インドネシア中銀、外部環境は悪化も、景気の不透明感を意識して緩和維持

~商品高による物価上昇、市場環境変化によるルピア安も、中銀はあくまで景気下支えを継続~

西濵 徹

要旨
  • 足下の国際金融市場では、世界経済の回復が続くなかでウクライナ情勢の悪化を受けて国際商品市況は上振れしており、主要国中銀はタカ派傾斜を強めるなど新興国を取り巻く状況は変化している。経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国では資金流出の動きが加速するなか、インドネシアにおいてはそうしたリスクが意識されやすい状況にある。低調な推移が続いたインフレは加速している上、足下では中国景気の減速懸念など内・外需双方で景気に対する不透明感が高まる動きもみられる。コロナ禍対応を目的に中銀は事実上の財政ファイナンスに動いたが、3月から預金準備率の段階的引き上げを決定するなど正常化を模索してきた。しかし、景気に対する不透明感が高まるなか、中銀は24日の定例会合でも政策金利を据え置く決定を行った。世界経済に対する見方を下方修正する一方で同国経済には楽観的な見方を維持しており、現行の緩和姿勢の維持による景気下支えを重視している。ただし、外部環境は厳しさを増していることを勘案すれば、物価及び為替の安定に向けて金融政策は早晩引き締め方向へのシフトを余儀なくされるであろう。

足下の国際金融市場においては、欧米など主要国を中心に世界経済はコロナ禍からの回復が続く一方、ウクライナ情勢の悪化を受けた供給不安に伴い幅広く国際商品市況は上振れしており、全世界的にインフレが警戒される状況にある。こうしたなか、米FRB(連邦準備制度理事会)をはじめとする主要国中銀は軒並みタカ派傾斜を強めており、コロナ禍を経た全世界的な金融緩和による『カネ余り』の手仕舞いが着実に進む動きがみられる。こうした金融市場を取り巻く環境の変化は、全世界的なカネ余りに加え、主要国の金利低下も重なり、より高い収益を求めて一部のマネーが新興国に回帰してきた流れを変えており、なかでも経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱な国では資金流出が活発化することが懸念される。インドネシアは慢性的な経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』を抱えている上、過去にはインフレも常態化しており、2013年に当時の米FRBのバーナンキ元議長による量的緩和政策の縮小を示唆する発言を契機とする国際金融市場の動揺(テーパー・タントラム)では、資金流出の動きが集中した5ヶ国(フラジャイル・ファイブ)の一角となった経緯がある。他方、過去数年に亘ってインドネシアのインフレ率は中銀の定めるインフレ目標を下回る推移が続いてきたほか、一昨年来のコロナ禍を受けて一段と下振れしており、上述のように世界的にインフレ圧力が強まるなかで一部の新興国ではインフレが加速しているものの、インドネシアは対照的な動きをみせてきた。さらに、国際商品市況の上振れを追い風に貿易収支は黒字基調を維持しているほか、歳入増を受けて財政動向も良好さを維持するなど、インドネシア経済のファンダメンタルズは改善が期待された。よって、上述のような国際金融市場の環境変化を受けて、新興国においては資金流出が加速する動きがみられたものの、インドネシアの通貨ルピア相場は当局による為替介入などの安定化策も追い風に比較的落ち着いた推移をみせてきた。なお、金融市場の環境変化が一段と意識された先月半ば以降については、ラマダン(断食月)明けの長期休暇に伴い金融市場が休場であったことも重なり、ルピア相場は他の新興国通貨と比べて相対的に落ち着いた動きをみせる一因になったと考えられる。しかし、昨年末以降のインフレ率は底入れしており、足下においては幅広い国際商品市況の上振れも追い風に生活必需品を中心にインフレが顕在化するなど、物価を巡る動きは急速に変化している。そして、長期休暇が終わった後はルピア相場への調整圧力が強まるなど資金流出が加速する動きが確認されており、輸入物価を通じてインフレ圧力が一段と高まる事態も懸念される。また、幅広い商品市況が上振れを受けた国内向け供給減に伴う需給ひっ迫懸念を理由に、同国政府は1月に一時的に石炭の輸出禁止に動いたほか(注1)、先月末にも一時的にパーム油の輸出禁止に動くなど(注2)、外需に対する不透明感が高まる動きがみられる。さらに、国際商品市況が底入れする一助となってきた中国経済を巡っては、当局による『ゼロ・コロナ』戦略の拘泥が景気減速懸念を招いており、こうした動きも外需の重石となる可能性が高まっている。このところの同国経済は財政及び金融政策の総動員が奏功する形で家計消費など内需をけん引役にコロナ禍からの回復が進んできたものの、足下ではインフレ圧力が高まるなど実質購買力の重石となる動きがみられるほか、上述のように外需にも不透明感が高まっている。なお、中銀は一昨年来のコロナ禍対応を目的に事実上の財政ファイナンスに動いてきたが、1月の定例会合において3月から預金準備率を段階的に引き上げる正常化を模索しているものの(注3)、その後は国内外の景気に対する不透明感が高まっていることを理由に現行の緩和姿勢を維持する姿勢をみせてきた。24日に開催した直近の定例会合においても、中銀は政策金利である7日物リバースレポ金利を15会合連続で過去最低の3.50%に据え置くなど現行の緩和姿勢を維持している。会合後に公表された声明文では、世界経済について「見通しに比べて回復が弱まるリスクが高まっている」ほか、「世界的なインフレや金融引き締めの動き、中国のコロナ禍対応、ウクライナ情勢が世界経済の回復に悪影響を与える」との認識を示した。一方、同国経済については「回復が続いている」とした上で「今年の成長率見通しを+4.5~5.3%で据え置く」ほか、「経常赤字の見通しもGDP比▲1.3~▲0.5%で据え置く」など、比較的楽観的な見通しを据え置いている。また、足下で進行するルピア安については「他の新興国に比べれば経済のファンダメンタルズを反映する形で緩やかなものに留まっている」との認識を示すとともに、物価動向について「管理可能な水準に留まり、景気回復を下支えする」との見方を示した上で「来年にかけてインフレ率は目標域(2~4%)に収まる」との見通しを 示した。そして、今回の決定については「物価及び緩和背の安定という政策目的に合致している」との認識を示すとともに「外圧が強まるなかで景気回復を支える」としており、景気に対する不透明感が高まるなかで現時点においては景気回復を重視したものと捉えられる。ただし、上述のように外部環境の変化に伴い同国金融市場を取り巻く状況は悪化しており、物価及び為替の安定を迫られる可能性を勘案すれば、金融政策は引き締め方向へのシフトを迫られることは避けられないであろう。

図 1 インフレ率の推移
図 1 インフレ率の推移

図 2 ルピア相場(対ドル)の推移
図 2 ルピア相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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