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さよならベルルスコーニ

~連立政権の不安定化にはつながらない~

田中 理

要旨
  • 30年にわたってイタリア政界に君臨したベルルスコーニ元首相の死去は、同氏が旗揚げした中道右派政党「フォルツァ・イタリア」の更なる党勢低下につながろう。右派の連立政権は同党の協力なしに議会の過半数を確保することができないが、同党の離党者や支持者を取り込むことで、メローニ首相が率いる「イタリアの同胞」の政治基盤強化につながる可能性が高い。

実業家から政界に転身し、イタリア首相を4度にわたって務めたシルビオ・ベルルスコーニ氏が12日、86歳で死去した。若かりし頃はクルーズ船の歌い手でもあった同氏は、建設業で成功した後、テレビ、ラジオ、新聞社を次々と買収、メディア王として君臨。スポーツ界にも進出、イタリアのプロサッカーリーグ(セリエA)の名門ACミランを買収し、2017年までクラブ会長を務めた。1993年に政界に進出し、中道右派政党「フォルツァ・イタリア」を結党して僅か半年余りで、首相に就任。以後、中道右派を代表する政治家として、首相就任と退任を繰り返し、30年にわたってイタリア政界の中心人物であり続けた。破天荒な私生活や多くの疑惑でも知られ、脱税、贈収賄、少女売春などの容疑で数十件に及ぶ訴訟を抱えていた。2013年には脱税の罪が確定して公職を剥奪、社会奉仕活動への保護観察処分が下った後も、政党党首としての影響力を保持し続けた。 2022年に上院議員に復帰、最近では中道右派の中心政党の座をジョルジャ・メローニ首相が率いる「イタリアの同胞」に譲ったが、連立パートナーの一角として政権を支えていた。政治を自身のビジネスのために私物化したとの批判や、物議を醸す数々の発言、最近でもロシアのウラジミール・プーチン大統領との親密な関係が問題視されたが、政治感覚に長け、国民との距離を縮めることができる政治家であった。

最近では白血病を患って入退院を繰り返していたとされ、政治の表舞台に現れることはほとんどなくなっていたが、ベルルスコーニ氏の強力なリーダーシップと資金力がなくなったことで、フォルツァ・イタリアの更なる党勢低下や、分裂・解体の恐れがある。党の実質的なナンバー2は欧州議会議長も務めたアントニオ・タヤーニ外相だが、ベルルスコーニ氏のパートナーであったマルタ・ファッシーナ上院議員との間で、今後の政党の舵取りを巡って対立の火種を抱えているとされる。メローニ首相が率いる連立政権に加わるフォルツァ・イタリアは、定数206(うち6名は終身議員)の上院で18議席、定数400の下院で44議席を持ち、同党の協力がなくなると連立政権は上下両院で過半数を失う。もっとも、フォルツァ・イタリアが分裂や解体をしたとしても、他の中道右派政党や中道勢力に合流する可能性が高く、すぐさま政権運営が行き詰まる訳ではない。万が一、議会の過半数が確保できずに前倒しの総選挙となった場合も、右派の中心政党としての地位を固めたイタリアの同胞に有利に働くと考えられる。

以 上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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