Side Mirror(2024年4月号)

佐久間 啓

日経平均株価がようやく1989年の高値を更新した。当時30代、40代だった方々も60代、70代。長かったというのが実感だ。当時は土地バブル全盛期で、“Qレシオ”が持ち出され、フローの利益よりも含み益に焦点が集まった結果PERは50倍、100倍でも安いぐらいだといった声があちこちで叫ばれていたまさに“ザ・バブル”真っ只中。一世代30年から35年と言われるが歴史に残るバブルの生死をしっかり消化するためには34年が必要だったということかもしれない。

しかし、足元のマクロ経済に今一つ元気がない中で何故株価だけが高値を更新するほど元気なのか?2月の高値更新以降多くの関係者がコメントをしているが、以前とは違い今は“利益に見合った株価水準”だということが大きいだろう。足元の予想EPSに基づくPERは16倍台後半(日経225、QIUCK調べ)。米国は20倍超であり、2024年も増益を予想する向きが多いことから割安感があるということだ。加えて外国人投資家からは「日本企業は資本コストや株価を意識するようになった」、「しばらく見ないうちに変わった」という見方も出ており、これが大きな買い越しに繋がっていることもある。

ただそうした株高の要因がある中で主に買われているのは生成AIムーブメントとシリコンサイクルの立ち上がりが重なった半導体関連銘柄だ。日経平均株価は値嵩株の影響を色濃く受ける構造であるが、2023年末からの上げ幅6,500円程度のうち5銘柄で3,500円程度を占めており、この5銘柄のうち3銘柄が半導体関連銘柄だ。半導体関連株はシリコンサイクル、中国経済減速から足元利益水準はようやくボトムが見えた段階であるが、今後の成長が期待され一部の銘柄はPER70倍を超えるレベルまで買われている。

市場では前回高値を超えることは新しい相場の始まりを意味することも多い。ただ合理的な理由があっても時に市場はそれを超えて熱狂し、“バブル”を作り出すこともあるのでお祭り騒ぎには注意だ。高値更新は嬉しいが長いトンネルをようやく抜けたという高揚感に惑わされないようにしたい。

(佐久間 啓)

佐久間 啓


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