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再び欧州に押し寄せる移民・難民(その2)

~ウクライナからの避難民で移民が急増~

田中 理

要旨
  • 2022年にEUに流入した移民は約700万人と、それ以前の300~400万人台から急増した。中東やアフリカなどからの難民希望者とウクライナからの避難民の増加が押し上げた。外国生まれの居住者の割合も増加傾向にあり、EU市民の間で移民・難民の増加を実感するケースが増えている。

4月2日付けレポート「再び欧州に押し寄せる移民・難民(その1)」では、2023年にEU域内で国際的な庇護申請をした難民希望者が再び増加傾向にあり、2015~16年の難民危機時以来の100万人を突破したことを紹介した。この数字には個別の庇護申請が必要ない数百万人のウクライナからの避難民は含まれない。本稿では、自国に戻ると迫害の恐れがある難民も含め、より良い仕事や生活などを求めて欧州に流入する移民の最近の動向について確認する。

EU全域をカバーする最新の移民統計は2022年のものが先月末に公表されたばかりだ。EU加盟国の何れかに海外から流入する人口は、過去10年余り300~400万人台で推移してきたが、2022年は698万人と前年の410万人から急増した(図表1)。EU域外からの流入者が増加分の大半を占め、前回レポートで紹介した中東やアフリカなどからの難民希望者とウクライナからの避難民が押し上げた。近年の難民の流入数は、年間100万人を突破した2015・2016・2023年を除けば、概ね50~60万人程度なので、その6~7倍の移民が流入しているイメージだ。

人口に占める外国生まれの居住者の割合は、EU全体では13.3%、このうち3.9%がEU内の他国生まれで、残りの9.4%がEU域外生まれだ(図表2)。外国生まれの割合が多い加盟国は、ルクセンブルクの50.4%、マルタの28.3%、キプロスの22.7%、アイルランドの21.8%、オーストリアの21.6%、スウェーデンの20.4%、ドイツの19.5%、ベルギーの19.1%と続く。このうち、EU域外生まれの割合が高い加盟国は、マルタの20.9%、ルクセンブルクの17.2%、アイルランド、スウェーデン、エストニアの15.2%、スペインの13.8%、ポルトガルの12.5%、ドイツ、オーストリア、キプロスの12.1%といった具合だ。

就労や就学の移動の自由が保障されているEUでは、毎年100万人以上の人々が域内の他国に移り住んでいるが、近年はEU域外からの流入者が増加基調にある。難民危機以前の域外からの流入者は、域内からの流入者をやや上回る程度の100万人台後半だったが、難民危機以降は毎年200万人以上が定着し(コロナ感染拡大時の2020年を除く)、2022年は主にウクライナからの避難民の増加で500万人を突破した(前掲図表1)。EU域内から域外への流出者は毎年100万人前後おり、域外からの差し引きの流入者は、難民危機以前の年間数十万人から近年は100万人超えが定着し、2022年は411万人と前年の130万人から大幅に増加した。

移民の純流入(流入-流出)が多い加盟国は、ドイツの154万人、スペインの73万人、チェコの32万人、イタリアの26万人、オランダの22万人、フランスの18万人、オーストリアの13万人と続く(図表3)。経済的に豊かな国やウクライナからの避難民の主な受け入れ先となっている近隣諸国の移民流入数が多い。同時にポーランドやルーマニアなど東欧諸国では、他のEU諸国への人口流出も多く、移民の輩出国となっている。人口千人当たりの移民の純流入数が多いのは、マルタが42人、エストニアとチェコが30人、リトアニアが26人、ルクセンブルクが22人、アイルランドが19人、ドイツが18人、スペインが15人、キプロスとオーストリアが14人と続く。

次の続編レポートでは、移民・難民流入の増加による政治的な波紋について取り上げる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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