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2025.06.02
アジア経済
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トルコ景気は表面的に底入れも、実感との乖離、物価に新たなリスク
~リラ相場はジリ安が続くなか、今後もファンダメンタルズの脆弱さが重石となる懸念はくすぶる~
西濵 徹
- 要旨
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- 足元の世界経済や国際金融市場は米トランプ政権の関税政策に翻弄されている。米国は貿易赤字の削減を目的に関税政策を強化する動きをみせる。中国との間では貿易戦争に発展したが、その後の米中協議を経て報復関税が撤廃されるなど最悪の事態は回避されている。しかし、その後の米中協議は難航している模様の上、米国は鉄鋼・アルミ製品への追加関税を大幅に引き上げるなど不透明感がくすぶる。
- トルコ経済への相互関税による直接的な影響は限定的と見込まれる。ただし、関係が深いEU景気の行方などを通じた間接的な影響は免れない。一方、トランプ関税の発動前の駆け込み輸出の動きに加え、昨年以降のインフレ鈍化や中銀の利下げは景気を下支えするとみられた。1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+4.01%と2四半期連続のプラス成長となり、足元の景気は底入れしている。しかし、個人消費や設備投資は弱含むなど民間需要は力強さを欠く一方、公的需要への依存を強める動きが確認されている。よって、足元の景気実感は数字と乖離している可能性に留意する必要があると捉えられる。
- 国際金融市場では、米トランプ政権の政策の不透明感が米ドル安を招き、多くの新興国通貨で底入れが確認されている。しかし、トルコリラは政治的混乱をきっかけに下落が続いている。中銀はリラ防衛のために利上げに追い込まれたが、その後もリラ相場はジリ安の展開が続いている。経済のファンダメンタルズは極めて脆弱ななか、先行きもリラ相場を取り巻く環境が大きく好転する事態は見通しにくい展開が続くであろう。
このところの世界経済や国際金融市場を巡っては、米トランプ政権の関税政策に翻弄されている。米トランプ政権は、貿易赤字の圧縮や製造業の国内回帰を目的に、自動車や鉄鋼製品、アルミ製品に対して一律で25%の関税を課すとともに、すべての国に一律で10%、一部の国・地域に対して非関税障壁に応じて税率を上乗せする相互関税を課す方針を示した。相互関税は4月に発動されるも、直後に中国以外の国・地域への上乗せ分を90日間延期する一方、中国とは報復関税の応酬により米中双方が高関税を課す貿易戦争に突入した。しかし、先月の米中による直接協議を経て、米中は報復関税を撤廃した上で、相互関税の上乗せ分を90日間停止して追加協議を行うなど、最悪の事態は避けられている。その一方、その後の米中協議は円滑に進んでいない様子がうかがえるなど、引き続き不透明感がくすぶる状況は変わっていない。さらに、米トランプ政権は今月4日から鉄鋼製品とアルミ製品に対する関税を50%と倍増させる方針を明らかにするなど、関税政策は方針が揺れ動く展開が続く。なお、米国はトルコに対する相互関税の税率を一律分と同じ10%としたほか、対米輸出額は名目GDP比で1%に留まることに鑑みれば、マクロ的な観点での直接的な影響は限定的と捉えることができる。とはいえ、輸出の半分以上を占めるEU(欧州連合)景気に不透明感がくすぶるとともに、世界貿易の動向も見通しが立ちにくいなか、世界的なサプライチェーンの再構築も見込まれ、同国経済にも様々な経路を通じて影響を受けることとは避けられないであろう。
こうしたなか、年明け直後の世界貿易にはトランプ関税の発動を前にした『駆け込み』の動きが確認されている。さらに、トルコでは昨年半ばを境にインフレが頭打ちに転じているほか、中銀は昨年12月以降に断続的な利下げに動くなど、家計部門を取り巻く環境の改善に繋がる動きもみられる。こうした動きも追い風に、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+4.01%と前期(同+6.92%)から伸びこそ鈍化するも2四半期連続のプラス成長で推移するなど、底入れの動きが着実に進んでいる様子がうかがえる。なお、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率は+2.0%と前期(同+3.0%)から鈍化して5年弱ぶりの伸びに留まるなど、勢いを欠く推移が続いている。需要項目別では、トランプ関税の発動を前にした駆け込みの動きに加え、リラ安の進展も追い風にした外国人来訪者数の堅調な流入を反映して財、サービス両面で輸出が大きく拡大しており、足元の景気底入れの動きを促している。その一方、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げに加え、昨年末以降の中銀による断続的な利下げにもかかわらず、昨年末にかけて大幅に上振れした個人消費はその反動で下振れする動きが確認されている。さらに、トランプ関税をきっかけに世界経済の不透明感が強まっていることを受けて、企業部門による設備投資意欲も後退するなど民間需要は総じて力強さを欠いている。そして、民間需要の弱さを反映して輸入は減少しており、純輸出の成長率寄与度は前期比年率ベースで+3.93ptに及ぶと試算される。また、政府消費は大幅に上振れする動きが確認されており、足元の景気は公的需要への依存を強めている様子がうかがえる。こうした状況を勘案すれば、足元の景気実感は数字と乖離している可能性に留意する必要がある。分野ごとの生産動向についても、公共投資の進捗を反映して建設業で堅調な動きがみられるものの、サービス業や製造業、鉱業などの生産は軒並み鈍化しているほか、異常気象の余波を受ける形で農林漁業の生産は大きく下振れしている。昨年後半以降のインフレは頭打ちしているものの、先行きは農産品の生産鈍化を受けた供給懸念を理由に食料品など生活必需品でインフレが再燃する可能性も考えられる。


このところの国際金融市場では、米トランプ政権の政策運営に対する不透明感を理由に『米国売り』とも呼べる動きがみられ、米ドル相場に調整圧力が掛かるなかで多くの新興国通貨が底入れする動きが確認されている。こうした状況にもかかわらず、トルコの通貨リラの対ドル相場はジリ安の動きが続くなど対照的な状況にある。このきっかけは、3月末に最大都市イスタンブールのイマモール市長の身柄が拘束されたことに遡る(注1 )。同氏は元々エルドアン大統領の『政敵』とされている上、昨年の統一地方選における野党の躍進をけん引したほか、2028年5月までに実施予定の次期大統領選に野党候補として出馬が取り沙汰されてきた。現職のエルドアン氏は現在2期目であり、現行憲法においては3選が禁じられているものの、次期大統領選への出馬を可能とする『抜け穴』が存在している。そうしたなか、金融市場においては、エルドアン氏が最大の政敵の政治的立場を抑え込むことで自身の立場を有利にするとともに、盤石な政権運営によって次期大統領選への出馬に向けた機運醸成を図るとの見方が広がっている。そうしたことも、その後のリラの対ドル相場がジリ安の動きを続ける一因になっているとみられる。なお、中銀はインフレ鈍化が確認された昨年末に一転利下げに舵を切るとともに、3月まで断続的な利下げに動いたものの、3月末以降の政治混乱をきっかけにしたリラ相場の暴落を受けて、リラ相場の防衛を目的に一転して利上げを余儀なくされた(注2 )。しかし、利上げ幅は350bpと昨年末以降の利下げ局面における累計の利下げ幅(750bp)の半分にも満たなかったため、その後の金融市場では当局が結果的に緩やかなリラ安を容認しているとの観測が広がったことも、ジリ安の動きに歯止めが掛からない一因になっているとみられる(注3 )。外貨準備高など対外環境を巡るファンダメンタルズ(基礎的条件)も極めて脆弱と判断されるなか、先行きは供給懸念が新たなインフレ要因となる可能性もくすぶることに鑑みれば、リラ相場を取り巻く環境が大きく好転する状況は見通しにくい展開が続くであろう。

注1 3月21日付レポート「トルコ・ショック」ふたたび、政治不信による動揺の向かう先は」
注2 4月18日付レポート「トルコ中銀、リラ防衛へ一転利上げも、不透明感は払しょくできず」
注3 5月23日付レポート「政治不信を機に混迷が続くトルコリラは輝きを取り戻せるか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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