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2025.03.21
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「トルコ・ショック」ふたたび、政治不信による動揺の向かう先は
~リラ相場や金融政策は再び政治に揺さぶられる「不安定な時代」となる可能性に要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコの検察当局は19日にイマモール・イスタンブール市長を拘束したことを明らかにした。同氏は2019年に同市長に就任して以降、野党リーダー候補として存在感を示している。さらに、一昨年の大統領選への出馬は叶わなかったが、昨年の市長選で再選を果たすなど将来的な大統領候補として足場固めを図ってきた。他方、同氏を巡っては様々な容疑で捜査が行われるなど、政府・政権による「圧力」が強まる動きがみられた。こうしたなか、拘束の直前にはイスタンブール大学が同氏の学位を抹消するなど、2028年に予定される次期大統領選への出馬要件を失わせる動きも顕在化していた。政府・政権がこうしたあからさまな動きに出る背景には、将来的な野党リーダーの芽を摘む意図がうかがえる一方、金融市場では政治不安を理由に通貨リラ、株式、債券に投げ売り圧力が掛かる事態となっている。リラ安が物価に悪影響を与えることも懸念され、先行きのリラ相場や金融政策は再び政治に揺さぶられる「不安定な時代」となる可能性もあろう。
トルコの検察当局は19日、最大都市イスタンブールのイマモール市長を汚職、並びにテロ組織に対する資金提供などの容疑で拘束したことを明らかにした。イマモール氏を巡っては、2019年の市長選で勝利した後、エルドアン政権や与党AKP(公正発展党)の異議申し立てによる出直し選挙でも勝利したほか、昨年の市長選でも再選を果たしており(注1)、野党リーダー候補として存在感を示している。
イスタンブール市長を巡っては、エルドアン大統領が1994年に就任して以降、AKPとその前身政党であるSP(至福党)がその座を死守してきたほか、エルドアン氏は同市長を足掛かりにAKP党首、首相、大統領と政治キャリアを駆け上がるきっかけとなったポストである。よって、イマモール氏はAKPの牙城とされてきたイスタンブール市長のポストを奪取したことで、将来的にエルドアン氏やAKPを脅かす存在となることが期待されてきた。こうした経緯もあり、エルドアン政権は一昨年の大統領選を前に同氏の出馬を阻止すべく『司法の政治化』とも呼べる動きをみせるなど、あからさまな形で妨害工作を仕掛ける動きをみせた(注2)。結果、同氏は大統領選に出馬することは叶わなかったものの、上述のように昨年の市長選で再選を果たすなど、将来的な大統領選の野党候補としての足場固めを図ってきた。
なお、イマモール氏に対してはこのところ、犯罪組織への関与や贈収賄、入札不正、公文書偽造などの容疑で捜査が行われていたなか、検察は今回の逮捕容疑について恐喝とマネーロンダリング(資金洗浄)、市当局の調達、および入札関連とした上で、一連の問題に関与する容疑者としてジャーナリストや実業家など106人を逮捕したことを明らかにしている。さらに、別の容疑として、昨年実施されたイスタンブール市議会選挙に関連して、同国のみならず西側諸国などがテロ組織に認定するPKK(クルド労働者党)に対する支援を行ったことを理由に起訴したことも明らかにしている。
実のところ、イマモール氏が逮捕される前日の18日には、イスタンブール大学が同氏を含む28人に対して、学位取得を巡って高等教育委員会の規則への明確な過失(不正行為)を理由に学位を抹消したことを明らかにするなど不穏な動きが表面化していた。この背景には、同国では2028年に次期大統領選が予定されているが、現行憲法では大学の学位(学士)取得を大統領選への出馬要件と規定されており、仮にイマモール氏の学位が抹消されれば次期大統領選に出馬することができない。さらに、CHPは今月23日に開催する党大会において同氏を次期大統領選の候補として選出する予定であったため、政権、政府としてはその前に司法手段を通じてその『芽』を摘むことを狙ったとの見方もある。
政権がこのような動きを見せた背景には、イマモール氏の支持率の高さがある。昨年の統一地方選で野党が躍進し、一部世論調査ではイマモール氏の支持率がエルドアン氏を上回っているとされる。他方、エルドアン氏は大統領2期目にあるが、現行憲法では3選は禁止されている一方、仮に同氏が次期大統領選に出馬するためには、憲法改正に動くか、大統領選を前倒しすることで2期目の任期を全うしていないことを出馬理由とするなど『強弁』に訴える必要がある。とはいえ、エルドアン氏にとっては最大の政敵による政治的な立場を抑えるとともに、自身の政治的立場を有利にすることで盤石な政権運営を図りたいとの思惑が透けてみえる。
しかし、こうした政治情勢を巡る不透明感が高まったことを理由に、金融市場においてはこのところジリ安の展開をみせてきた通貨リラ相場は急落して最安値を更新するとともに(図1)、株式、債券のすべての市場において『投げ売り』の動きが強まるなどトリプル安に直面している。こうした状況を受けて、中銀はリラ相場の下支えを目的に国有銀行などを通じて過去最大規模の外貨売却に動いたほか、中銀は20日に緊急会合を開催して翌日物貸出金利を引き上げるなど事実上の引き締めに追い込まれている。なお、同国の外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無を示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」とされる水準を一貫して下回る推移をみせているが、昨年以降は通貨スワップの拡充や対外収支の改善などを通じて外貨準備高が積みあがるなど少しずつ状況が改善する動きがみられた(図2)。このような状況にも拘らず、今回の政治情勢を巡る不透明感の高まりを理由にした資金流出の動きに加え、当局がこうした状況に対応する事態に追い込まれていることは同国のファンダメンタルズ(基礎的条件)を一段と悪化させることが懸念される。


さらに、一昨年以降に政府や中銀が物価と為替の安定を目的に引き締め姿勢を堅持してきたこともあり、足下のインフレは頭打ちの動きを強めるとともに(図3)、実質金利もプラスに転じるなど引き締め度合いが強まったことで中銀は一転して利下げに動くことが可能になるなど、金融環境が改善する動きも確認されている(注3)。しかし、今回の事態を受けてリラ相場を巡る環境が急変したことを受けて、物価動向にも少なからず悪影響を与えるとともに、先行きの政策運営を取り巻く状況は大きく変化することも予想される。ここ数年のリラ相場、金融政策は政治に揺さぶられる展開が続いてきたものの、再びそうした『不安定な時代』に突入する可能性が高まっていると捉えられる。

注1 2024年4月1日付レポート「トルコ・統一地方選は野党が躍進、エルドアン政権への打撃は必至」
注2 2022年12月15日付レポート「来年の大統領選を前に「司法の政治化」が顕在化するトルコ」
注3 3月7日付レポート「トルコ中銀、3回連続の利下げも漸進姿勢、リラ相場の行方は?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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