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ポルトガル総選挙で極右が躍進

~変わる政治図、難しさを増す政権運営~

田中 理

要旨
  • 10日のポルトガル総選挙は、極右政党シェーガが大幅に議席を伸ばし、中道左派と中道右派の両勢力が何れも過半数に届かなかった。社会民主党を中心とした中道右派が非多数派政権の樹立を目指しているが、長年の政敵である中道左派の社会党か、極端な政策を主張するシェーガの協力なしに法案成立はできない。政権運営が早晩行き詰まり、再選挙となる可能性もある。

4日付レポート「政治安定国ポルトガルにも極右の影」で指摘した通り、10日のポルトガル総選挙は、中道左派の与党・社会党(PS)と最大野党・社会民主党(PSD)を中心とした連立会派・民主アライアンス(AD)の二大勢力が大接戦となるなか、極右政党・シェーガが大幅に躍進した。開票率99.01%段階の集計結果では、社会党が改選前の120から77に議席を大幅に落とした一方、民主アライアンスが76から79に微増、シェーガが12から48と4倍増となった(図表1)。

(図表1)ポルトガル総選挙の結果
(図表1)ポルトガル総選挙の結果

何れの勢力も単独過半数(116議席)には届かず、それぞれの政治的な立場が近い少数政党が連立に加わったとしても、中道左派・中道右派勢力ともに100議席に満たない。選挙結果を受け、社会党のサンチェス書記長(党首)が敗北を認めた一方、PSDのモンテネグロ党首は非多数派政権の発足に意欲をみせている。レベロデソウザ大統領は12~20日にかけて主要政党党首と協議し、モンテネグロ氏に組閣を要請する公算が大きい。モンテネグロ氏はシェーガとの連立の可能性を否定しているが、主要政党との対話を模索するとしている。社会民主党内にはシェーガとの連立や閣外協力を受け入れるべきとの声も一部で浮上している。シェーガを率いるベントゥーラ氏は、連立への正式な参加を要求している。新議会は3月下旬から4月上旬にかけて招集されるとみられている。

(図表2)ポルトガルの民政移管後の政権
(図表2)ポルトガルの民政移管後の政権

ポルトガルでは1970年代の民政移管以降、社会党を中心とした中道左派勢力と、社会民主党を中心とした中道右派勢力が交代で政権を率いてきた(図表2)。両勢力の支持が拮抗しているため、非多数派政権となることも珍しくないが、100議席未満での政権運営は2009~11年にかけての社会党ソクラテス政権以外にない。法案毎に野党の協力を求めることになるが、中道右派勢力が非多数派政権を発足した場合、シェーガか社会党の何れかの協力なしに法案を成立させることはできない。汚職撲滅、議会定数削減、国境管理の強化、不法移民に対する厳しい法的措置、反イスラム、凶悪犯罪への終身刑適用、所得税率の一本化、福祉削減、小さな政府、EUの国家介入抑制など、シェーガが掲げる政策の一部を取り込む必要が出てくる。政権運営が行き詰まり、近い将来に再選挙が必要になる可能性もある。新議会の招集から6ヶ月間と、2026年1月に予定される大統領選挙の6ヶ月前は総選挙を行うことができない。社会党と社会民主党の二大政党が大連立を組んだのは、1983~85年のソアレス政権時代に一度だけある。シェーガの影響力を排除するため、今後、二大政党が手を組む可能性が浮上してくることも考えられる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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