インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国・1月物価は春節要因で鈍化も、「K字型」景気を反映している

~反内巻の効果は着実に現れるも内需は「K字型」の様相、人民元相場の動きに引き続き要注意~

西濵 徹

要旨
  • 2025年の中国経済は成長率+5.0%と政府目標を達成した。米国以外向け輸出の拡大と実質的な人民元安が外需を押し上げた。一方、不動産不況や雇用回復の遅れから内需は低迷している。供給サイドが主導となる形での成長が続くなか、過剰生産能力は解消されず、外需依存が強まる展開が続くであろう。
  • 過剰生産能力を背景とする過当競争(内巻)が企業収益や雇用を圧迫し、デフレ圧力を強めている。これを受けて当局は「反内巻」を推進。商品市況の上昇と価格転嫁の進展により、生産者物価は前年比▲1.4%と依然マイナスながらもマイナス幅は縮小しており、川上から川下へと物価上昇の動きが伝播している。
  • 家計部門では雇用不安が続く一方、生活必需品価格の上昇に直面している。消費者物価は春節要因で前年比+0.2%と伸びが鈍化したが、コア物価は同+0.8%と底堅く、消費財を中心に価格転嫁が進む動きがみられる。ただし、サービス価格の上昇は限定的で、個人消費は「K字型」の格差構造を強めている。
  • 中国人民銀行は供給が強く需要が弱い状況を認め、内需支援を強化する姿勢を示しているが、政策運営は難しい局面にある。人民元は対ドルで上昇しているものの、当局が過度な元高を容認する可能性は低く、今後は逆周期・跨周期調整の名目で実質的な元安誘導が行われる可能性には注意が必要である。

2025年の中国の経済成長率は+5.0%となり、当局が全人代(第14期全国人民代表大会第3回全体会議)で定めた成長率目標(5%前後)を達成した。この背景には、中国当局が米中摩擦の激化を念頭に、米国以外の国・地域向け輸出の拡大を目指したことがある。さらに、2025年前半の人民元を巡っては、主要貿易相手国通貨を加味した通貨バスケット(CFETS人民元指数)は下落するなど実質的な人民元安がつづいて輸出競争力の向上につながった。こうした動きも追い風に、米国以外の国・地域向け輸出の拡大は対米輸出の減少の影響を相殺しており、輸出額全体では前年比+5.5%と拡大している。その一方、不動産不況の長期化に加え、若年層を中心とする雇用回復の遅れも重なり、個人消費をはじめとする内需は力強さを欠いている。このように中国経済は外需への依存を強めていると捉えられる。こうした状況ではあるものの、中国のGDP統計は供給サイドの統計で構成されており、需要動向との連動性は相対的に弱い。鉱工業生産が一貫して拡大していることを反映してGDPは拡大が続いている。なお、中国国内においては過剰生産能力による供給過剰状態が続いており、習近平指導部はこの解消に向けた取り組みを推進している。しかし、習近平指導部が掲げる「新質生産力(新たな質の生産力)」のスローガンに基づく支援も追い風に更新投資は活発化しており、中国国内の過剰生産能力は解消にほど遠い状況にある。この背景には、習近平指導部が中長期的な中国の「製造業強国」化を目指しているうえ、共産党体制の維持による国家の安定を重視していることが影響している。外需を取り巻く環境については、2025年10月の米中首脳会談を経て両国関係は改善に向かうなど、対米輸出へのハードルは低下しており、外需への依存を一段と強めやすい状況にある。金融市場においては、米ドル安が意識される局面が続くなかで人民元の対ドル相場は2年半ぶりの高値で推移しているものの、通貨バスケットは前年に比べて低水準で推移していることも外需にとってはプラス要因となる。したがって、来月開催予定の全人代(第14期全国人民代表大会第4回全体会議)において、中国当局は2026年の成長率目標を比較的高水準に設定すると見込まれる。とはいえ、需要サイドは国内外に不透明要因が山積しており、供給サイドをけん引役にしたバランスを欠く推移が続く可能性は高いと見込まれる。

図表
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中国国内においては過剰生産能力を背景とする過当競争(内巻:ネイジュアン)が企業業績を圧迫するとともに雇用調整圧力を招いており、デフレ圧力を増幅させるなど社会問題化している。よって、中国当局は2025年後半以降、「反内巻」の取り組みを強化するなどデフレ圧力の解消を目指している。こうしたなか、企業部門は企業間取引を中心に、商品市況の上昇を製品価格に転嫁する動きが広がっている。1月の生産者物価(調達価格)は前年同月比▲1.4%とマイナスで推移しているものの、前月(同▲2.1%)からマイナス幅は一段と縮小して17ヶ月ぶりの水準となるなど底入れが進んでいる。前月比も+0.5%と5ヶ月連続で上昇、前月(同+0.4%)から加速した。非鉄金属関連を中心とする国際商品市況の上昇の動きを反映するとともに、価格転嫁の動きが影響して半製品関連でも価格が上昇する動きが確認されている。原材料価格の上昇を製品価格に転嫁する動きを受けて、生産者物価(出荷価格)も前年同月比▲1.4%とマイナスで推移するも、前月(同▲1.9%)からマイナス幅が一段と縮小して18ヶ月ぶりの水準となっている。前月比も+0.4%と4ヶ月連続で上昇、前月(同+0.2%)からも加速しており、川上段階から川中、川下にかけて物価上昇圧力が徐々に高まっている。出荷価格の動きをみると、耐久消費財で物価上昇の動きが確認されるなど着実に川下段階に価格転嫁の影響が出ている様子がうかがえる。

図表
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家計部門を巡っては、前述のように若年層を中心とする雇用不安が続く一方、食料品など生活必需品を中心とする物価上昇に直面している。さらに、企業部門において価格転嫁の動きが広がりをみせており、幅広く物価上昇圧力が高まる可能性が出ている。こうしたなか、1月の消費者物価は前年同月比+0.2%と前月(同+0.8%)から伸びが鈍化した。ただし、これは今年の春節(旧正月)の時期が昨年に比べて大きく後ずれしたことで押し下げられていることに留意する必要がある。前月比は+0.4%と前月(同+0.8%)からペースは鈍化しており、生鮮品を中心とする食料品価格上昇の動きに一服感が出ているほか、国際原油価格の調整によりエネルギー価格も下落基調が続くなど、生活必需品を中心にインフレ圧力が後退していることが影響している。しかし、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率も、1月は前年同月比+0.8%と前月(同+1.2%)から鈍化しており、春節の時期のズレが影響しているものの、インフレ率を上回る伸びが続く。前月比は+0.3%と2ヶ月連続で上昇するとともに、前月(同+0.2%)からペースが加速しており、価格転嫁の動きを受けて家電製品のほか、日用品関連など消費財で物価が上昇する動きがみられる。さらに、一部のサービス物価で上昇圧力が強まる動きがみられるものの、雇用調整圧力がくすぶるなかで全体としてのサービス物価の上昇ペースは抑制されており、賃金動向を巡って業種ごとのばらつきがこれまで以上に鮮明になっている可能性がある。足元の中国の個人消費を巡っては、全体として伸び悩んでいるものの、所得階層ごとにバラつきが鮮明になるなど「K字型」の様相を強めているとされるなか、物価の動きはそうした状況を反映していると考えられる。

図表
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中国人民銀行(中銀)は10日に公表した最新の金融政策報告において、足元の中国経済について、マクロ経済は安定しているものの、供給は強い一方で需要が弱いという課題に直面していると指摘している。その上で、金融機関による内需支援の強化や民間資本による消費や投資の拡大に向けた取り組みを指導するとともに、経済成長の安定化を図るべく、サービス消費の拡大に向けて一段の金融資源を投入するとの考えを示している。金融政策を巡っては、安定した経済成長と物価の適正な回復の推進が重要としたうえで、政策実施の度合いやペース、タイミングを慎重に判断するとの考えをみせた。これを受けて、金融市場においては人民銀が早晩さらなる金融緩和に動くとの観測が広がっているものの、足元の中国経済や内需を巡る動きはばらつきを強めるなかでその舵取りは難しさを増している。さらに、中国当局が国内の一部大手銀行に対して、米国債の保有を抑制するよう促しているとの報道をきっかけに、金融市場においては米ドル安が意識される形で人民元の対ドル相場は上昇の動きを強めている。なお、報道ではこの動きについて、資産集中や急激な価格変動によるリスク軽減を目的としたものであり、地政学リスクを巡る駆け引きではないとしている。2025年後半以降の人民元は実質的に上昇基調を強めてきたなか、先行きは全体としての外需のハードルが高まっていることに鑑みれば、中国当局が外需の足を引っ張る過度な人民元高を容認するとは見通しにくい。よって、先行きはカウンターシクリカル(逆周期)とクロスシクリカル(跨周期)の調整強化を称する形で事実上の人民元安誘導を図る可能性には引き続き注意が必要と考える。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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