に上回るコアインフレの上昇が続いている。しかし、これまでの大幅な利上げによって、政策金利がインフレ抑制効果のある高い水準に引き上げられ、その影響が完全にでていないこと、労働市場逼迫の緩和傾向、インフレの鈍いながらも低下傾向にあること、市場金利の上昇によって金融環境が引き締まったことなどを受け、FRBは据え置きを決定した。

金融市場では、利上げ打ち止め観測が強まっているが、パウエル議長は、インフレ率を2%まで引き下げる政策スタンスに到達したと、まだ確信していないとして、利上げ政策が終了していないことを強調した。FRBは、政策金利がピークに到達したという結論を出す前に、労働市場のリバランス、インフレの低下継続が確信できる状況になる必要があると考えている。議長は、「経済成長や労働需要の底堅さを示す最近のデータに留意している」とし、高い経済成長や労働市場の逼迫が続き、インフレが再び加速するリスクがあれば、「さらなる金融引き締めが正当化される」と指摘し、追加利上げの可能性を否定しなかった。ただし、FRBは追加利上げが必要か否かを慎重に判断する方針であることを強調した。

バランスシートの縮小策について、以前に発表した計画通り保有証券の圧縮を月間上限額950億ドルで継続する方針が確認された(内訳は、米国債の上限が600億ドル、エージェンシー債、政府支援機関保証付き住宅ローン担保証券の上限が350億ドル)。パウエルFRB議長は、長期金利上昇への量的引き締め(QT)の影響は比較的小さいとの見方を示したうえで、バランスシートの縮小ペース変更は検討していないと説明した。

金融市場では、金融環境の引き締まりの影響を考慮するとの声明文やパウエル議長の発言をハト派的と解釈したことを受け、市場金利は低下し、株価は上昇した。また、ドルは主要通貨に対して弱含んだ。

FF金利先物市場では、FRBは利上げを終了し来年6月までに利下げを開始するとの見方が強まった。FF金利先物が織り込む23年12月FOMCでの据え置きの可能性が80.2%と前日68.9%から小幅上昇した一方、25bpの利上げの可能性は19.8%と前日の28.8%から低下した。また、24年1月FOMCでの据え置きの可能性が71.9%と前日59.3%から小幅上昇した一方、25bpの利上げの可能性は26.0%と前日の34.6%から低下した。

図表
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FOMC声明文の景気判断は、今回「経済活動が第3四半期に力強いペースで拡大したことが示されている」と前回「最近の指標では経済活動が堅調なペースで拡大し続けていることが示されている」から上方修正され、米経済成長の加速を指摘した。ただし、パウエル議長は、「政策金利は抑制的であり、景気を下押している」と強調、「GDPは力強いが鈍化する」との予想を強調した。

雇用情勢についての判断は、今回「雇用の増加は年初から鈍化したが依然として堅調」と前回「ここ数カ月、雇用は鈍化したものの依然として強く、失業率は低いまま」から上方修正された。9月の雇用の大幅な増加を受け、評価期間を変更することで、雇用の増加ペースが鈍化しているとの見方を維持した。また、パウエル議長は「労働市場の需給バランスは引き続き改善傾向にあるが、労働需要は依然として供給を上回っている」との認識を示した。

インフレについて声明文で、前回同様「インフレは高止まりしている」との判断が維持された。パウエル議長は、「数カ月分の良好なインフレデータは、始まりに過ぎない」と慎重な見方を示し、この動きが継続するか否かが重要であることを強調した。議長は、インフレ期待は十分に制御されていると説明したものの、インフレ率は目標を大幅に上回っており、2%まで引き下げるには、まだ長い道のりがあるとの認識を引き続き示した。

長期金利上昇など金融環境の引き締まりの影響について声明文で、今回「家計と企業の金融や信用状況の引き締まりは経済活動、雇用、インフレを下押しする可能性が高い」と前回「家計と企業の信用状況の引き締まりは経済活動、雇用、インフレを下押しする可能性が高い」から、金融環境についての文言が加えられた。足元での長期金利上昇、ドル高、株価の調整を踏まえて、金融状況の引き締まりが経済活動、雇用、インフレの低下に影響する可能性の高いことを指摘した。

ただし、「こうした影響の程度は依然不透明」との見方を示したうえで、「委員会は引き続きインフレリスクを注視している」と現時点で金融環境の引き締まりの影響は不透明であることから、インフレの高止まりを警戒していることを強調した。

FRBの金融政策スタンスを示すFOMC声明文は、前回同様「インフレ率を徐々に2%に戻すために、どの程度の追加的な政策引き締めが適切となり得るかを決定するうえで、委員会は累積した金融政策引き締め、金融政策が経済活動とインフレに及ぼす遅行効果、経済・金融の動向を考慮する」とされ、どの程度の追加的な政策引き締めが適切となり得るか決定するとの文言が維持されており、FRBの政策姿勢は、依然追加利上げに傾いていることが示された。これまでの大幅利上げの累積的な効果、経済活動やインフレに遅れて顕在化する影響、景気動向や金融環境の引き締まりなどを考慮して、追加利上げがどの程度必要かを判断し、ターミナルレートを探る方針を維持した。

今後の金融政策の決定について、パウエルFRB議長が「何も決まっていない」と繰り返し強調しているように、予測の不確実性が高まっているため、金融環境の引き締まりなどの影響を経済指標で確認しつつ、FRBは追加利上げが適切か否かの判断を行っていく方針だ。長期金利が高止まりを続け、10-12月期に経済成長が大幅に減速したうえで、インフレ低下、労働市場の逼迫緩和が持続していれば、FRBは政策金利の据え置きを継続しよう。

一方、利下げに関して、パウエル議長は「利下げについて、今は全く考えていない」と時期尚早との見方を示し、FOMC参加者の議論の中心は追加利上げが必要か否かであり、利下げ開始時期ではないと説明した。

【FOMC参加者による経済・金利予測:23年9月】

  • FOMC参加者による最新の経済・金利予測では、23年、24年の実質GDP成長率(10-12月期)が上方修正され、失業率は26年にかけて自然失業率程度の上昇にとどまるとの楽観的な見通しに大きく修正された。一方、PCEコアデフレーターなどインフレ見通しは限定的な修正にとどまった。このようなファンダメンタルズ予想のもと、23年末の政策金利見通しの中央値は、5.625%(前回6月5.625%)に維持され、年内予定されている2回の会合のうち25bpの利上げ1回が適切とされた。FOMC参加者19人のうち、12人が年末までに政策金利の5.625%への引き上げを適切と予想した。7人は年内据え置きを予想。さらに、24年の政策金利見通しの水準は、5.125%と前回の4.625%から引き上げられ、24年の利下げ回数が前回の4回から2回に減少するとの見方が示された。

ただし、パウエル議長は記者会見で、「FOMC参加者の見通しは計画ではない」と改めて指摘したうえで、不確実な要素が多く、政策は適宜調整すると指摘した。

  • FOMC参加者による経済・金利予測(中央値)では、実質GDP予測(10-12月期の前年同期比)は23年+2.1%(前回+1.0%)、24年+1.5%(前回+1.1%)と上方修正された。25年は+1.8%(前回+1.8%)と変わらずとなった。

失業率予測(10-12月期の平均値)は、23年3.8%(前回4.1%)、24年4.1%(前回4.5%)、25年4.1%(前回4.5%)と予測期間を通じて下方シフトし、労働市場が26年末まで、好調な状況を継続すると予想されている。

一方、インフレ見通し(10-12月期の前年同期比)は、小幅の修正にとどまった。23年のPCEデフレーターが+3.3%(前回+3.2%)と上方シフト、24年+2.5%(前回+2.5%)と変わらず、25年+2.2%(前回+2.1%)と上方シフトした。25年まで目標の+2%を上回り続け、26年に+2.0%と目標に到達するとの慎重な見方になっている。PCEコアデフレーターは23年+3.7%(前回+3.9%)と下方シフトした。24年は+2.6%(前回+2.6%)と変わらず。25年は+2.3%(前回+2.2%)とインフレの緩やかな低下が予想されている。

図表
図表

ドットチャート(FFレート誘導目標レンジの中央値、年末)では、23年5.625%(前回5.625%)とターミナルレートの予想は変わらず維持された。堅調な景気や逼迫した労働市場の継続にもかかわらず、FOMC参加者の予想は収れんした。

24年は5.125%(前回4.625%)、25年は3.875%(前回3.375%)と上方シフトし、前回6月の予想よりも利下げ幅が縮小した。24年は、前回4回の利下げから今回2回の利下げに減少した。26年末でも2.875%と、FOMC参加者が中立金利と推測する2.5%を上回る金融引締め水準が適切とされた。長期は、2.5%(前回2.5%)と中立金利の見方に変化はなかったが、パウエル議長は様々な理由で中立金利が高くなっている可能性もあるが、現時点でその判断はできないとの考えを改めて示した。

FOMC委員のFF金利予想
FOMC委員のFF金利予想

為替
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金利
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桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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