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イタリアは財政赤字の是正措置入りへ

~過去の失敗は繰り返さない~

田中 理

要旨
  • イタリアの経済財務相は3日、同国を含む複数のEU加盟国が財政赤字の是正措置(EDP)の対象になると発言した。2023年のイタリアの財政赤字は政府計画を大幅に逸脱し、2024年も計画を上振れする公算が大きい。EDPの開始に伴い、イタリアは追加の財政緊縮措置を求められる。是正勧告に従わなければ、ECBの市場安定化策(TPI)の対象から外れ、金融市場の動揺を招きかねない。十分な政治資源を持つメローニ首相がそうした選択をする可能性は低い。

イタリアのジョルジェッティ経済財務相は3日、欧州委員会がイタリアを含むEUの数ヵ国に対して、財政規律違反の是正措置である「過剰赤字手続き(EDP)」の開始を勧告すると、議会予算委員会の公聴会で発言した。EUは過去数年、コロナやエネルギー危機対応の一環で財政規律の適用を全面的に停止していたが、今年から適用を再開する。先月発表された2023年のイタリアの財政赤字の対GDP比率の実績値は7.2%と、昨年秋の政府計画(同5.3%)対比で大幅に上振れした(図表1)。これは主に、環境負荷の軽減や耐震安全性の強化を目的とした建物の改修費用に対して高率の税額控除を認める税優遇措置(スーパー・ボーナス)の利用が予想以上に拡大したことによるものだ。控除相当額は建設工事が行われた時点で財政赤字に計上される。2024年から控除率が110%から70%に縮小されたが、年明け以降も積極的な制度利用が続いている。昨年末の駆け込み申請分も加わり、2024年の財政赤字を押し上げる可能性が高い。

EUは欧州債務危機を克服する過程で、予算の事前評価制度(ヨーロピアン・セメスター)を開始した。加盟国政府は春に向こう数年の財政運営と構造改革の計画を、秋に来年度の予算案を提出し、欧州委員会がそれらを評価し、必要に応じて修正を求める(図表2)。その何れかのタイミングで、イタリアにEDP開始の勧告が行われるとみられる。イタリア政府は来週にも新たな財政計画を欧州委員会に提出する。現地メディアの報道によれば、この段階では昨年秋時点の財政赤字見通し(2024年に同4.3%、2025年に同3.6%)を大きく修正しない方針とされる。EDPの開始に伴い、イタリア政府は追加の財政緊縮措置を求められる公算が大きい。

2022年秋に誕生したイタリアの右派ポピュリスト政権は、これまでEUとの全面衝突を避け、現実的な政策運営を行ってきた。メローニ首相が率いる右派政党「イタリアの同胞」は、各種の世論調査で30%近い支持を保っている(図表3)。6月の欧州議会選挙でも圧勝が予想されている。十分な政治資源を持ち、EUの政治リーダーからの信頼を獲得するに至ったメローニ首相が、EUとの全面衝突に舵を切る可能性は低い。また、イタリアの財政危機の封じ込めを念頭に、ECBは2022年夏に新たな国債購入策(TPI)を整備した。EDP入りした加盟国がTPIの買い入れ対象国となるためには、財政赤字の削減に向けた是正措置を取っていることが条件となる。是正勧告に従わず、金融市場の動揺を誘えば、自らの首を絞めることになりかねない。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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