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2022.02.15
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急進する原油高による新興国経済への影響を考察する
~主要国中銀による「タカ派」傾斜の加速やマネーフローの変化による影響に要警戒~
西濵 徹
- 要旨
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- 国際金融市場では原油の国際指標であるWTIが先物で一時1バレル=95ドルを上回る水準に昂進した。欧米を中心とする「ウィズ・コロナ」戦略による世界経済の回復が進む一方、主要産油国は協調減産の段階的縮小を維持するなど需給ひっ迫が意識されるなか、足下ではウクライナ問題の深刻化懸念も価格を押し上げる。ウクライナがロシアと欧米の「代理戦争」の場と化していることは、事態を一段と混迷化させている。
- ウクライナ問題の行方は不透明だが、軍事衝突に発展すれば、欧米はロシアへの一段の経済制裁に動くことは不可避である。また、EUは原油及び天然ガスをロシアに依存しており、調達の分散化も価格を押し上げる。原油価格の上振れは米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜を招くなど国際金融市場に影響を与える。新興国では世界的なカネ余りにより再び資金流入の動きが活発化しており、環境変化による資金流出は通貨安や債務負担の増大を招く。原油高による経済のファンダメンタルズの悪化も懸念されるなか、新型コロナ禍対応を理由に財政悪化が進む新興国にとっては政策運営の正常化を迫られることも考えられよう。
国際金融市場においては、原油の国際指標であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)が先物市場で1バレル=95ドルの水準を上回り、一時的に7年5ヶ月ぶりの水準に昂進する動きをみせた。このところの原油相場を巡っては、欧米など主要国を中心にワクチン接種を前提に経済活動の正常化を進める『ウィズ・コロナ』戦略が採られていることも追い風に世界経済の回復が続くなど原油需要は底入れが期待されている。他方、新型コロナ禍による世界経済の減速を受けてOPEC(石油輸出国機構)加盟国やロシアなど一部の非OPEC加盟国による枠組(OPECプラス)は過去最大の協調減産に動いたものの、その後は世界経済の回復に歩を併せる形で昨年以降は協調減産の段階的縮小に動いてきた。上述のように世界経済は回復が続いているものの、足下においてもOPECプラスは協調減産の段階的縮小を維持しており(注1)、結果的に世界的な原油の需給ひっ迫が意識されやすい状況が続いていることも国際原油価格の押し上げに繋がってきたとみられる。なお、OPECプラスが協調減産の段階的縮小を維持している背景には、世界的に『脱炭素』の動きが広がりをみせていることを受けて化石燃料に関連する投資が手控えられるなかで一部の産油国では供給能力が低下しており、OPECプラス全体の供給量が合意に満たない水準で推移していることもある。さらに、過去の原油価格の上昇局面においては、米国におけるシェールオイルの増産の動きが強まり、結果として国際原油価格の『かく乱要因』となる動きがみられたことも影響している。ただし、足下において国際原油価格を最も押し上げる要因となっているのは、OPECプラスの一角であるロシアが関連するウクライナ問題に関連して不透明感が高まっていることがある。ロシアとウクライナを巡っては、2014年に発生したロシアによるクリミア併合が記憶に新しいが、その後に締結された停戦合意(ミンスク議定書及びミンスク2)ではウクライナ国内の親ロシア派支配地域に自治権が与えられる一方、ロシアはクリミア返還に関する協議に応じず、ウクライナ東部地域における紛争を巡って自治権の付与に必要な法整備が進んでいないことを理由にウクライナを批判するなど和平プロセスは中断してきた。一方、ウクライナは2019年の大統領選を経てコメディアン出身のゼレンスキー大統領が誕生した後は、ポロシェンコ前政権下で進められた軍備増強を進める一方で、EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)との交流を深める親欧米派路線を進めてきた。こうした動きを受けて、ウクライナはロシアにとって伝統的に『兄弟国』であり、地理的にもNATOとの『緩衝地帯』であることも影響して反発を強めており、同国はロシアと欧米諸国との間の代理戦争の場と化す展開をみせている。

ウクライナ問題の行方については不透明な状況が続いているものの、仮に直接的な軍事衝突に発展する事態となれば、欧米諸国はロシアに対して一段の経済制裁を課すことを辞さない姿勢をみせており、そうした懸念もこのところのWTIを一段と押し上げている。EU諸国は原油及び天然ガスなどをパイプラインによるロシアからの輸入に依存しており、ウクライナ問題を巡ってロシアと欧米諸国との緊張感が高まっていることを受けて、一部の国はパイプラインを通じた輸入が困難になることを警戒してタンカーによるLNG(液化天然ガス)の調達を活発化させており、こうした動きもこのところの価格上昇を後押ししているとみられる。現在、中国において北京冬季オリンピックが開催されており、国連のグテーレス事務総長は期間中における全世界的な紛争停止を呼び掛けているものの、ロシアは自国開催のソチ冬季オリンピックとパラリンピックの間にクリミア侵攻したほか、2008年の北京夏季オリンピックの最中にはジョージア(グルジア)に侵攻した『前科』があることを勘案すれば、時期は関係ないと捉えることも出来る。その意味では、軍事衝突に動く可能性はゼロではないと判断出来る上、それに伴い国際原油価格が一段と上昇圧力を強める可能性に留意する必要性は高いと見込まれる。なお、このところの世界経済の回復を受けた国際原油価格の上昇は全世界的にインフレ圧力を招いており、米FRB(連邦準備制度理事会)をはじめ主要国中銀は相次いで金融引き締め姿勢にシフトするなど、国際金融市場においては新型コロナ禍を経た全世界的な金融緩和を追い風とする『カネ余り』の手仕舞いが意識されている。よって、ウクライナ問題の深刻化により国際原油価格が一段と上昇の動きを強めることになれば、主要国は金融引き締めの度合いを一層強めることも予想され、結果的に回復が続く世界経済に冷や水を浴びせることが懸念される。他方、国際金融市場が動揺する度に新興国へのマネーフローは頭打ちする動きがみられ、新型コロナ禍を経て一旦は頭打ちないし流出に転じる動きがみられたものの、その後は全世界的なカネ余りに加え、世界経済の回復も追い風に再び流入の動きを強めてきた。さらに、全世界的な金融緩和により金利に下押し圧力が掛かったことは、新興国の経済主体にとって資金調達環境を容易にすることに繋がったものの、主要国中銀による正常化の動きはそうした状況を一変させることが懸念される。さらに、こうした新興国におけるマネーフローの変化は通貨安圧力を招き、米ドルなどハードカレンシーによる資金調達が活発化してきたことを勘案すれば、債務負担の増大が幅広い経済活動の足かせとなることも予想される。また、自国通貨の安定に向けて金融引き締めを迫られれば、すでにインフレ抑制を理由に金融引き締めに動いている新興国を巡る状況は一段と厳しさを増すことは避けられない。原油高は産油国にとっては財政及び対外収支の改善を促すと期待されるものの、原油などエネルギー資源を輸入に依存する新興国にとっては対外収支の悪化や物価高など経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化を招く。新型コロナ禍を経て全世界的に財政状況は厳しさを増しているが、新興国のなかには財政ファイナンスなど平時であれば『禁じ手』と見做される政策運営に舵を切る動きもみられるなか、今後は予想外に早い『正常化』を模索する必要性に迫られることも考えられる。

注1 2月3日付レポート「「既定路線通り」だったOPECプラスによる2022年3月の「現状維持」」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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