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2022.01.21
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インドネシア中銀、米FRBの動きを警戒して預金準備率引き上げへ
~ペリー総裁は米FRBが3月利上げ開始と予想、当面はルピア相場と金利安定を重視する展開へ~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の国際金融市場では、米FRBの「タカ派」傾斜による米ドル高が新興国に影響を与えることを警戒する向きがある。インドネシアは経済のファンダメンタルズが脆弱ななか、過去の米FRBによる引き締め局面では資金流出圧力が強まりルピア安が進行した。足下のインフレ率は低水準に留まるが、中銀は新型コロナ禍対応を目的に金融緩和や財政ファイナンスに足を踏み入れており、金融市場の動向を注視する必要がある。
- こうしたなか、中銀は1月の定例会合で政策金利を据え置く一方、3月以降段階的に預金準備率を引き上げることを決定した。国内外の景気について回復が続くとみるほか、対外収支の改善も期待する一方、同行のペリー総裁は米FRBが3月に利上げを開始するとした上で、当面はルピア相場や金利の安定を重視する考えを示した。当面は為替介入などでの対応が続く一方、先行きは金融引き締めに舵を切ると見込まれる
足下の国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)による『タカ派』傾斜を受けて米ドル高圧力が強まる動きがみられるなか、全世界的な金融緩和を背景とする『カネ余り』を追い風にした新興国への資金流入の動きが変化することが警戒されている。なかでも経常赤字を抱えるなど資本過小状態にある新興国にとっては、資金流入が先細り、ないし、流出することは経済活動の足かせとなるとともに、自国通貨安は輸入物価を通じたインフレ圧力となることが懸念される。新型コロナ禍からの世界経済の回復を追い風とする国際原油価格の上昇は世界的なインフレ圧力を招いている一方、主要産油国の枠組(OPECプラス)による協調減産は小幅縮小とする従来姿勢を維持した結果(注1)、足下の国際原油価格は一段と上昇の動きを強める事態を招いている。結果、原油などエネルギー資源を輸入に依存している上、対外収支構造など経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国では、資金流出圧力が強まることを警戒する向きがみられる。なお、インドネシアは経常赤字と財政赤字といった『双子の赤字』を抱えるなど経済のファンダメンタルズが脆弱であり、過去の米FRBの金融引き締め局面では資金流出圧力が強まり通貨ルピア相場への調整圧力が強まり、中銀は通貨防衛の観点から金融引き締めを迫られてきた。他方、足下のインフレ率は新型コロナ禍対応による行動制限の『緩さ』なども影響して中銀の定める目標を下回る推移をみせており、インフレが警戒される状況にはほど遠い動きが続いている。中銀は新型コロナ禍を経て疲弊した経済の立て直しを図る観点から、金融緩和の実施に加え、政府の財政支援を目的に平時であれば『禁じ手』と見做される財政ファイナンスなど強力な政策支援に動いてきた。ただし、新型コロナ禍対応という『非常事態』を理由に、国際金融市場においてこうした対応は問題視されてこなかったとみられる一方、上述のように米FRBが政策変更に動くなど世界的なマネーの動向に変化の兆しがみられるなか、インドネシア中銀は米FRBの政策運営に注意を払う必要性に迫られてきた。
こうしたなか、インドネシア中銀は19~20日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である7日物リバースレポ金利を11会合連続で過去最低水準である3.50%に据え置くとともに、短期金利の上下限についてもそれぞれ4.25%、2.75%に据え置くなど現行の緩和政策を継続する決定を行った。ただし、会合後に公表された声明文では、先行きの政策運営について「景気回復を支援しつつ安定を図ることを目的とする」とした上で、「先進国、なかでも米FRBによる政策正常化の影響緩和を図ることを重視する」とし、「経済のファンダメンタルズの安定と通貨ルピア相場の安定に向けて為替政策の強化を図る」との考えを示した。具体的には「3月1日に預金準備率を150bp、6月1日に100bp、9月1日に50bp引き上げる」とし、向こう8ヶ月で預金準備率を計300bp引き上げるなど段階的に金融引き締めに舵を切る方針を明らかにした(イスラム金融向けに対する引き上げ幅は小幅に留まる)。なお、今回の決定について、引き続き「マクロ経済の安定と金融システムの維持、景気回復を促すべく政策調整を強化する」との考えを改めて強調した。その上で、世界経済について「オミクロン株の感染拡大、インフレ圧力、金融政策の正常化という不透明要因はあるものの、回復が続くと見込まれる」との見方を示した上で、同国経済について「昨年の経済成長率は+3.2~4.0%に、今年は一段の加速が見込まれ+4.7~5.5%になる」との見通しを示した。対外収支についても「今年の経常赤字はGDP比▲1.9~▲1.1%に留まる」ほか、「対内直接投資の堅調な流入や投資環境の改善を追い風に資本収支及び金融収支の黒字幅は昨年を上回る推移が見込まれる」との見方を示した。また、ルピア相場については「国際金融市場を巡る不透明さにも拘らず、当局による安定化策や対外収支の堅牢さを追い風に安定している」とした上で、物価動向については「今年も目標域内で管理可能な水準で推移する」との見通しを示しつつ、「ルピア相場の安定や政府及び中銀の政策対応を通じてインフレ期待は管理可能」との見方を示した。金融市場についても「潤沢な流動性を追い風に金利は低水準に留められる」とした上で、「銀行による金融仲介機能は徐々に回復感を強める」としつつ、「デジタル化政策の推進などを通じて景気回復を後押しする」との考えを示した。
なお、会合後にオンラインでの記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は、預金準備率の引き上げについて「総額200兆ルピア規模の流動性が金融市場から吸収されるが、銀行には融資や国債購入資金が充分に残っており、短期金利に大きな影響を与える可能性はない」との考えを示した。その上で、預金準備率の引き上げは「金融引き締めではなく、正常化に向けた道筋の一歩と捉えるべき」との見方を示した。また、米FRBの政策見通しについて「3月に利上げを開始するとともに、年内に計4回の利上げを実施する」との見通しを示した上で、「それに伴い米長期金利は2%を上回る水準に上昇するなど、インドネシアにも影響を与えることが懸念される」との見方を示した。そして、「米長期金利の上昇に伴うインドネシア国債利回りやルピア相場への影響を評価する」としつつ、「経常赤字の縮小など国内要因は影響を緩和すると見込まれる」との見方を示しながら、「当面は米FRBの正常化による影響が懸念されるなかで安定を重視する」一方、「その後はルピア相場や国債利回りを巡って一定の柔軟性が必要になる」との考えを示した。今後は米FRBの正常化による米ドル高がルピア安圧力となることが懸念されるなか、当面はルピア相場の安定に向けて為替介入などに動くとともに、必要に応じて金融引き締めに舵を切る可能性が高まっていると判断出来る。
注1 1月5日付レポート「OPECプラス、2022年2月も現状維持(日量40万バレルの協調減産縮小)を継続」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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