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2023.09.28
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南ア中銀は商品市況や財政に起因するインフレリスクを警戒の模様
~インフレ再燃の懸念、財政悪化懸念に伴う長期金利上昇を受けて中銀は「タカ派」姿勢を強める~
西濵 徹
- 要旨
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- 南アフリカを巡っては、8月のBRICS首脳会議が注目されたが、ロシアのプーチン大統領がオンライン出席に留めたことで国際問題化する事態は回避された。他方、昨年は商品高と米ドル高を受けてインフレが昂進し、中銀は断続利上げを余儀なくされたため、慢性的な電力不足も重なり景気の足を引っ張った。年明け以降のインフレ鈍化を受けて、中銀は7月に1年半に及んだ利上げ局面を休止させたほか、今月22日の定例会合でも2会合連続で金利を据え置いている。ただし、先行きの政策運営を巡って食料やエネルギーなどでのインフレ再燃を警戒し、財政運営を注視する考えを示すなど「タカ派」姿勢を強めている。
- 中銀が財政運営を警戒する背景には、足下の景気が勢いの乏しい推移が続いていることがある。年明け以降の景気は底入れしているものの、インフレ鈍化にも拘らず雇用回復が遅れるなかで内需は弱含みするなか、公的需要への依存度を高めている。公的需要への依存度を高める背後で公的債務残高は拡大の動きを強めており、長期金利の上昇の動きは財政状況を一段と厳しくすることも予想される。11月に公表される中期財政計画の内容を巡っては、金融政策の行方に影響を与えることは避けられないと見込まれる。
このところの南アフリカを巡っては、8月に同国で開催されたBRICS首脳会議にロシアのプーチン大統領が出席するか否かに注目が集まった。これは、ウクライナ戦争を巡るICC(国際刑事裁判所)によるプーチン氏への逮捕状発布を受けて、仮にICCに加盟する同国に訪問すれば身柄を拘束される可能性があったことが影響している。しかし、最終的にプーチン氏はオンラインでの参加に留めたことでそうした事態は避けられるとともに、その後の対応が国際問題に発展することも避けられた。他方、ここ数年の同国経済は商品高を受けた世界的な石炭価格の高騰の一方、火力発電所の故障が相次ぎ発電能力が不足するなかで電力不足が深刻化しており、全土で計画停電が行われることで幅広い経済活動の足かせとなる状況が続いている。さらに、昨年以降は商品高、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ランド安に伴う輸入インフレ、コロナ禍の一巡による経済活動の正常化の動きも重なり、インフレ率は大きく上振れした。よって、中銀は一昨年末以降、物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされるなど、電力不足が経済活動の足かせとなるなかで、物価高と金利高の共存も景気の重石となる事態に直面してきた。なお、昨年末以降は商品高や米ドル高の動きが一巡するなどインフレ要因が後退したため、年明け以降のインフレ率は頭打ちの動きを強めるとともに、中銀目標の域内に回帰するなど落ち着きを取り戻している。よって、中銀は7月の定例会合において1年半に及んだ利上げ局面の終了に舵を切る一方(注1)、先行きの政策運営を巡っては慎重姿勢を崩さない考えを示している。事実、足下では主要産油国による自主減産に加え、農産物の輸出禁止の動きが広がるなかで商品市況が再び底入れの動きを強めているほか、国際金融市場における米ドル高の動きも再燃するなど、インフレを促す動きが顕在化している。こうした動きを反映して足下のインフレ率は依然として中銀目標に留まるものの、頭打ちが続いたインフレが底打ちに転じるなど物価を取り巻く環境に変化の兆しが出ている。よって、中銀は今月22日の定例会合において政策金利を2会合連続で据え置く決定を行う一方、同行のハニャホ総裁は足下のインフレ低下にも拘らず、財政運営を巡る問題を理由に国債利回りは上昇傾向を強めていることを念頭に「財政悪化懸念に伴いカントリーリスク・プレミアムが上昇しており、金融政策の引き締め度合いを判断する金利水準が引き上がっている」との見方を示すなど『タカ派』姿勢を強めている考えをみせている。さらに、物価動向を巡って食料インフレの行方に警戒する姿勢をみせるとともに、電力供給を巡る懸念を理由にエネルギー価格の上昇リスクもくすぶるとの見通しを示す。その上で、先行きの政策運営について「利下げを検討する前にインフレが目標レンジ(3~6%)の中央近傍に留まることを確認する必要がある」とした上で、財政運営の動向を注視する考えを改めて示している。
このように中銀が財政運営を警戒する背景には、上述したように慢性的な電力不足が足かせとなるなかで同国経済が勢いの乏しい展開が続いていることがある。昨年後半にかけては、電力不足に伴う計画停電の頻発が幅広い経済活動の足かせになるとともに、物価高と金利高の共存状態が家計消費をはじめとする内需の重石となったほか、中国の景気減速が外需を下押しするなど、内・外需双方で景気に急ブレーキが掛かる動きが顕在化した。一方、上述のように年明け以降のインフレ率は頭打ちの動きを強めているほか、インフラ関連をはじめとする公共投資の進捗の動きを反映して固定資本投資が押し上げられるとともに、政府消費も拡大の動きを強めており、景気は底入れしている。4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+2.44%と前期(同+1.64%)から2四半期連続のプラス成長で推移している上、中期的な基調を示す前年同期比ベースでも+1.6%と前期(同+0.2%)から伸びが加速しており、底入れの動きが確認されている。ただし、足下の成長率のペースは他の新興国と比較して勢いの乏しい状況が続いている上、実質GDPの水準はコロナ禍直前をわずかに上回る一方、昨年半ばに記録したコロナ禍後の最高水準をわずかに下回っており、こうしたことからも景気の勢いの乏しさを示している。さらに、足下においてはインフレ鈍化に伴い実質購買力に押し上げ圧力が掛かっているにも拘らず、家計消費は減少に転じるなど勢いを欠いており、経済活動の正常化が進むも依然として失業率は30%を上回るなど雇用の回復が遅れる展開が続いていることが影響している。分野ごとの生産動向を巡っても、計画停電の影響を受けにくい上、昨年発生した大洪水の影響が一巡したことも重なり農林漁業の生産が3四半期ぶりのプラス成長に転じているほか、電力不足にも拘らず鉱業部門や製造業の生産は底堅い動きをみせるなど、幅広い分野で堅調さが確認されている。ただし、4-6月については在庫投資による成長率寄与度が前期比年率ベースで+2.60ptと成長率(+2.44%)を上回る水準となるなど、在庫の積み上がりが成長率を大きく押し上げていることを勘案すれば、先行きについては在庫調整の動きが景気の足かせとなることが懸念される。そして、足下の景気が公的需要への依存度が高まる背後では、公的債務残高は拡大の動きを強めるなど財政状況は一段と悪化している様子が確認されており、上述のように長期金利が上昇の動きを強めていることも相俟って財政状況を巡る懸念が高まることも予想される。政府は11月に中期財政計画の公表を予定しているが、その内容に注目が集まるとともに、その内容如何では金融政策の行方にも影響を与えることは避けられないであろう。
注1 7月21日付レポート「南ア中銀、インフレの大幅鈍化も追い風に利上げ局面の「休止」決定」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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