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オランダ連立協議、極右党首が首相就任を断念

~極右主導の緩やかな連立に向けて協議が続く~

田中 理

要旨
  • 昨年11月の総選挙で勝利した極右政党・自由党は、右派3党との連立協議を続けているが、ウィルダース党首が首相に就任することを断念した。新たな首相候補は白紙だが、自由党出身者となる場合、事実上の院生となる可能性がある。テクノクラートが首相に就任する場合、どの程度の党派色を帯びるかは人選次第。右派4党が緩やかに連携する連立政権が誕生した場合も、オランダのEU離脱の主張は封印される可能性が高い。厳格な移民政策を採用し、EUに懐疑的で、やや拡張的な財政運営を志向する政権が誕生することになる。

昨年11月の総選挙で、極右政党・自由党(PVV)が勝利を収めたオランダでは、政権発足に向けた連立協議が続いている。第一党となった自由党、前政権を率いた中道右派の自由民主国民党(VVD)、キリスト教民主同盟(CDA)出身のオムジヒト氏が旗揚げした中道右派の新党・新社会契約(NSC)、農家の権利を主張する右派ポピュリスト政党の農民市民運動(BBB)の4党が連立協議を続けている。予算方針を巡る意見相違で、2月にNSCが連立協議をいったん打ち切った後、3月に入って協議の調停役を変更したうえで、同じ4党による連立協議を再開している。だが、4党間の意見相違が大きく、通常の連立政権よりも緩やかな連携となる「閣外内閣」という形態を採る可能性が高まっている。

PVVのウィルダース党首はこれまで首相就任に意欲を見せてきたが、連立相手となる可能性がある他党の間には同氏の首相就任に反対する声も根強い。連立協議を続ける代わりに、ウィルダース氏は首相就任を断念した。連立を模索する4党の党首は何れも次期政権に閣僚として参加しない。現在、首相候補は白紙。最大与党となるPVVがウィルダース氏以外の議員を首相に擁立する可能性や、非政治家のテクノクラートが首相に就任する可能性が取り沙汰されている。

PVVはウィルダース党首の個人政党の色彩が強い。議会に多くの議員を輩出するようになって以降も、正式な党員はウィルダース氏ただ1人で、党内の重要な決定は同氏が下してきた。PVV出身の首相が誕生する場合、事実上の院生となる可能性がある。テクノクラートの首相が誕生する場合、どの程度の党派食を帯びるかは人選次第だろう。なお、4党が閣外内閣を発足した場合、定数150の下院で88議席と過半数を上回るが、上院では過半数に届かない(図)。PVVの極端な政策主張に対しては、連立協議や立法過程において、一定の歯止めが掛かることが予想される。

4党は少なくとも、移民政策、EU政策、財政運営については、事前に政権の立場を明確にしておくことを望んでいる。移民政策に対する立場の相違は、ルッテ首相が率いた前政権が崩壊する直接的な引き金となった。PVVは最近までオランダのEU離脱(NEXIT)を主張するなど、EUに懐疑的な主張が目立つのに対して、VVDは親EU的な立場を採る。BBBとNSCはEU離脱に反対するが、VVDよりもEUに対して批判的な主張が目立つ。財政運営を巡っては、自由党とBBBが拡張的な財政運営を志向するのに対して、VVDとNSCは財政規律を重視する立場を採る。

仮に4党が閣外内閣を発足する場合、厳格な移民政策を採用し、EUに懐疑的な立場を採り、やや拡張的な財政運営を志向する公算が大きい。EUの屋台骨を揺るがす政権が誕生する訳ではないが、EUの主要国にまた1つ、EUに懐疑的な政権が誕生することになる。

(図)オランダ議会の会派構成
(図)オランダ議会の会派構成

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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