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内外経済ウォッチ『欧州~もう1つの大統領選挙~』(2024年2月号)

田中 理

目次

EU大統領が任期途中で退任へ

2024年は世界人口の半分を超える国・地域で選挙が行われる選挙イヤーと言われる。なかでも最大の注目を集めるのは、11月の米大統領選挙でトランプ氏の再登板があるかどうかだろう。重要度は米国に劣るが、日本と民主主義や法の支配といった基本的な価値観を共有する欧州連合(EU)でも、今年は大統領が交代する。

EU大統領は俗称で、EUの最高意思決定機関である欧州理事会(EU首脳会議)の常任議長を指す。2009年に初めて創設されたポストで、米国大統領のような強力な政治権限はないが、対外的にEUを代表し、首脳会議のアジェンダ設定や27ヵ国の首脳間の意見調整などの役割を担う。任期は2年半で1回限り再任が可能で、2019年12月からベルギー元首相でリベラル会派に所属するミシェル氏が三代目の大統領を務める。

そのミシェル氏が1月初旬、6月の欧州議会選挙に出馬し、当選すれば任期を半年余り残して、EU大統領を退任する方針を明らかにした。議会選挙後に選出予定の欧州委員会の次期委員長ポストを狙っていると噂される。欧州委員会はEUの行政機関で、そのトップはEUの政策立案で重要な役割を担う。ドイツ出身で中道右派会派に所属するフォン・デア・ライエン氏が二期目の続投に意欲をみせているとされるが、選出には他会派の協力が必要となる。

図表1
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親ロシアのハンガリー首相の臨時当番も

最近の世論調査によれば、議会選挙後の欧州議会の構成は、何れの会派も過半数を獲得できない公算が大きい。その場合、EU大統領や欧州委員会委員長などのEUの重要ポストは、主要会派間や主要国間で分け合う可能性が高い。しかも、欧州諸国では近年、難民・移民の流入増加や高インフレによる生活困窮を背景に、極右政党が支持を高めている。6月の欧州議会選挙でも大幅に議席を増やすとみられ、議会選挙後の会派間協調の行方が不安視される。

早期退任する可能性が濃厚なミシェル氏の後任大統領の選出が難航した場合、輪番制のEU議長国の首脳が代理を務めるとみられる。常任議長ポストが創設される以前は、議長国首脳がその役割を果たしていた。問題は今年後半のEU議長国首脳が、司法介入などを巡ってEUの基本価値違反を問われ、ウクライナ支援や移民の受け入れに反対するハンガリーのオルバン首相であることだ。ウクライナのEU加盟に向けた交渉開始での合意を目指した昨年12月の欧州首脳会議では、反対するオルバン首相を一時的に議場から退出させ、残りの26ヵ国首脳で採決を行う奇策で合意を取り付けた。だが、ウクライナへの追加の財政支援を巡ってはハンガリーが拒否権を発動し、合意が見送られた。最大で半年間の緊急当番となるが、EU運営やウクライナ支援の行方が不安視される。

図表2
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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