ブラジル・ボルソナロ大統領、燃料価格引き下げへ一層攻勢を強める可能性

~市場環境が厳しさを増すなか、財政悪化や信認低下によりレアル相場や株価は難しい状況に直面か~

西濵 徹

要旨
  • 一昨年来のブラジルは、コロナ禍による景気下振れの一方で物価上昇が続き、中銀は積極的な利上げに動くも、物価高と金利高が共存する展開が続いている。他方、10月の大統領選での再選に向けてボルソナロ氏は財政出動に動き、国営石油公社に対して燃料価格の引き下げを求めてきた。ただ、同社は燃料価格の引き上げに動いてCEOが2代連続で更迭されるなど関与を強めてきたが、今月にもディーゼル価格の引き上げを決定し、当局が容認する姿勢を示したため、11日に担当の鉱業・エネルギー相が更迭された。大統領選を巡っては、ルラ元大統領が終始世論調査をリードするなか、同氏は支持層拡大に向けた動きをみせる。他方、直近の世論調査ではボルソナロ政権の社会保障拡充を受けて猛追する動きが確認されている。今後は燃料価格引き下げへ圧力を強めることが予想され、財政状況の悪化や国際金融市場の信認低下を招く可能性があり、金融市場環境が厳しさを増すなかでレアル相場や株価は厳しい環境に晒されることになろう。

一昨年来のブラジルは、コロナ禍の影響で景気に下押し圧力が掛かる一方、歴史的大干ばつを受けて電力供給の大宗を水力発電に依存するなかで火力発電の再稼働を余儀なくされたことで物価が上昇傾向を強める展開が続いている。他方、中銀は物価抑制を目的に積極的な利上げに動いたものの、供給要因による物価上昇に加え、その後はコロナ禍の一服を受けた景気回復も追い風にインフレ圧力が高まる展開が続いており、物価高と金利高が共存する難しい状況に直面している。なお、今年は10月に次期大統領選が予定されており、現職のボルソナロ大統領は再選を睨んで財政出動を通じて景気回復を図る動きを強めているものの、そうした対応に伴うインフレ昂進を警戒して中銀はタカ派姿勢を強めるなど悪循環に繋がっている。さらに、ボルソナロ大統領はインフレ対策を目的に燃料税の引き下げを提案するとともに、国営石油公社(ペトロブラス)に対して度々燃料価格そのものの引き下げを求めて『圧力』を掛ける動きをみせてきた。同社を巡っては、政界を巻き込んだ一大汚職事件の舞台となったほか、歴代政権の下で価格決定に対する政治的圧力が問題となってきたため、ボルソナロ政権は発足当初は『小さな政府』を目指す観点から市場原理に基づく価格決定を進めるとともに、不良資産の売却や債務圧縮を図るなどの取り組みを進めてきた。しかし、国際原油価格の上昇や過去数年に亘る通貨レアル安に伴う設備投資コストの上昇を理由に同社が燃料価格の上昇に動いたことを受けて、ボルソナロ氏は一転して同社への関与を強める動きをみせている。昨年2月には同社CEO(最高経営責任者)が突如更迭され(注1)、ボルソナロ大統領は後任人事に介入する一方で表面的には同社の民営化を支持する考えをみせる一方、度々燃料価格に介入する姿勢をみせてきた。こうしたなか、ボルソナロ氏が据えたシルバエルナ前CEOもその後は燃料価格の上昇を容認する姿勢を示したことで対立し、今年4月に同氏も2代連続で更迭される事態となった。同社は技官出身のフェレイラコエリョ氏を後任のCEOとする決定を行ったものの(政権による指名を受けたもの)、同氏は燃料の国内価格を国際価格に連動させる現行の価格設定を維持する姿勢をみせた。他方、国際原油価格の上振れなどを受けて同社の純利益が拡大していることを受けて、ボルソナロ大統領はSNSを通じて同社を糾弾するとともに、燃料価格の引き上げに反対する姿勢をみせたほか、表面的には経営に干渉するつもりはないと述べつつ、実質的に関与を強める動きをみせてきた。こうしたなか、同社は今月9日に大統領の意向に反する形でディーゼル価格の引き上げを発表したほか、政府(鉱業・エネルギー省)がこの要請を受け入れる姿勢をみせたため、ボルソナロ大統領は11日にアルブケルケ前鉱業・エネルギー相を更迭し、後任に経済省特別顧問(戦略問題担当)であったアドルフォ・サクシダ氏を就けることを明らかにしている。現地報道によれば、アルブケルケ氏が更迭された理由として、ボルソナロ大統領が主張する価格設定方法の変更と大規模な補助金導入に反対したことを挙げており、政局が混乱状態に陥る可能性も高まっている。他方、次期大統領選を巡っては、ルラ元大統領が一貫して世論調査で優勢となる展開が続いており、今月9日に出馬表明をしたルラ氏はかつての『政敵』であった中道派のアルミキン氏(元サンパウロ州知事)を副大統領候補に指名するなど支持層拡大に向けた動きをみせている。なお、直近の世論調査においてはボルソナロ政権が社会保障支出の拡充に動いたことも追い風にルラ氏を猛追するなど、ルラ氏との支持率の差を縮める動きが確認されている。こうした状況を勘案すれば、ボルソナロ氏は今後、国民からの不満の種となっている燃料価格の引き下げに向けてあらゆる手段を行使する可能性が高まっていると判断出来る。一方、そうした動きは財政状況を一段と悪化させるとともに、国際金融市場からの信認低下を招くことが懸念され、折からの米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜に加え、中国の景気減速懸念、ウクライナ情勢の悪化による国際商品市況の上振れなど新興国を取り巻く状況が厳しさを増すなか、通貨レアル相場や株価は困難に直面する展開も予想される。

図 レアル相場(対ドル)と主要株価指数の推移
図 レアル相場(対ドル)と主要株価指数の推移

以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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