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少子化の危機をよく見よ!

~コロナ禍後に急加速~

熊野 英生

要旨

2023年の人口統計が発表になり、衝撃的な数字が並んだ。現在の「お金を配る少子化対策」で、すでに深刻なレベルに進んだ少子化に歯止めをかけられるのか、大いに疑問だ。特に、再び大きく減少した婚姻数の数字には驚かされた。今のままの少子化対策ではまずいと思う。

目次

再び減少した婚姻件数

新しい「人口動態統計(厚生労働省)」の数字は、日本はすでに深刻な少子化のレベルにあることを示している。しばしば、「2023年の合計特殊出生率が1.20と過去最低になった」ことがニュースになるが、もっとまずいと思わせる数字がいくつかある。

まず、婚姻件数である。2023年のそれは、47.4万組と前年比▲6.0%になった(図表1)。コロナ禍で人と人との交流が極端に減ったためだろう。筆者は以前から、コロナ禍で恋愛から結婚に至る若者の人数が激減することを強く心配していた。すると、2021年は前年比▲4.6%(52.6万組→50.1万組)、2022年は前年比0.8%(50.1万組→50.5万組)と一旦は下げ止まったかに見えた。しかし、最新の人口動態統計(概数)は、その数字が2023年の前年比▲6.0%(50.5万組→47.5万組)と再び減少加速となっていた。この変化は、心底、がっかりさせられた。子供がより多く産まれることが望まれているときに、結婚の件数がこれだけ減っては、少子化が止まるはずなどない。

(図表1)婚姻件数の推移
(図表1)婚姻件数の推移

少子化対策を立案する政府の人々は、なぜ、この婚姻件数の激減をもっと問題視しないのか。結婚に関しては、対処すべき領域外だというのか。すでに子供がいる夫婦にお金を配っても、もう一方で結婚する若者が減っていては、十分な少子化対策とは言えない。筆者は、人口学の専門家ではないが、統計データを虚心担懐に見て、既存の少子化対策をなぞるだけでは不十分だと思っている。すでに少子化が深刻なレベルに達している地方では、自治体が出会いの場を作ろうと熱心に動いている。政府もそれを後押しし、さらに国民的に若者の結婚を促進する体制づくりをした方がよい。できれば、自治体だけではなく、企業も、地域金融機関も、公的団体も皆、「結婚が減ると、必ず子供も減る」という危機感を持った方がよいと思う。親にお金を配るだけでは、十分とは言えない。

新生児4,000人割れの都道府県

少子化の数字を見て、ぞっとするのは、出生数の実数が72.7万人まで減ったことだ。ひとつの思考実験をしてみたい。例えば、この人数の出生数が今後80年間続いたとすると、5,816万人(=72.7万人×80年)になる。この数字は、平均寿命80歳だと仮定すると、80年後の日本の人口に相当する。今の人口12,400万人で割ると約半分(47%)だ。出生数72.7万人がいかに恐ろしい数字かわかるはずだ。

実数をみて驚かされるのは、2023年の都道府県別出生数である。47都道府県で出生数が最も少ないのは、鳥取県の3,263人である(図表2)。この数字は、6年後に小学校に入学する子供の人数が、たった3,263人しかいないことを意味する。廃校になる小学校はどのくらいあるのか。

(図表2)都道府県別出生数
(図表2)都道府県別出生数

出生数が少ないという問題は、地域社会のあり方を破壊する。この問題は鳥取県だけではなく、高知県3,380人、秋田県3,611人、島根県3,759人、徳島県3,903人でも起こっている。いずれも出生数が4,000人を切っている県である。2020年は、出生数が4,000人を切っているのは鳥取県だけだったが、2023年は5県に増えている。

言えることは、少子化が加速した結果、ここまで出生数が減ったということだ。既存のお金を配る政策はどこまで効果を発揮したのだろうか。日本の人口はもう元に戻らないくらいに深刻な段階に入っている可能性がある。

いずれ出生数は4割減

合計特殊出生率が1.20というのも、驚くべき数字だ。そもそも合計特殊出生率とは、女性が一生涯に産む子供の平均人数である。

思考実験をすると、2023年の出生数72.7万人から、将来どのくらいの子供が産まれるかを試算してみたい。まず、72.7万人の半分が女性だったとする。その女性(36.35万人)が1.20人の子供を産むと計算すると、43.62万人になる。現在の出生数×50%×出生率1.20=43.62万人という計算だ。このまま1.20という出生率が続くとなれば、将来の出生数は▲4割も減る(=43.62万人÷72.7万人=60%)。

もちろん、これはラフな計算で正確なものではない。しかし、そうした単純な思考実験をするだけでも、どのくらい少子化が由々しき事態になっているかがわかるはずだ。日本の人口が現状維持するためには、この1.20人を少なくとも2.07人まで上げる必要がある。何度も繰り返すが、もはや日本は相当にヤバイ段階に至っている。

なぜ、沖縄と東京の差が生じるのか?

私たちは、人口統計の数字をもっと注意深く読み解くことが重要だ。47都道府県で最も出生率が高いのは、沖縄県(1.60)だ。逆に、最も低いのが東京都(0.99)である。全国から最も出生率の低い東京都に若者が集まるから、全国の少子化が進む。沖縄県と東京都の差は、一体何であろうか。

筆者の推察では、東京の若者は域外から移動してきて、親元から離れている分、子育てコストが大きい。両親や親族が遠くにいて、夫婦の両方が働いていると、子育てはしんどい。結果的に、子育てに高い費用を出さなくてはいけない。一方、沖縄県は島でもあり、両親とその子供の夫婦が近い距離に居て、潜在的な子育てコストが相対的に小さくなるのではないか。また、沖縄の人が同郷の人と結婚すると、沖縄を出ていきにくい。地元出身の男女が結婚すると、その後も地元に残りやすい。この原則は、地方自治体の人からよく聞かされる話だ。

海外では、韓国の少子化が進んでいることが有名だ。韓国の出生率は、2023年で0.72だ(暫定値)。ソウル市・京畿道・仁川市のソウル首都圏には、全人口の約半分(2,601万人/5,156万人)が集まっている。都市部への人口集中は、親元を離れて暮らす夫婦が多いことを暗示させる。韓国でも、都市部への人口集中が少子化を加速させているのだ。これは、中国などアジア諸国で起こっている現象でもある。

もっと危機感を

少子化に対して何もかもが逆風という訳ではない。結婚を増やすためによい兆候もある。大手企業を中心に、初任給を上げていることだ。若い人の月給が増えれば、経済的制約によって結婚を手控えていた人がより早く結婚できる。初婚年齢を早めて、一生涯に子供を持つ人数を増やそうと思う人が増える。

ただし、これはまだ焼け石に水である。若者の非正規雇用比率を劇的に下げて、かつ、出会いの場を増やす必要性がある。企業内婚活促進、お見合いエージェントの普及など、もっとやればよいことが山ほどある。

最近の経済学では、「おせっかいで社会を変革する」という考え方が広まっている。ナッジという考え方だ。基本は、自由(リバタリアン)でも、そこに政策意図を反映した促進策を込めて政策誘導をする(パターナリズム)。リバタリアン・パターナリズムという。学者の人々にはもっと知見を集めて、若者の結婚促進に向けて、社会的なおせっかいの策を考えていただきたい。

もっとも、それでも不十分だと思うので、エコノミストとしては、多くの人が人口統計の数字に危機感を抱くように解説して、若者が行動変容するように促し

熊野 英生


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