FRBは追加利上げを示唆しタカ派的な据え置きを決定 (23年9月19、20日FOMC)

~パウエルFRB議長は経済成長の上振れを背景とした追加利上げを示唆~

桂畑 誠治

23年9月19、20日に開催されたFOMCで、FRBは予想通り政策金利であるFFレート誘導目標レンジを5.25~5.50%に据え置くことを全会一致で決定した。パウエルFRB議長はFOMC後の記者会見で「われわれは政策を維持し、より多くのデータを見極めることにした」とFOMCはこれまでの大幅な利上げによって、政策金利が高い水準に上昇するなかで、労働市場逼迫の緩和傾向、インフレの鈍いながらも低下傾向にあることなどを受け、据え置きを決定した。ただし、パウエル議長は労働市場やインフレに「進展が見られ、歓迎している」としたものの、政策金利がピークに到達したという結論に達する前に、労働市場のリバランス、インフレの低下継続が確信できる状況になる必要があるとし、利上げが終了していないことを強調した。

利上げについて、パウエル議長は、これまでの積極的な利上げによって政策金利の水準が高くなったことで、引き締め過ぎと引き締め不足の両方のリスクあるとの認識を示し、FOMCは利上げを慎重に判断する方針であることを示した。そのうえで、今後も会合ごとにデータで判断していく方針を示し、「適切ならさらに金利を引き上げる用意がある」と追加利上げの可能性を示唆した。

注目されたFOMC参加者による最新の経済・金利予測では、23年、24年の実質GDP成長率(10-12月期)が上方修正され、失業率は26年にかけて自然失業率程度の上昇にとどまるとの楽観的な見通しに大きく修正された。一方、PCEコアデフレーターなどインフレ見通しは限定的な修正にとどまった。このようなファンダメンタルズ予想のもと、23年末の政策金利見通しの中央値は、5.625%(前回6月5.625%)に維持され、年内予定されている2回の会合のうち25bpの利上げ1回が適切とされた。FOMC参加者19人のうち、12人が年末までに政策金利の5.625%への引き上げを適切と予想した。7人は年内据え置きを予想。さらに、24年の政策金利見通しの水準は、5.125%と前回の4.625%から引き上げられ、24年の利下げ回数が前回の4回から2回に減少するとの見方が示された。

ただし、パウエル議長は記者会見で、「FOMC参加者の見通しは計画ではない」と改めて指摘したうえで、不確実な要素が多く、政策は適宜調整すると指摘した。

金融市場では、ドットチャートなどFOMC参加者の経済・金利予測で23年の追加利上げ、24年の利下げ幅縮小などが示されたことを受け、市場金利は上昇し、株価は調整した。ドルは主要通貨に対して強含んだ。

FF先物市場では、11月FOMCでの据え置きの可能性が71.6%と前日70.1%から小幅上昇した一方、11月FOMCでの25bpの利上げの可能性は28.4%と前日の29.4%から低下した。また、24年以降も、FOMC参加者の見通しを上回る利下げが織り込まれたままとなった。

図表1
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FOMC声明文の景気判断は、今回「最近の指標では経済活動が堅調なペースで拡大し続けていることが示されている」と前回「最近の指標では経済活動が緩やかなペースで拡大し続けていることが示されている」から上方修正され、米経済がやや強まったとの見方が示された。また、パウエル議長は、「金利動向を考えると、米経済は多くの予想よりも好調だと言ってもいいだろう」と楽観的な見方を示した。

雇用情勢についての判断は、今回「ここ数カ月、雇用は鈍化したものの依然として強く、失業率は低いまま」と前回「ここ数カ月、雇用は堅調に伸びており、失業率は低いまま」から下方修正された。同様にパウエル議長は「労働市場の需給バランスは引き続き改善傾向にあるが、労働需要は依然として供給を上回っている」との認識を示した。

インフレについて声明文で、前回同様「インフレは高止まりしている」との判断が維持された。パウエル議長は、インフレ率はいくらか低下し、インフレ期待は十分に制御されていると説明したものの、インフレ率は目標を大幅に上回っており、2%まで引き下げるには、まだ長い道のりがあるとの認識を示した。さらに、FOMC参加者の新しい経済・金利予測では、インフレ率は2026年までFRBの目標である+2%に戻らないとの見方が示された。

銀行破綻の影響について声明文で前回同様「米国の銀行システムは健全で強じん」と銀行システムへの懸念を否定したうえで、前回同様「家計と企業の信用状況の引き締まりは経済活動、雇用、インフレを下押しする可能性が高い」と信用状況が引き締まったことを指摘した。ただし、「こうした影響の程度は依然不透明」との見方を示したうえで、「委員会は引き続きインフレリスクを注視している」と現時点では金融不安の影響以上にインフレの高止まりを警戒していることを強調した。

FRBの金融政策スタンスを示すFOMC声明文は、前回同様「インフレ率を徐々に2%に戻すために、どの程度の追加的な政策引き締めが適切となり得るかを決定するうえで、委員会は累積した金融政策引き締め、金融政策が経済活動とインフレに及ぼす遅行効果、経済・金融の動向を考慮する」とされ、どの程度の追加的な政策引き締めが適切となり得るか決定するとの文言が維持されており、FRBの政策姿勢は、依然追加利上げに傾いていることが示された。これまでの大幅利上げの累積的な効果、経済活動やインフレに遅れて顕在化する影響、景気動向や金融環境の引き締まりなどを考慮して、追加利上げがどの程度必要かを判断し、ターミナルレートを探る方針を維持した。

FRBがインフレリスクを注視しているなか、パウエル議長は、先行きのリスク要因として、米自動車メーカーでのストライキ、学生ローン返済の再開、長期金利の上昇、エネルギー価格の上昇などを挙げたものの、FOMC参加者の新しい経済・金利予測にどのように影響を与えたか、触れなかった。パウエルFRB議長が年内の金融政策の決定はデータ次第であることを繰り返し強調しているように、予測の不確実性が高まっているため、これらの影響を経済指標で確認しつつ、FRBは年内の追加利上げが適切か否かの判断を行っていく方針だ。

利下げに関して、パウエル議長は「利下げのタイミングについて、シグナルを送るつもりは決してない」と情報を提供せず、前回FOMC時よりも利下げまでの距離が遠のいたことで、ややタカ派的な回答となった。

バランスシートの縮小策について、以前に発表した計画通り保有証券の圧縮を月間上限額950億ドルで継続する方針が確認された(内訳は、米国債の上限が600億ドル、エージェンシー債、政府支援機関保証付き住宅ローン担保証券の上限が350億ドル)。

【FOMC参加者による経済・金利予測:23年9月】

FOMC参加者による経済・金利予測(中央値)では、実質GDP予測(10-12月期の前年同期比)は23年+2.1%(前回+1.0%)、24年+1.5%(前回+1.1%)と上方修正された。25年は+1.8%(前回+1.8%)と変わらずとなった。

失業率予測(10-12月期の平均値)は、23年3.8%(前回4.1%)、24年4.1%(前回4.5%)、25年4.1%(前回4.5%)と予測期間を通じて下方シフトし、労働市場が26年末まで、好調な状況を継続すると予想されている。

一方、インフレ見通し(10-12月期の前年同期比)は、小幅の修正にとどまった。23年のPCEデフレーターが+3.3%(前回+3.2%)と上方シフト、24年+2.5%(前回+2.5%)と変わらず、25年+2.2%(前回+2.1%)と上方シフトした。25年まで目標の+2%を上回り続け、26年に+2.0%と目標に到達するとの慎重な見方になっている。PCEコアデフレーターは23年+3.7%(前回+3.9%)と下方シフトした。24年は+2.6%(前回+2.6%)と変わらず。25年は+2.3%(前回+2.2%)とインフレの緩やかな低下が予想されている。

図表2
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ドットチャート(FFレート誘導目標レンジの中央値、年末)では、23年5.625%(前回5.625%)とターミナルレートの予想は変わらず維持された。堅調な景気や逼迫した労働市場の継続にもかかわらず、FOMC参加者の予想は収れんした。

24年は5.125%(前回4.625%)、25年は3.875%(前回3.375%)と上方シフトし、前回6月の予想よりも利下げ幅が縮小した。24年は、前回4回の利下げから今回2回の利下げに減少した。26年末でも2.875%と、FOMC参加者が中立金利と推測する2.5%を上回る金融引締め水準が適切とされた。長期は、2.5%(前回2.5%)と中立金利の見方に変化はなかったが、パウエル議長は様々な理由で中立金利が高くなっている可能性もあるが、現時点でその判断はできないとの考えを改めて示した。

図表3
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図表4
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図表5
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図表6
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図表7
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図表8
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図表9
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図表10
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図表12
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図表13
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桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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