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米中間選挙、「赤い波」はさざ波に終わる

~民主党善戦も政策停滞は避けられず~

田中 理

要旨
  • 共和党優勢が伝えられた米国の中間選挙は、共和党が下院の多数派を奪還したものの、民主党が予想以上に善戦し、上院の多数派の行方は接戦州の結果に委ねられる。結果確定は12月初旬のジョージア州の決選投票までずれ込む可能性がある。歴史的な物価高の逆風が吹くなか、人口妊娠中絶の最高裁判決や共和党優勢の世論調査を受け、若年層や女性無党派層の投票率が上昇したことが民主党の追い風となった。

  • 上下両院を共和党が制した場合も、共和党主導の法案に大統領が拒否権を発動することが予想される。また、上院と下院で多数派が食い違う「ねじれ議会」となった場合も、超党派での合意が得られる一部の政策分野を除けば、政策停滞と議会の機能不全が避けられない。ねじれ議会となった場合、つなぎ予算失効による政府部門の閉鎖リスクや、債務上限の引き上げ難航による米国債の格下げリスクなどが意識される恐れがある。

4年に1度の米大統領選挙の折り返し地点で行われる中間選挙が8日に行われた。今回の選挙は、2020年に共和党から政権を奪取した民主党バイデン大統領の政権運営に対する有権者の審判の場であると同時に、復権の機会を窺う共和党トランプ前大統領の人気を占う場でもあり、2024年大統領選挙の前哨戦と位置づけられる。一般に大統領選挙に比べて投票率が低くなりがちな中間選挙は、現職大統領の所属政党に不利な結果となる傾向がある。約40年振りの物価高が米国市民を襲うなか、共和党は選挙戦を通じてバイデン政権の失政が物価高を招いたと非難、バイデン大統領の人気低迷も重なり、事前の世論調査では民主党の苦戦が伝えられた。

最終的な投票結果は引き続き流動的だが、共和党が4年振りに下院の多数派を奪還したとみられるものの、上院の多数派の行方は接戦州の結果に委ねられる。上院は民主党が48議席、共和党が49議席を固めたが、残るアリゾナ、ジョージア、ネバダの結果が確定していない。可否同数の場合の決定票を持つハリス副大統領(上院議長を兼務)を含めれば、残る3州のうち2州を制した方が上院の過半数を確保する。接戦のアリゾナでは民主・共和候補の得票率の差が0.5%ポイント未満にとどまる可能性があり、その場合、自動的に再集計が必要となり、結果の確定に時間が掛かる。ジョージア州は50%以上の得票率を得た候補がいない模様で、州法の決まりにより、民主・共和の両候補による決選投票が12月6日に行われる。ネバダでは勝敗を左右する郵送投票の集計に時間が掛かっている。アリゾナ、ネバダの2州を民主・共和のどちらか一方が取れば、その時点で共和党の多数派が確定するが、そうでなければ結果確定は12月初旬にずれ込む。

民主党の予想以上の善戦は、人口妊娠中絶を決定する権利を州議会に委ねた最高裁判所の6月の判決が波紋を広げたことと、事前の世論調査で共和党の優勢が伝えられことを受け、若年層や女性無党派層などが危機感を募らせ、投票所に足を運んだことが影響した模様。郵便投票や期日前投票の利用拡大の影響もあるが、中間選挙の投票率としては、過去100年で最も高かった前回2018年の選挙を上回った可能性がある。投票結果を受け、記者会見に臨んだバイデン大統領は、2024年の大統領選挙への再出馬の意向を示唆、来年の早い時期に最終的に決定する方針を明かした。中間選挙での共和党の勝利を追い風に、15日にも大統領選挙への再出馬を表明することを仄めかしていた共和党のトランプ前大統領にとっては誤算となった。トランプ前大統領が支持した共和党候補の多くは当選したが、激戦区のペンシルバニアではトランプ派の候補が落選した。フロリダ州知事選を制したデサンティス氏が有力な対立候補となる。

共和党が上下両院を制するとの見方が優勢だったことを受け、共和党主導の法案が通りやすくなり、バイデン政権が進めてきた企業や富裕層向けの増税、大規模な歳出拡大、気候変動対策の強化などの方針が覆り、インフレが抑制されるとの期待から、投票前には米国の株式市場で株高が進み、外国為替市場でドル高・円安の動きが一服していた。共和党の勢いがそこまでではなかったことを受け、そうした期待が剥落し、10日に発表される10月の消費者物価を警戒し、米株安とドル高が進んでいる。

最終的な結果が確定し、上下両院を共和党が制した場合も、共和党主導の法案に大統領が拒否権を発動することが予想される。また、上院(民主党)と下院(共和党)で多数派が食い違う「ねじれ議会」となった場合も、超党派での合意が得られる一部の政策分野を除けば、政策停滞と議会の機能不全が避けられない。中間選挙の結果を踏まえた新議会が発足するのは、来年1月3日で、それまでは現在の議会構成のままでレームダック・セッションが続くことになる。12月16日に失効する連邦政府の「つなぎ予算」は一旦延長されるとみられるが、ねじれ議会となった場合、次につなぎ予算が失効するタイミングで、政府部門の閉鎖リスクが再浮上しよう。また、様々な緊急避難措置を講じたとしても、来年後半には連邦政府債務が法定上限に達する公算が大きい。ねじれ議会となった場合、米国債の格下げや米国の債務不履行リスクが意識される可能性がある。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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