台湾、与党・民進党主席に次期総統選の「本命」、頼清徳氏が就任

~次期総統選に向けて党勢立て直しが急務も、支持率低迷が続くなかで荒波のなかの船出に~

西濵 徹

要旨
  • 台湾では15日、与党・民進党の党主席選が実施された。同党は昨年11月の統一地方選で大敗し、蔡総統が兼務した党主席の辞任に追い込まれ、今回の党主席選は来年1月の次期総統選の候補者選びの様相が強まった。なお、主席選には副総統で次期総統選の「本命」とされる頼清徳氏のみが出馬し、事実上の信任投票となったが、圧倒的な得票率で当選した。ただし、統一地方選以降も民進党は選挙で敗北が続くなど党勢の立て直しが急務となる上、直近の世論調査では野党・国民党の後塵を拝するなど次期総統選の行方は混とんとしている。台湾独立志向が強い頼氏の党主席就任で中国本土が反発を強めることは必至であり、内政面では「上から目線」批判を払しょく出来るか否かがポイントとなる。台湾は米中対立の最前線となるなか、次期総統選や立法院選の行方は東シナ海情勢を巡って日本にも影響を与えるなど無視し得ない。

台湾では15日、蔡英文政権を支える与党・民主進歩党(民進党)の党主席(党首)選挙が実施された。民進党を巡っては、昨年11月に実施された統一地方選挙において大敗を喫した結果、蔡総統は兼務していた主席ポストの辞任に追い込まれたほか(注1)、現行憲法において来年1月に実施される次期総統選に蔡氏が出馬出来ないなか、今回の主席選挙は次期総統選挙の候補者探しの意味合いが強まった。なお、同党が統一地方選で大敗を喫した背景には、国境再開による経済活動の正常化を進める背後でワクチン確保の遅れが影響してコロナ禍を巡る状況が急激に悪化したほか、昨年8月に当時のペロシ米連邦議会下院議長による訪台を契機に中国本土が経済制裁を発動して景気に下押し圧力が掛かり(注2)、親中路線を掲げる最大野党・国民党が攻勢を掛けたことが影響している。さらに、このところの民進党は若年層や中間層による支持離れが顕著になる動きがみられ、その理由として『上から目線』といった言葉で公然と批判されていることにも現れている。その後も、先月に実施された南西部の嘉義市長選に加え、今月に台北市で実施された立法委員(国会議員)の補欠選挙においても民進党は敗北が続いており、党勢の立て直しが急務となっている。こうしたなか、党主席選には次期総統選における民進党候補の『本命』とみられる上、副総統を務める頼清徳氏のみが出馬したことから、事実上の頼氏に対する信任投票の意味合いが強まった。党主席選は約24万人の党員投票により実施されたものの、投票率は17.59%と極めて低水準に留まる一方、頼氏の得票率は99.65%に達するなど信認を受けたことで次期総統選に向けて本命候補が順当に決定した格好である。ただし、民進党を巡ってはクリーンなイメージが強い蔡氏の人気に大きく支えられるとともに、党内の結束が促されてきた傾向が強い一方、頼氏は医師出身で、台南市長や行政院長(首相)などを歴任した実力派政治家として党内では蔡氏に次ぐ知名度、及び人気を有するも、十分な存在感を示すことが出来ない状況が続いてきた。こうした状況は、先月実施された世論調査において頼氏の支持率が国民党候補として出馬が取り沙汰される新北市長の侯友宜氏を下回ったほか、政党支持率も国民党が民進党をわずかに上回る結果となるなど、次期総統選の行方は極めて混とんとしている。なお、頼氏は過去に台湾独立を強く主張してきた経緯があり、副総統に就任して以降は現状維持路線を志向してきた蔡氏と歩調を併せる形でトーンを抑える動きをみせているものの、今後は次期総統選に向けて中国本土が台湾、及び与党・民進党に対する反発を強めることが予想される。その一方、国民党は次期総統選を意識する形で親中姿勢を薄めることにより支持の拡大を目指す動きを活発化させており、対中強硬路線が民進党に対する支持拡大に繋がりにくくなるなか、このところの支持率低迷を招いている『上から目線』の脱却に加え、若年層や中間層が直面する低賃金や少子化対策などといった事態の打開に道筋を付けられるかが課題となる。とはいえ、台湾は米中対立の『最前線』となっている上、今後の台湾を巡る状況は東シナ海を巡って日本にも無視し得ないものであるだけに、次期総統選、及び立法院選挙の動向にこれまで以上に注視する必要性は高まっている。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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