ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

子育て支援 次期「障害児福祉計画」にも注目を

~共生社会を育むインクルーシブな成長環境へ~

後藤 博

目次

1.「こども未来戦略方針」にも明記された障害児支援

6月13日に閣議決定された「こども未来戦略方針」には、「次元の異なる少子化対策」として障害児支援にかかわる事項も含まれている。基本理念の1つに「全ての子育て世帯を切れ目なく支援する」ことが掲げられ、貧困の状況にある家庭、障害のあるこどもや医療的ケアが必要なこどもを育てる家庭などに対してよりきめ細かい対応を行うと明記された。

政府は5月に障害福祉計画と障害児福祉計画に関する基本指針を公表したが、これは障害を抱える子どもと親がより充実した生活を送ることができるよう、有効な支援等を確保するための重要な指針でもある。そして、障害児支援に関する施策は、本年4月に発足した子ども家庭庁が、子育て支援策のなかで一元的に推進することとなっている。

このように障害児支援にかかわる状況が変化する中で、障害福祉サービスに影響する障害児福祉計画はどのような方向を示すのだろうか。

2.障害児福祉計画の方向性~国連権利条約委員会「総括所見」を踏まえて~

政府は、障害者基本計画や昨年9月に国連障害者権利委員会から日本に出された障害者権利条約に関する「総括所見」を踏まえ、次期障害福祉計画と障害児福祉計画に関する基本指針を公表した(注1)(注2)。これらをもとに、都道府県・市町村は、2024年度からの3年を計画期間とする障害福祉計画・障害児福祉計画を作成する。

障害児福祉計画については、①障害のある子ども本人の最善の利益の保障、②こどもと家族のウェルビーイングの向上、③地域社会への参加・包摂(インクルージョン)の推進、という障害児支援の方向性が提示されている(注3)。

なお、国連の「総括所見」では、障害児に関する懸念や勧告も明示されている。懸念事項は、文化的側面にもかかわる内容で、幼少期からの隔離療育体制の弊害、障害児本人の意思尊重、体罰・虐待からの保護といった点が挙げられている。具体的には、わが国の障害児の療育については早期発見・療育が基本となっているが、幼少期から障害の軽減等を目指す訓練を中心とするなど社会的隔離の原因となり、地域社会で生活する見通しを妨げていること、障害児の意見を聞く仕組みや自己の意見を表明する権利について、明確な認識が欠如していること、そして、家庭や代替的施設など福祉サービス環境において、障害児を含む児童への体罰が禁止されておらず、虐待や暴力を予防し保護する仕組みが不十分であることである。

3.障害児を巡る支援の現状と課題

障害児支援を巡る現状と課題については、次の4点をあげることができる。

まず、障害児支援サービスへのニーズが高まっていることである。2019年からの4年間で障害児の福祉サービスの利用者数は34%伸びている(注4)。特に、小学校就学前の幼児に対する「児童発達支援」や、小学校入学後から高校卒業前までの児童や生徒に対する「放課後等デイサービス」といった、日常生活の自立支援・機能訓練、学びの場を提供する支援へのニーズが高まっている。これらの背景には、発達障害への認識が高まったことや、特別支援教育を受ける児童・生徒の増加(2011年度からの10年間でほぼ倍増)、女性の就業率の向上などがある。

2点目は、障害児支援は基本的に就学ステージによって選択できる支援サービスが限定されるため、適切な支援サービスを一定の時期に見直す必要があることである。障害児支援サービスは、保育園・幼稚園などの入園期、小学校入学期、中学卒業期、高校卒業期が見直しの時期に該当する。保護者の多くにとっては、自身の就労との調整が必要なこともあり、障害児支援の継続について苦慮することがある。いわゆる「小1の壁」「18歳の壁」が存在する(図表1)。

図表1
図表1

就学先は、「通常学級」「特別支援学級」「特別支援学校」のいずれかになるが、市町村教育委員会等の認可が必要であり、家族の希望通りになるとは限らない。

利用者数が圧倒的に多い「放課後等デイサービス」を利用できるのは、原則18歳までで、ほとんどの障害児の場合、高校卒業後には終了する(図表2)。その後、「障害者総合支援法」に基づく自立訓練、就労継続支援などの支援を受けられるが、18歳以降の支援サービス(自立支援給付)の利用により保護者の生活様式も影響を受けることになる。

図表2
図表2

3点目は、障害児の子育てと仕事の両立に対する保護者(親)の負担の軽減が求められていることである。ケアが必要な子どもをもつ母親の就業率は2013年以降上昇しているが、健常児をもつ母親の就業率と間には依然として差がある。

療育や学校対応、特別支援学校の送迎等に時間を要するため、親は短時間勤務を選ばざるを得ないなど、就業に影響することがある。世帯規模の縮小が進むなか、両立の負担を他に頼ることが困難になっている。そのため、児童発達支援や放課後等デイサービスなどは、比較的長い時間預けることができることもあり、利用者数も圧倒的に多い。

4点目は、障害児支援へのアクセシビリティが必ずしも円滑ではないことである。必要な支援につながるための、支援の連携体制、相談体制の問題でもある。支援等に関する相談窓口は分散しており、家族はどこにどのような相談機関があるのかがわかりにくく、必要な支援を受けにくいという。また、障害児と支援制度に対する本人・家族の理解不足、コメディカル(医師以外の医療従事者)などの支援者による案内不足も、必要な情報へのアクセシビリティの障壁となっている。

以上のような障害児支援の課題4点の解決に向けた視点として、次の2点をあげることができる。1つは、専門性にもとづく支援の充実である。重度の障害で複数の障害をもつ子どもや医療的ケア児等への対応には障害特性に応じた技能が求められる。こうした専門性の高い分野に対応できる人材育成を一層強化するとともに、専門性の高い関係機関の連携強化を含めた、対応力の向上が求められる。

もう1つは、地域社会におけるインクルージョン(参加・包摂)体制の推進である。子ども関連の施策全体の中で、学びの連続性を意識したインクルージョンの推進が求められる。障害や特別支援教育について、正しい理解と認識を深めるため、障害児支援だけではなく、保健・福祉・教育の各機関が連携を図り、生涯学習や交流を通じて障害に対する啓発を図る体制の構築が望まれる。

4.障害児支援の方向性はどうなるか

では、専門性に基づく支援の充実と、地域社会におけるインクルージョン体制の推進の2点に関して、具体的にどのような支援が望まれるだろうか。

まず、専門的な支援が行き届くよう、関連機関が連携した総合的な支援を強化することが必要だ。そのために、地域の「児童発達支援センター」を中心とした支援連携体制の整備が求められる。

児童発達支援センターについては、2026年度末までに、各市町村で少なくとも1か所以上設置するか、難しい場合には一定の圏域で設置するよう、障害福祉計画と障害児福祉計画に関する基本指針で定められた。

地域における障害児支援に関する質的向上に向け、同センターには近隣の関係機関への指導力が求められている。たとえば、地域の障害児通所支援事業所などと連携を緊密にし、保育所等への訪問支援等による障害児支援が向上することが期待される。また、難聴児、重症心身障害児への支援、医療的ケア児の支援など専門性の高い支援については、特別支援学校や医療的ケア児支援センターとも連携する(注5)。障害児支援は、専門分野が医療、障害福祉、教育など多岐にわたり、関係機関が連携する必要がある。実際に支援を提供する機関による単独対応だけでなく、関連機関が協議する運営が推進されるべきだ。

インクルージョン体制の推進については、障害児の特性に応じた合理的配慮を進めるとともに、学校等への一般施策の中で、子育て支援策全体の中で障害児のインクルージョンを推進していく方向だ(注6)。

基本的に同世代の幼児や児童同士が障害の有無に関わらず交流しやすくするための支援を強化していく。たとえば、障害児がいる保育所や学校、放課後児童クラブなどへの、専門職員の訪問による支援の強化が求められる。障害児対応、助言等を通じて対応力が向上し、交流が促進されるだろう。保育所と児童発達支援施設を併用する「併行通園」や、通常の学級で授業を受けながら一部の時間を障害の軽減に向けた指導を受ける「通級」、通常の学級と同じ校内に設けられる「特別支援学級」などに加え、すべての子どもがともに育つ地域づくりに向け、関係機関の連携強化が求められる(図表3)。また、特別支援学校と小中高が連携して授業などモデル事業を展開する動きもある。これらで実践される交流は、障害のある幼児・児童・生徒、そうでない幼児・児童・生徒の双方にとって、共生する経験を広め、社会性を養うという意義がある。

さらに政府は、特別支援学校と小中高を連携して授業などを一体的に行うモデル事業を推進することを明確にした。一方で、国民の理解も不可欠として、意識改革・国民運動を本年の夏頃をめどにスタートさせるという。すべての子どもがともに育つことを理念の一つに掲げ、意識改革に取り組むとしている。

図表3
図表3

5.障害児支援の展望と期待

障害児支援については、支援を見直すいくつかの時期において、その継続に向けた障壁が存在する。適切な支援を適時に切れ目なく、円滑に受けられるよう制度整備を図る必要がある。社会全体が障害者を包摂し、家族も安心して子育てしながら暮らせるようにする観点からの支援が大切となる。

そのためには、特別支援教育による主体的な活動の尊重・促進は重要である。さらに、学校卒業後の支援として、就労支援や障害者スポーツ・文化芸術活動への参画支援が望まれる。

何より大切なのは、障害児が、どこで誰と関わって過ごすのかを決めるうえで、本人にとっての最善の利益は何かを考えることだ。障害のある人とそうでない人が共に過ごす機会を子ども時代から増やすことが、子どもと家族のウェルビーイングの向上、子育て世代全体の安心の広がりと活力の向上につながる。障害児との交流を通じて、子どもの状況や感情に対する理解を深め、共感する力を向上させることが重要だ。これは、子どもたちの自己成長やコミュニケーション能力の向上だけでなく、他者への貢献、豊かな人生を築くための共生社会づくりという点にも、大きな影響を与えるのではないだろうか。

【注釈】

  1. 国連障害者権利委員会による総括所見については、後藤博「障害者福祉 多様性を認め合う包摂社会へ~次期ステージへの展望と期待~」(2022年11月)を参照。
  2. ここでは3つの基本的な考え方が示されている。すなわち、①障害者が希望する地域での生活を実現するための地域づくり ②社会の変化に合わせた障害児・障害者のニーズへの細やかな対応、③持続可能で質の高い障害福祉サービスの実現である。
  3. 厚生労働省 障害児通所支援に関する検討会「障害児通所支援に関する検討会報告書 ―すべてのこどもがともに育つ地域づくりに向けて―」 2023年3月
  4. 厚生労働省 今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会「厚生労働省の取組について」2023年3月
  5. 「医療的ケア児支援センター」の設置については、都道府県が中心となり支援を総合調整するコーディネーターを配置する方向にある。
  6. 文部科学省「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告」2021年1月。

【参考文献】

後藤 博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 シニア研究員
専⾨分野: 保健・介護福祉、障害者アドボカシー

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