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内外経済ウォッチ『欧州~EUの未来を占う選挙が近づく~』(2024年5月号)

田中 理

目次

EUの政策運営を左右する欧州議会選挙

欧州連合(EU)に加盟する27ヶ国では、6月6~9日にかけて5年に1度の欧州議会選挙が行われる。欧州議会は、EUの政策を決定する立法機関で、日本の国会に相当する。EUにはこれとは別に、政策分野毎に加盟国の閣僚級の代表が集まって審議を行う閣僚理事会があり、欧州議会とともに共同で立法行為を担っている。かつての欧州議会は、加盟国を代表して各国議会から派遣された議員で構成され、諮問・監視機関という位置づけだった。だが、EUの政策領域が拡大され、民主的なコントロールが及ばないことが問題となり(民主主義の赤字)、1979年からはEU市民が直接選挙で議員を選出する形に改められた。現在では、EUの政策を決定するには、閣僚理事会と欧州議会の双方での合意が必要となる。

欧州議会の議席数の上限は議長を除いて750名と定められており、大まかな人口規模に基づいて加盟国に配分される。選挙は加盟国毎に行われるが、選出された議員は国の代表としてではなく、所属政党に基づく欧州議会内の政治会派の一員として活動する。中道右派の「欧州人民党」、中道左派の「社会民主進歩同盟」が二大会派を構成するが、最近では両会派で議会の多数派を構成するのが難しくなっている。欧州議会の会派構成がどうなるかは、EUの政策運営や主要人事を左右する。

資料1 欧州議会選挙の会派別予想獲得議席
資料1 欧州議会選挙の会派別予想獲得議席

移民・難民増加がポピュリストの追い風に

多くのEU市民にとって、欧州議会は国政や地方議会ほど身近な存在ではない。そのため、欧州議会選挙では政治的に明確な意思を持った有権者が投票所に向かう傾向があり、しばしばポピュリストの草刈り場となってきた。

ポピュリストの追い風となっているのが、物価高騰による生活困窮と、移民・難民の流入増加だ。EUが現在直面する最重要課題2つを尋ねた昨年秋の世論調査では、「移民」が「ウクライナでの戦争」と並んで最多の回答を占めた。現状に不満を抱える有権者の間では、失業、低賃金、公共サービスの質の低下などを、移民・難民の増加と結びつけて考える人が少なくない。2023年にEU域内で難民申請を行った庇護希望者は、2015~16年にシリア難民が欧州に押し寄せた難民危機時以来の100万人を突破した。しかも、この統計には個別の難民申請を必要としない600万人余りのウクライナからの避難民は含まれていない。

今回の選挙でも、フランスの極右政党が参加する極右会派「アイデンティティと民主主義」、ポーランドのナショナリスト政党が参加する保守会派「欧州保守改革」の躍進が予想されている。こうした勢力が議会の多数派となる可能性は低いが、主流派政党の政策が右傾化することを通じて、間接的にEUの政策運営に影響を及ぼす恐れがある。

資料2 EUが直面する最重要課題2つ(回答割合、%)
資料2 EUが直面する最重要課題2つ(回答割合、%)

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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