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2026.03.02
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イラン攻撃による原油高騰リスク
~政府の物価高対策が食われる~
熊野 英生
- 要旨
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遂に、2月28日にトランプ大統領がイラン攻撃へと動いた。最高指導者ハメネイ師や軍幹部を殺害した。イラン攻撃が長期化すると、原油高騰のリスクにつながる。高市政権が進めてきた物価高対策の効果を相殺してしまうことも考えられる。原油高の可能性は、2025年6月のイラン空爆の時の2割上昇を超えて、1ドル90ドル前後を意識させる。
混乱は長期化するか?
2月28日に米軍とイスラエルが、イランの軍事・重要施設を大規模に空爆した。核合意交渉が行き詰まったタイミングでの攻撃である。その後、最高指導者のハメネイ師が殺害されたことが明らかになる。軍幹部も多く死亡した。これは国際法違反の可能性があるが、2026年入り後すぐにトランプ大統領はベネズエラ攻撃を行い、再び同じような強硬手段に打って出た。中間選挙を意識して、対応が過激化していると言わざるを得ない。
イラン攻撃の焦点は2つである。1つは、軍事行動が長期化するかという点である。トランプ大統領は、地上戦を想定せず、短期での終息を狙っているとの見方もある。もう1つは、ホルムズ海峡が事実上封鎖されたという発表で、中東産原油が日本に供給されにくくなるかどうかという点である。ホルムズ海峡は、世界の原油の8割がここを通過するため、日本だけではなく欧州・アジアも深刻な悪影響を受けかねない。原油供給への障害は、まだ先が読めない。
この2つは、リスク・シナリオである。マーケットはその見通しを随時、織り込んで動くとみられる。特に、最高指導者の殺害は、イラン国内の政治的麻痺状態を引き起こす可能性もあり、長期化リスクを強く意識させるものである。2025年6月の空爆が12日間で終息したのとは少し事情が違っていく印象もある。そして、これらを受けて、原油市況がどのくらい上昇するのかが気がかりである。
2025年6月21日にトランプ大統領がバンカーバスターという爆弾を用いて、核関連施設を空爆したときでさえ、その前後で原油価格は一時的に急騰した。このときはWTIで直前の62~64ドル/バレルが、ピーク時に約2割高に当たる77.49ドルまで上がっている(図表1)。今回、仮に空爆直前の67ドルから2割上昇すると、それは1バレルが80ドルという値になる。3月1日朝のNY先物原油価格は、WTIで75ドル台を示している。しかし、さらにそれを上回って3割~3.5割も上昇する可能性もみていく必要があるだろう。原油が90ドル前後に高止まるシナリオである。原油価格が3.5割も高くなる状態が定着すれば、日本にはガソリン・電気代などに影響する。そして、2025年6月の短期終息シナリオが崩れると、より広範囲の物価上昇へと波及していくだろう。

為替・株価・金利はどう動く
物価上昇リスクとの絡みで言えば、為替レートの変化が気になる。米国にとっては、原油高騰はインフレ・リスクになり、FRBが利下げをしにくい環境をつくる。具体的には、2026年5月にFRB議長がウォーシュ氏に交代した後で、6月頃のFOMCのタイミングでの追加利下げは難しいという見方になる。
為替は、イラン攻撃から少し時間が経過した時点では、若干のドル高に動いている。これは有事のドルという流れが生きているのであろうか。日本にとっては、円安に向かう圧力と言える。筆者も、目先は小幅の円安シナリオを意識している。イラン情勢の不安定化によって、日銀は3・4月の決定会合で様子見をする可能性もあるからだ。ここでは、日銀と政府の関係が影響してくるだろう。それは、高市首相が日銀に厳しい目を向けていて、日銀の4月利上げでさえ看過できないという考えに傾く可能性がある。通常、インフレ・リスクがあれば日銀は追加利上げするという見方になるが、高市首相はそう考えないと予想される。そうした思惑が働くと、為替レートには円安バイアスをもたらすかたちになり、原油高騰から物価上昇へ向かう作用を助長するだろう。イラン攻撃が終息せずに長期化すると、原油高と為替の円安傾向が相まって、日本の物価高要因になってしまう可能性がある。
一方で株価はどうだろうか。目先は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が、原油供給を制約することが強く警戒されている。また、原油高騰がコストアップ要因になるという連想も、株価下落圧力を働かせる。3月2日の日経平均株価は、寄付で前日比▲874円安となっている。日米株価は、このイラン情勢が短期間で安定化するかどうかに注目し、事態が改善して行きそうならば、そこで底打ちして上昇トレンドを取り戻すだろう。なお、2025年6月の時は、株価には当時のイラン攻撃はほとんど影響していない。当時は、4月にトランプ関税という別の大事件が起こって、その結果、イラン攻撃は薄まっていたからだろう。
米国の長期金利は、株価下落や米国経済への打撃を警戒して低下している。インフレ・リスクは通常、長期金利には上昇要因になるが、まだそうした変化には向かっていないようだ。日本の長期金利にも同じく、まだインフレ・リスクは織り込まれていない。
高市政権の対応
物価高対策に取り組んできた高市政権にとって、原油高に端を発する物価上昇リスクは歓迎できない存在である。12月にガソリンの暫定税率を廃止して、1~3月は電気ガス代の軽減措置を講じている。消費者物価指数は、こうした政策要因等で目先▲0.9%ポイント程度の押し下げインパクトが予想される。
おそらく、予定されている物価押し下げ効果は、2026年5月以降に効いてくる原油高騰にいくらかが食われるだろう。原油価格10%の上昇によって、消費者物価指数の前年比は約+0.15%ポイントの押し上げにつながると計算できるから、仮に原油90ドル前後の定着(35%上昇)となれば、消費者物価総合は計算上、+0.5%ポイントの押し上げとなる。そうすると、単純比較して物価高対策効果の約半分が食われる計算になる。これでは、従来の対策効果が期待できなくなるので、高市政権は2026年度内の実現に力を注いでいる食料品の消費税減税に一層傾斜していくと思われる。物価高リスクは、政権にとって追加的な財政支援を積み増すための口実として使われる公算が高まる。そのことは、歳出拡大と裏腹の関係にある財源問題への説明が疎かになるリスクを持つ。つまり、長期金利の上昇要因に波及しかねないところが怖い。
熊野 英生
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

