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ジャンク債転落を免れたイタリア国債

~次の焦点は欧州委員会による予算案の評価~

田中 理

要旨
  • イタリア国債の格付け評価の見直しが終わり、主要格付け機関は何れも格下げを見送った。イタリア政府は9月末に従来よりも拡張的な予算案を発表したが、ムーディーズは17日、同国の国債格付けを投資適格級で最も低い「Baa3」に据え置くとともに、格付け見通しを「ネガティブ」から「安定的」に引き上げた。一連の格付け評価を乗り切ったことで、次の焦点は今週にも予想される欧州委員会によるイタリアの来年度予算案に対する評価に移る。政府の予算案では、政府債務の高止まりが続き、経済成長率の想定も甘い。過剰赤字手続き(EDP)に入るかどうかの最終判断は来春以降が想定されるが、何らかの是正措置を求められることになりそうだ。

格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは17日、イタリア国債の格付け評価を見直し、同国の自国通貨建て・外貨建て長期発行体格付けを投資適格級で最も低い「Baa3」に据え置くとともに、格付け見通し(格付けの中期的な方向性)を従来の「ネガティブ(格下げ方向)」から「ステーブル(安定的)」に変更した(表)。同社は格付け見通しを安定的に引き上げた理由として、経済状況、銀行の健全性、政府債務の動態に関する見通しが安定化したことを挙げている。政府が9月末に公表した新たな財政計画は、従来よりも財政赤字の拡大を見込むが、景気見通しの改善が財政の急激且つ大幅な悪化リスクを軽減すると説明している。同社によれば、向こう数年の経済成長率は、復興計画に基づく投資計画の実行、エネルギーの供給リスク後退、銀行のリスク・プロファイルの改善に支えられる。銀行の不良債権比率が低下し、収益性や貸出債権の質の改善が進み、資本バッファーが強化されているため、銀行救済費用が政府債務を圧迫するリスクは低下した。また、政府が8月に発表した銀行の超過利潤への課税方針は、納税の代わりに自己資本の増強に充てることも可能な形に修正され、多くの銀行が後者を選択したため、銀行収益に与える影響は軽微にとどまる。

同社はイタリアの国債格付けをBaa3格に据え置いた理由として、大規模且つ持続的な財政再建が政治的に困難であること、高い債務水準と借り入れコストの増加が債務の支払い能力を弱めることなどを挙げた。製造業部門の競争力、潤沢な家計資産、民間部門の負債の低さが物価高の悪影響を軽減するとともに、復興計画に盛り込まれた構造改革や投資計画の実行が潜在成長率の改善に寄与するが、高齢化の進展が経済を下押しし、財政状況の悪化につながるとしている。こうした格付け判断は、ファンダメンタルズを反映しない急激な金利上昇に直面した場合、欧州中央銀行(ECB)が昨年7月に導入した市場安定化策(TPI)など、利用可能なあらゆる手段で対応するとのコミットメントを考慮したものだ。今後、格付けを引き上げるには、想定を上回る持続的な経済成長により、債務が明確に低下する場合が考えられる。逆に格付けを引き下げるには、成長見通しの大幅な悪化、金利コストの更なる上昇、プライマリー収支の改善下振れ、地政学的なリスクの高まりなどで、債務が大幅に増加する場合が想定される。

今回のムーディーズの結果公表で、今局面での主要格付け機関によるイタリアの国債格付け評価の見直し作業は終了した。ムーディーズは主要格付け機関の中でイタリア国債の格付けを最も低く評価し、今回修正するまでは格付け見通しを「ネガティブ」としてきた。万が一、格下げされれば、イタリアの国債格付けは投機的な水準に転落し、同国の国債市場に動揺が広がる恐れがあった。一連の格付け評価を乗り切ったことで、次の焦点は今週にも予想される欧州委員会によるイタリアの来年度予算案に対する評価に移る。重大な財政規律違反の恐れがあるとして予算案の再提出を求めた2018年と異なり、欧州委員会は今回、イタリア政府が予算案を提出した直後に再提出を求めなかった。だが、政府の予算案では、財政赤字の縮小ペースは緩慢で、政府債務の高止まりが続き、経済成長率の想定も甘い。通常のスケジュールに従えば、「過剰赤字手続き(EDP)」に入るかどうかの最終判断は来年春に持ち越されそうだが、何らかの是正措置を求められることになりそうだ。

(表)南欧諸国の外貨建て長期国債格付け
(表)南欧諸国の外貨建て長期国債格付け

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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