内外経済ウォッチ『米国~利下げ後ずれ観測が年央利下げを実現か~』(2024年5月号)

桂畑 誠治

目次

FRBは24年インフレ上振れも利下げ適切と予想

FOMC参加者による最新の経済・金利予測(24年3月公表)では、24年末の適切な政策金利(予想の中央値)は、年3回の利下げを示す水準に維持された。予想の内訳は、19人中10人の参加者が年3回の利下げ、9人(据え置き2人を含む)が年2回以下と拮抗している。それでも、24年10-12月期の実質GDP予測が前年同期比+2.1%(前回+1.4%)、PCEコアデフレーター予測が前年同期比+2.6%(前回+2.4%)と上方シフトしたにもかかわらず、19人中17人が24年の利下げを予想しており、利下げのハードルが引き下げられたようだ。

資料1 FOMC参加者の経済金利予測:24年3月(前回23年12月)
資料1 FOMC参加者の経済金利予測:24年3月(前回23年12月)

経済・労働市場は足元で好調を維持

23年10-12月期の実質GDP成長率(3次推計)は個人消費主導で前期比年率+3.4%(前期同+4.9%)と高い成長を維持した。1-3月期のISM景気指数では、製造業が49.1と10-12月期の46.9を上回ったほか、非製造業が52.5と10-12月期の51.6を上回って加速しており、1-3月期も景気は堅調さを維持した。

労働市場では、3月の非農業部門雇用者数が前月差+30.3万人(前月同+27.0万人)と加速した。また、6ヵ月移動平均で前月差+24.4万人(前月同+23.5万人)と加速し、中期的にも堅調な増加ペースを維持した。失業率は3.7%(前月3.8%)と自然失業率と推測される4.1%を下回ったままである。他方、1、2月にコアインフレの上昇モメンタムは再び強まった。これらは最新のFOMC経済予測に概ね沿った動きと考えられる。

金融環境の引き締まりで需要鈍化、物価低下へ

しかし、金融市場では、米国経済が堅調さを維持するなか、24年1、2月のインフレが上振れたこともあり、FRBによる利下げ開始が9月頃に後ずれするとの見方を強めた。現在の米国経済は、金融環境の引き締まりによる需要抑制が必要な状況であり、利下げ期待の後ずれによる市場金利の上昇、株価の調整が続けば、経済活動を抑制する一因となろう。最新のFOMC経済予測よりも経済成長が弱まり、コアインフレの低下圧力を強めるとみられる。

PCEコアデフレーターは2月に前年同月比+2.8%と2%のインフレ目標を大幅に上回っているが、FOMC参加者の24年10-12月期予想の+2.6%に向けて低下を続けている。3月の平均時給が前年比+4.1%(前月+4.4%)と高いながらも低下傾向を維持しており、住宅関連とエネルギーを除いたサービス価格の低下を示唆しているほか、金融環境の引き締まりによる需要の鈍化を受けて、コアインフレの低下が継続するとみられる。

FRBは、現在の政策金利の水準は引き締め的と判断しており、コアインフレの低下に伴う実質金利上昇による景気悪化を回避するため、6月にも段階的な利下げ政策を開始すると見込まれる。

資料2 個人消費デフレーター(前年同月比)
資料2 個人消費デフレーター(前年同月比)

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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