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2021.12.15
アジア経済
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フィリピン経済
フィリピン・ドゥテルテ大統領、今度は上院議員選からの撤退を表明
~「政界引退」を匂わすも実態は不明、政界への影響力維持へ「ウルトラC」の可能性は残る~
西濵 徹
- 要旨
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- フィリピンでは来年5月に大統領、副大統領選が予定されており、候補者が確定する間際にかけて「ドタバタ劇」がみられた。こうしたなか、一旦は副大統領選への出馬を模索したが、国民からの批判が高まり政界引退を発表したドゥテルテ大統領は一転して上院議員選への出馬を発表した。しかし、ドゥテルテ氏は14日に今度は上院選の出馬取り止めを決定した。報道官は政界引退をほのめかすが、一変させたことを勘案すれば不透明と言える。他方、政界への影響力維持の手段は狭まるなか、予想外の動きに出る可能性は残る。
フィリピンでは、来年5月に大統領選及び副大統領選が予定されている。これらの選挙はそれぞれの候補がタッグを組んで選挙戦が繰り広げられるものの、投票は独立して実施されるために大統領と副大統領が『ねじれ状態』となることがある。選挙戦を巡っては、10月に出馬の届け出が締め切られたものの、先月15日までは候補者の差し替えが可能であり、一旦は出馬を見送った候補者が土壇場で差し替えにより注目度を高める傾向がある。事実、当初は大統領選に出馬するとみられた現職のドゥテルテ大統領の娘であるサラ・ドゥテルテ=カルピオ氏は、一旦出馬表明を行った南部ダバオ市長選からの撤退を発表し、副大統領候補として大統領選に出馬しているフェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)氏とタッグを組むことを表明した(注1)。他方、現職のドゥテルテ大統領は現行憲法で次期大統領選に出馬が出来ないなか、一旦は副大統領選に出馬する『奇策』により権力維持を図ることを模索したものの、国民の間に批判が強まったことを受けて10月初めに一転して任期満了後に政界を引退することを発表した(注2)。しかし、ドゥテルテ氏自身はサラ氏が副大統領候補となることに不満を示したとされ、側近などの話として副大統領選に出馬して『父娘対決』に動く可能性も取り沙汰されたが、最終的には候補者差し替えを前に政界引退を撤回する一方で大統領選及び副大統領選と同時に実施される議会上院(元老院)議員選挙に出馬することを明らかにした(注3)。なお、大統領選及び副大統領選を巡っては、ドゥテルテ政権下で採られた内政及び外交政策、いわゆる『ドゥテルテ路線』の是非が問われる流れがみられるほか、政策運営面では議会上院の影響力が大きく、仮に知名度が高いドゥテルテ氏が上院議員になれば影響力を行使することが出来るとみられた。こうしたなか、選挙管理委員会が14日にSNSを通じてドゥテルテ氏が上院議員選への出馬を撤回したことを明らかにしたほか、(臨時)大統領報道官も「大統領は新型コロナ禍対応に注力する」と表明するとともに、「退任後は家族と過ごすために政府から引退する計画」と語るなど、政界引退を匂わせる動きをみせている。ただし、現実には投票日当日までに同じ苗字の候補者が死亡ないし候補者失格とされた場合は急遽差し替えることが可能であり、今回の決定を以ってドゥテルテ氏が政界引退を表明したと判断するのは早計と言える。事実、上述のように一旦は政界引退を表明したものの、先月に上院議員選への出馬を表明したことを勘案すれば、『ウルトラC』を駆使して政界に留まる道を探る可能性は残っていると考えられる。他方、ドゥテルテ氏の腹心で最終版に大統領選への出馬を表明したボン・ゴー氏は14日に撤退を正式表明しており、ドゥテルテ氏が政界に影響力を残す手段は着実に狭まりつつあるとも判断出来る。ドゥテルテ氏を巡っては、在任中の『超法規的措置』も辞さない麻薬捜査により退任後は国内、ないし国際刑事裁判所(ICC)において訴追される可能性があり、訴追回避を目的に権力維持を図るとの見方がくすぶるなか、今後も予想外の動きに出る可能性には注意が必要と言えよう。
注1 11月15日付レポート「フィリピン副大統領選は「ドゥテルテ対ドゥテルテ」の父娘対決へ?」
注2 10月4日付レポート「フィリピン・ドゥテルテ大統領、一転して任期満了後の政界引退を表明」
注3 11月16日付レポート「フィリピン、大統領選の「父娘対決」は回避、争点は「ドゥテルテ路線」」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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