日本は世界で最も助け合わない国?

~手助けが必要な人はいるのだが~

水野 映子

目次

1.人助けに関する調査で日本はまたもや最下位に

過去1か月間に「助けを必要としている見知らぬ人を助けた」かどうかに関する調査が、イギリスの団体によって世界各国で毎年実施されている。この調査については以前にも取り上げ、日本は2009~2018年の平均でも、2020年単年でも、全世界の中で最下位だったという結果を紹介した(注1)。その後の2021年の調査でも、日本は最下位から2番目にとどまっている(図表1)。

先ごろ公表された最新版の調査報告(2022年に調査、2023年に公表)によると、日本は142か国の中でまたもや最下位(21%)であり、全世界の平均(60%)を大幅に下回っている。日本は見知らぬ人を助ける人が少ない国であり続けていることがわかる。

図表1
図表1

これまで筆者は、上記の調査結果などを受け、日本の人が見知らぬ人を助けることが難しい理由を分析してきた(注2)。そのひとつには、相手が手助けを必要としているかどうかがわからない、必要としていることに気づかない、という理由がある。そこで今回は、どのような手助けが必要とされているのかを考察する。

2.本当は席を譲ってほしいし荷物を持ってほしい

東京都は2021年に都民を対象とする調査を実施し、外出の際に誰かの手助けを必要とした経験や、誰かを手助けした経験について質問している。まず、前者の質問への回答結果をみてみよう。

全回答者のうち、過去1年くらいの間、外出時に誰かの手助けを必要と感じたことがあると答えた人は11.3%であった。そう答えた人に対し、どのような手助けが必要だったかをたずねた結果を図表2に示す。全体では1位が「乗り物などで席を譲ってほしかった」(36.8%)、2位が「荷物を持つのを手伝ってほしかった」(28.3%)となっている。

外出時の障害がある人や75歳以上の人では、これら2項目の次に「階段の昇り降りのときに手助けがほしかった」「電車、バスの乗り降りのときに手助けがほしかった」の割合が高い。一方、乳幼児連れの人では「乗り物などで席を譲ってほしかった」の次に、「車いすやベビーカーを押したり、持ち上げたりしてほしかった」があがっている。つまり、人によって違いはあるものの、さまざまな場面で手助けが必要とされている。

3.必要な手助けはおこなわれているのか

では、実際にはどのような手助けがおこなわれているのか。

前述の東京都の調査で、外出時に困っている人を手助けをしたことがあると答えた人は全体の25.6%であった。そう答えた人に対し、どのような手助けをしたかをたずねた結果、「乗り物などで席を譲った」(57.4%)の割合が最も高く、「道を教えた」(38.9%)、「扉を開けた」(36.7%)がこれに続いた(図表3)。

図表2の結果と併せてみると、「荷物を持つのを手伝ってほしかった」「階段の昇り降りのときに手助けがほしかった」と答えた人の割合は比較的高く、それぞれ2・3位にあがっているにもかかわらず、「荷物を持った」(20.0%)、「階段の昇り降りのときに手を貸した」(13.2%)という手助けをした人の割合は低い。荷物を持っている際や階段を昇り降りする際の手助けは、必要とする人が多いわりには、おこなう人が少ないといえる。

図表2
図表2

4.最下位を脱出し「おもてなし」あふれる国へ

筆者はかつて、2年間の外国生活を終えて帰国し、大きなスーツケースを苦労しながら運んでいる際、日本では誰も手を貸してくれないことに「逆カルチャーショック」を受けた、という体験を記した(注3)。それまで住んでいた国では、荷物を持っているときに限らず、困っていたら周りの人に助けてもらえることが多かったからである。高齢者や障害者、妊娠している人や乳幼児連れの人などに見知らぬ人が手を貸したり、列の順番や乗り物の座席を譲ったりすることも自然におこなわれていた。他の国にいたことがある人からも、同様の話をよく耳にする。

それらの国に比べると日本では、重い荷物を持っている人、階段や電車・バスを乗り降りしようとしている人などに声をかけるのは難しいかもしれないし、手助けを申し出ても遠慮して断られる可能性が高いかもしれない。だが、助けを必要としている人がいるのは確かだ。助けが必要そうな人をみたら思い切って一声かけること、また助けを必要としている人は遠慮せず手を借りることも、ときには大切だろう。

おりしも最近は、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いたことなどを背景に、日本に来る外国人が再び増えている。日本ならではの細やかな気配りやもてなしは外国から称賛されているが、逆に日本が外国から見習うこともあるのではないか。日本が「世界で最も人助けしない国」から脱し、より「おもてなし」あふれた国になることを願う。


【注釈】

  1. 出典は以下。
    水野映子「ソーシャルディスタンスは心の距離も広げたのか ~コロナ禍でより助け合わなくなった日本人~」2021年11月
    水野映子「日本人の『助け合い』のかたちを再考する」2020年3月

  2. 注1に掲載した資料以外の出典は以下。
    水野映子「健康でない人も幸せに暮らせる社会へ」第一生命経済研究所『「幸せ」視点のライフデザイン』2021年10月(東洋経済新報社)
    水野映子「『新しい生活様式』における助け合いのかたち ~視覚障害者のコロナ禍による困りごとをもとに考える~」2021年7月

  3. 出典は以下。
    水野映子「ウルグアイ通信(5) 逆カルチャーショックから考える『助け合い』のかたち」2020年2月

水野 映子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。