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ロシアのデフォルト危機、今後の注目点

~次の要注意日程は今月末から来月初にかけて~

田中 理

要旨
  • ロシア政府は16日期限のドル建て国債の利払いを履行し、国債デフォルトをひとまず回避した。だが、欧米の経済制裁でドル資金が不足するなか、年内に40数億ドルの外貨建て国債の元利払いを控えている。ロシア政府が今後も外貨での支払いを履行し続けるか、米国政府が元利払いに関連した業務まで制裁対象に含めるかは不透明で、ロシアのデフォルト・リスクは消えていない。今月末と来月初に控えるドル建て国債の元利払いが次の要注意日程となろう。

ロシア政府は16日に期限を迎えた1億1700万ドルのドル建て国債の利払いを履行し、1998年以来の国債デフォルト(外貨建てとしては1918年のボリシェヴィキ革命時以来)を回避したと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が伝えている。利払いは期限より1日遅れで債権者の元に届き、同国債には30日の猶予期間が設定されていたため、1日の支払い遅延はデフォルト事由やCDSの支払い義務が発生する信用事由(クレジットイベント)に該当しない。欧米などの経済制裁の一環で外貨準備が凍結されたロシアは、外貨建て国債の履行をルーブルで行う可能性を示唆していたが、今回はドルで債務の支払いを行った模様だ。ドル資金不足に直面するロシアだが、ルーブル建てでの債務支払い能力は十分にあるうえ、原油や天然ガスなどの輸出を通じて外貨を獲得している。

今後の国債償還スケジュールを確認すると、21日と28日に期限を迎える1億6800万ドルのドル建て国債の利払いは、約款上、ルーブル建てでの支払いが認められているものとされる。次にデフォルトのリスクが高まるのは、金額が大きくルーブル建ての支払いが認められていない31日に期限を迎える4億4700万ドルのドル建て国債の元利払いと、4月4日に期限を迎える21億2900万ドルのドル建て国債の元利払いとなろう。16日期限の利払いを履行した後も、ロシアは2022年中に合計で46億ドルの外貨建て国債の元利払いを控えており、このうち41億4000万ドルはルーブル建ての返済が認められていないものとされる(図表1)。枯渇するドル資金を使って、今後もロシア政府がドル建ての返済を続けるかは不透明で、外貨建て国債のデフォルト・リスクが消えた訳ではない。ロシアの返済履行を受け、ロシア国債のCDSスプレッドがやや縮小したものの、引き続き高止まりしている(図表2)。

ロシア政府は海外の債権者に対して、2日に期限を迎えたルーブル建て国債の支払いを履行しなかったとされる。30日の猶予期間中に支払いが行われなかった場合、格付け会社はロシア国債をデフォルトと認定することを示唆している。また、ロシア政府は米国系の金融機関を通じて外貨建て国債の返済を行っている。米国政府は経済制裁の一環でロシア政府や関連機関との金融取引を禁じている。今のところ元利払いを受け取るのに必要な業務は制裁の対象外としているが、5月25日以降も元利払いを受け取るには関連の免許が必要としている。今後の制裁の方針次第で、ロシア政府関連の取引がいつまで継続できるかも不透明だ。

(図表1)ロシアの外貨建て国債の返済スケジュール
(図表1)ロシアの外貨建て国債の返済スケジュール

(図表2)ロシア国債のCDS保証料率(5年物)
(図表2)ロシア国債のCDS保証料率(5年物)

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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