中国は人口減少局面入り、短期では景気底入れ期待も、中長期では課題山積

~今年はスタートダッシュを切りやすい環境も、その後の中国経済には不透明感に繋がる材料が多い~

西濵 徹

要旨
  • 中国では昨年末以降、長きに亘り堅持されたゼロコロナ戦略が一転解除された。しかし、直後には大都市部を中心に感染爆発に陥り、企業マインドは幅広く悪化するなど景気が一段と下振れすることが懸念された。なお、10-12月の実質GDP成長率は前年比+2.9%と伸びが鈍化するも、前期比ではゼロ成長となるなどマイナス成長を免れた。ただし、統計の背後にある政策的意図を裏読みすれば「ゼロコロナ解除は間違っていない」とのメッセージが読み取れる一方、今年はスタートダッシュを切ることが出来る状況にあると判断出来る。
  • 12月単月の経済指標をみると、鉱工業生産は前年比+1.3%と伸びが鈍化するもエネルギー関連の堅調さが生産活動を下支えしている。また、固定資本投資も年初来前年比+5.1%と伸びは鈍化したが、単月ベースでは前年比+4.4%と伸びが加速しており、国有企業や公共投資が投資活動を下支えしている。他方、小売売上高(名目)は前年比▲1.8%とマイナスで推移しており、雇用悪化に歯止めが掛からず家計部門の財布の紐は固い展開が続く。コロナ禍が長期化するなかで中国経済は一段と「国進民退」色を強めていると言える。
  • 今年の経済成長率には+1.3ptとプラスのゲタが生じていると試算される上、ゼロコロナ規制の解除に伴う経済活動の正常化が進めば景気の底入れが進むと期待される。ただし、昨年はコロナ禍も影響して61年ぶりの人口減少に転じており、中長期的には潜在成長率の低下が避けられない。短期的にみれば中国景気の底入れは世界経済の追い風となると期待されるが、経済規模の大きさの一方で「灰色のサイ」と警戒される債務など構造問題を抱えるなか、中長期的には世界経済が中国の動向に大きく揺さぶられることになろう。

中国では、長きに亘って徹底した検査と隔離などの行動制限を実施する『ゼロコロナ』戦略に基づくコロナ禍対応が採られてきたが、当初においては早期の封じ込めに成功するとともに、逸早く深刻な景気減速からの立ち直りが図られた。その後、世界的にはワクチン接種の進展に伴い経済活動の正常化を進める『ウィズコロナ』戦略への転換が進んだものの、中国では引き続き強力な行動制限を伴う『動態ゼロコロナ』戦略が維持される対照的な状況が続いた。ただし、中国国内ではゼロコロナ戦略の長期化を受けて感染が再拡大する度に景気に下押し圧力が掛かるとともに、若年層を中心に雇用環境は悪化するなど国民の間に不満が蓄積する事態を招いた。結果、昨年11月に当局のコロナ禍対応を巡る抗議運動が活発化したほか、一部が政権や体制への批判に発展する異例の事態を招いたため、その後から地方レベルでコロナ規制が緩和される動きが広がった。さらに、12月初めには中国全土で公共の場における陰性証明が不要となるなどコロナ規制がほぼ全面的に解除されたものの、大都市部を中心に感染爆発状態になるとともに、当局が感染動向を把握することが困難になる事態に陥った。なお、こうした急激な戦略転換による感染爆発と、そうした事態を受けて多くの市民が行動を萎縮させたこともあり、12月の企業マインドは製造業のみならず、サービス業など幅広い分野で悪化するなど、当局の思惑に反して景気に急ブレーキが掛かる動きに繋がった(注1)。なお、足下においては北京や上海など戦略転換に伴い感染爆発に見舞われた大都市部においては、すでに感染動向のピークアウトが進んでいる上、経済活動の正常化を模索する動きが広がっている。その一方、医療インフラが脆弱な地方部においては医療ひっ迫が顕在化するなど対照的な動きがみられる上、今年は春節(旧正月)の連休が例年に比べて始まるなど、感染が収束する前に多くの人が移動する時期に突入することで感染動向が急速に悪化するリスクもくすぶる。こうした状況ではあるものの、同国政府は今月8日に海外からの入国時に課された隔離義務を撤廃して国境再開に動くなどゼロコロナ戦略は名実ともに終了しており、中国経済のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて世界経済にも悪影響が伝播してきた中国のゼロコロナ戦略は大きく転換している。その意味では、ここ数年は世界経済の足を引っ張る局面が続いた中国経済もいよいよ『ポストコロナ』に向けて大きく前進していることは間違いない。

昨年10-12月の実質GDP成長率は前年同期比+2.9%と前期(同+3.9%)から鈍化しているほか、前期比ベースでも+0.0%と前期(同+3.9%)から拡大ペースが鈍化してゼロ成長となるなど、昨年末にかけて景気に急ブレーキが掛かったことは間違いない。ただし、国家統計局が公表している企業マインドのうち、製造業と非製造業を併せた合成関数である総合PMIの値は10-12月における平均が46.2となるなど、直近において前期比マイナス成長(▲2.4%)となった4-6月(48.4)を下回ったにも拘らず、ゼロ成長に留まったことには違和感が拭えない。仮に中国のGDP統計が需要項目ベースで計算されているとすれば、昨年末にかけては世界経済の減速を受けて輸出に下押し圧力が掛かったものの、中国経済の減速に伴い輸入は輸出を上回るペースで減少しており、結果的に純輸出の成長率寄与度がプラスとなったなどの説明が可能となる。しかし、中国のGDP統計は供給サイドのみで計算されており、製造業や非製造業における生産活動は10-12月が4-6月を下回る水準で推移していることを勘案すれば、足下の統計の内容は極めて不透明と言わざるを得ない。業種別の内訳をみると、サービス業をはじめとする第3次産業のほか、製造業など第2次産業を中心に生産が低迷している一方、農林漁業や鉱業など第1次産業における生産の堅調さが足下の景気を下支えした様子がうかがえるなど、コロナ禍の影響を比較的受けにくい分野が寄与したと捉えることも出来る。中国の統計を巡っては、過去にもその内容に関する『ブラックボックス』的な状況を理由に疑念が呈されることが少なくなかったものの、こうした状況は改めて強まったと捉えられる。他方、中国の統計には当局の政策意図が強く反映されていると解釈した場合、10-12月は当局がコロナ規制を解除するなど思い切った政策転換を図ったにも拘らず『ゼロ成長』で済んだ、ということで「政策転換は間違いなかった」とのメッセージを国内外に与えたいと読み解くことも出来る。さらに、昨年通年の経済成長率は+3.0%と昨春に掲げた政府目標(5.5%前後)を大きく下回ったものの、コロナ禍による混乱にも拘らずプラス成長を維持したことで「終わり良ければすべて良し」と収めることも可能である上、今年の経済成長率を巡っては+1.3ptのプラスのゲタが生じると試算されるなど、スタートダッシュを図ることも容易となる。こうした状況を勘案すれば、「足下の中国経済はコロナ禍を巡る最悪期をいよいよ過ぎつつある」とのメッセージを打ち出したいと捉えることも出来る。

図表1
図表1

12月単月の統計の動きをみると、鉱工業生産は前年同月比+1.3%と前月(同+2.2%)から鈍化しており、昨年5月(同+0.7%)以来となる7ヶ月ぶりの低い伸びとなっている。前月比は+0.06%と前月(同▲0.31%)から2ヶ月ぶりの拡大に転じているものの、上述のように抗議運動の広がりを受ける形で幅広い生産活動に下押し圧力が掛かる直前の昨年10月の水準を下回るなど、頭打ちの様相を強めている。なお、10-12月で均したベースでは7-9月と比較して+0.6%上回ると試算されることから、生産活動の底堅さを背景に10-12月の実質GDP成長率は前期比でマイナス成長を回避することに繋がったと捉えることが出来る。分野別では、製造業の生産は頭打ちの動きを強めている上、これまで製造業の生産をけん引してきたハイテク関連の製造業の生産も大きく鈍化するなど弱含む動きをみせているものの、鉱業部門の生産に底堅さがうかがえるほか、冬場のエネルギー需要の高まりを反映してエネルギー関連の生産が大きく拡大しており、全体を押し上げた格好である。ハイテク関連の生産が弱含んでいることを反映して、財別の生産量を巡ってはマイコン(前年比▲18.9%)のほか、スマートフォン(同▲22.2%)をはじめとする携帯電話(同▲18.4%)、半導体(同▲7.1%)は軒並み前年を下回る推移が続いているほか、これらの生産に必要な工作機械(同▲11.7%)や産業用ロボット(同▲9.5%)も前年を下回る推移が続いている。他方、エネルギー関連の生産の堅調さを反映して発電量(前年比+3.0%)は前年を上回る伸びで推移している上、天然ガス(同+6.5%)やコークス(同+7.4%)、原油(同+2.5%)の生産は軒並み前年を上回る推移が続いている上、発電機(同+42.2%)の生産が大きく押し上げられる動きもみられる。また、当局によるコロナ規制が幅広い生産活動の足かせとなる状況においてはインフラ関連など公共投資の堅調さが景気を下支えする展開が続いたものの、粗鋼(前年比▲9.8%)やセメント(同▲12.3%)、板ガラス(同▲6.3%)などインフラに関連する財の生産は軒並み下振れしており、一転して景気の足かせとなっていると捉えられる。

図表2
図表2

また、コロナ禍の再燃により景気に下押し圧力が掛かるなかでも、インフラ関連などをはじめとする公共投資の進捗が景気を下支えする展開が続いてきたなか、12月の固定資本投資は年初来前年比+5.1%と前月(同+5.3%)から伸びが鈍化している。ただし、12月単月ベースの前年同月比では+4.4%と前月(同+0.3%)から伸びが加速したと試算されるほか、前月比も+0.49%と前月(同▲0.54%)から2ヶ月ぶりの拡大に転じるなど底打ちしている。さらに、10-12月で均したベースでも7-9月と比較して+0.4%上回ると試算されるなど、生産活動のみならず、固定資本投資の動きも足下の景気を下支えしていると捉えられる。実施主体別では、国営企業(年初来前年比+10.1%)が引き続き全体を大きく上回る伸びが続く一方、民間投資(同+0.9%)は対照的な動きをみせており、分野別でも電気機械製造関連(同+42.6%)や化学原料・化学製品製造関連(同+18.8%)、計算機・通信機器製造関連(同+18.8%)のほか、一般設備製造関連(同+14.8%)や特殊設備製造関連(同+12.1%)など、当局が掲げる『中国製造2025』をはじめとする政策支援の対象分野を中心に投資が堅調な推移をみせている様子もうかがえる。他方、コロナ禍を受けた住宅需要の低迷に加え、一昨年の金融市場の混乱をきっかけにした資金繰り懸念をきっかけに不動産投資は下振れする展開が続いているものの、12月は年初来前年比▲10.0%と前年を下回る推移が続いている上、前月(同▲9.8%)からマイナス幅も拡大している。単月ベースの前年同月比の伸びは▲13.8%と前月(同▲21.7%)からマイナス幅は縮小したと試算される一方、前月比は10ヶ月連続で減少している上に減少ペースも加速するなど頭打ちの動きを強めていると試算されるなど、不動産市場を取り巻く状況は依然として厳しい。事実、12月の主要70都市の新築住宅価格は前月比▲0.2%と5ヶ月連続で下落しているほか、前月比で下落している都市数は55と全体の8割弱に上るなど、コロナ規制の解除にも拘らず不動産需要は回復にほど遠い状況にある。その意味では、足下の中国景気は公的需要に大きく依存する傾向が強まっていると判断出来る。

図表3
図表3

一方、当局によるゼロコロナ政策の長期化は雇用環境の悪化を招くとともに、家計部門の財布の紐を固くするなど家計消費に悪影響を与えてきたなか、12月の小売売上高(名目ベース)は▲1.8%と3ヶ月連続で前年を下回る推移が続くも、前月(同▲5.9%)からマイナス幅は縮小するなど底打ちしている。なお、商品高による世界的なインフレの動きは中国国内においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招く動きがみられるなか(注2)、その影響を除いた実質ベースでも12月は前年同月比▲3.8%と4ヶ月連続で前年を下回る伸びが続くも、前月(同▲7.7%)からマイナス幅は縮小している。ただし、前月比は▲0.14%と前月(同▲0.08%)から3ヶ月連続で減少しており、前月は大手EC(電子商取引)サイトによる大規模セール(双十一)の実施を受けてECを通じた消費が押し上げられており、その反動が出ている可能性に留意する必要はあるものの、頭打ちの動きが続くなど力強さの乏しい展開をみせている。補助金や減税など需要喚起策を追い風に新エネルギー車を中心とする自動車(前年比+4.6%)の売上は押し上げられる一方、自動車を除いたベースでは同▲2.6%と前年を下回る推移が続いており、宝飾品(同▲18.4%)や家電製品(同▲13.1%)、建材(同▲8.9%)など高額品や耐久消費財に対する需要が弱含む動きが続いているほか、化粧品(同▲19.3%)や衣類(同▲12.5%)など日用品に対する需要も幅広く低迷するなど、雇用環境が厳しさを増すなかで家計部門の財布の紐は固い状況が続いている。国家統計局は足下の雇用情勢について「概ね安定している」との見方を示しているものの、足下の企業マインドの動きは雇用調整圧力の根強さを示唆する展開が続いているほか、雇用回復の動きは実体経済の動きに対して遅れる傾向があることを勘案すれば、家計消費の回復には時間を要する可能性が高いと見込まれる。

図表4
図表4

なお、統計公表に際して記者会見に臨んだ国家統計局の康義局長は、先行きの景気動向について「今年の景気は改善が見込まれる」との見通しを示した上で、「インフレを巡って良い状況が見込まれるなかでマクロ政策の余地があり、消費回復に自信を持っている」とともに「投資拡大に向けて大きな潜在力がある」との認識を示した。その上で、昨年の同国経済を巡っては不動産投資の低迷が重石となってきたものの、先行きについては「今年は昨年ほどに悪影響が長引く事態は想定していない」との見方を示しており、当局が期限付きで実施した住宅ローン金利の下限撤廃の恒久化など不動産需要の喚起策に動いていることを念頭に置いたものと捉えられる。また、物価動向を巡っては「いわゆる『洪水のような』喚起策を実施して来なかったことで局所的な上昇に抑えられている」との認識を示した上で、先行きについても「急上昇する素地はない」との見方を示すなど物価安定も追い風に家計消費が押し上げられるとの見方を示している。ただし、足下の消費者物価が他国に比べて落ち着いた推移をみせているのは、当局が企業部門に対して商品高によるインフレの影響を軽減すべく商品価格への転嫁を事実上禁止したことが影響しており、その背後で企業部門は収益が圧迫されるなど厳しい状況に直面してきた。仮に当局が今後もこうした対応を続ければ、物価上昇や景気底入れ期待を負い風に金利上昇圧力が強まるなかで企業部門にとっては資金調達環境の悪化に晒されるリスクも高まることが予想される。また、昨年末時点における人口は14.12億人と前年末から約85万人減少しており、同国で人口が減少するのは大躍進運動による人口減に見舞われた1961年以来の61年ぶりのことであり、コロナ禍の余波で出生数が956万人(前年比▲106万人)と減少する一方で死亡者数は1, 041万人(同+27万人)と増加したことが影響している。当局は一昨年に『三人っ子政策』に舵を切るなど、急速な少子高齢化に伴う人口動態の変化に危機感を示す動きをみせているものの(注3)、コロナ規制の長期化に加え、都市部を中心とするライフスタイルの変化なども影響して出生数の減少に歯止めが掛からない状況が続いており、中長期的な観点から潜在成長率の低下が避けられなくなりつつある。ここ数年の中国においては、企業部門を中心とする債務が経済規模に対して過大であることに対して『灰色のサイ』と警戒する向きがあるが、潜在成長率の低下に伴い経済成長の余力が低下すれば経済規模に対する比率が急拡大していく可能性も考えられる。さらに、人口減少に歯止めが掛けられない展開が続けば家計消費をはじめとする内需拡大期待も雲散霧消するとともに、将来的には過剰投資が幅広い経済活動の足かせとなり得ることも予想される。短期的にみれば、ゼロコロナ解除による反動も影響して中国景気の底入れが期待されることは世界経済にとっても追い風になることが期待出来る一方、その経済規模の大きさや世界経済が中国経済におんぶに抱っこの展開が続いてきたことを勘案すれば、中長期的はその景気減速に足を引っ張られる可能性にも注意が必要になる。

図表5
図表5

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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