シニア世代による主体的な社会活動の意味

~つながりを築き、重ねていくことの大切さ~

北村 安樹子

目次

1.コロナ下での若い世代との交流機会

コロナ禍中の 2021 年末に行われた内閣府の調査によると、65 歳以上の男女のうち、「若い世代との交流の機会」(注 1)に「積極的に参加している」とした人は 5%に満たず、「できるかぎり参加している」とした人を合わせても約 2 割にとどまった(図表 1)。

また、そのような交流機会があった場合に「積極的に参加したい」とした人は、「できるかぎり参加したい」とした人を含めても 4 割弱であった。実施・参加の意向をもちながら機会がなかった人がいた一方、若い世代と接する機会には消極的な人も多かったようだ。その背景には、コロナ禍で安全に交流することが難しかったこともあり、実施・参加の必要性をあらためて考えた人が増えた影響があるだろう。

図表1
図表1

一方、『「若い世代との交流の機会」に参加の意向をもつ人』においても、どのような世代と交流を行いたいかについての回答では、同世代を挙げる人が最も多かった(図表 2)。複数回答ではあるが、たとえば、「就学前の世代」を挙げた人が 17.5%、「小学生の世代」を挙げた人が 28.7%であったのに対し、「自分と同世代」を挙げた人は 63.9%とこれらを大きく上回った。同世代との交流を望む人が多かったのは、そのような機会を通じて知る同世代の近況や、情報交換を兼ねたコミュニケーションに関心をもつ人が多かったためではないか。

ただ、比較的若い 60 代女性では、「就学前の世代」や「小学生の世代」を挙げた人が男性や年長者に比べやや多かった(図表省略)。この年代には、自身や同世代に孫が生まれ、子どもと接する機会が増える人も多い。そのため、子どもにかかわる活動に関心をもつ人が比較的多かったといえる。

図表2
図表2

2.自主的に行われている活動への高い関心

シニア世代の若い世代との交流に対する意識にこのような傾向がみられた一方で、図表 3 に挙げられている「個人または友人とあるいはグループや団体で自主的に行われている活動」を行った人や、それらに関心をもつ人はかなり多かった。

この設問では、地域活動などの形で従来から行われてきた活動が比較的多く例示されている。65 歳以上の男女の回答結果をみると、全体の 6 割弱が直近 1 年の間にこれらの活動に何らかの形でかかわったことがあり、約 7 割は今後いずれか、もしくは複数の活動を行いたいと答えている。

図表3
図表3

また、これらの活動に参加した人に、自分自身にとって良かったことをたずねた結果では、「生活に充実感ができた」(50.4%)という点が最も多く挙げられている。「新しい友人を得ることができた」(40.3%)、「健康や体力に自信がついた」(35.7%)、「地域社会に貢献できた」(33.4%)、などを挙げた人も 3 割を超える(図表 4)。

活動の内容や目的にもよるが、参加者の多くは、精神面の充実感や新たな友人の獲得、健康面への好影響など、多様なメリットを挙げている。一方で、「地域社会への貢献」「自分の技術、経験を生かすことができた」など、他者のウェルビーイング向上にもつながると感じている人も一定程度いる。実施・参加している活動や、今後行いたいと感じる活動が家族や他者にとってどのような意味をもつと考えるのかも、これらの活動の実施・参加のモチベーションにつながっているのだろう。

図表4
図表4

3.シニア世代の主体的な社会活動の意味~つながりを築き、重ねていくことの大切さ~

以上の結果から、若い世代との交流に関心をもつ人がいる一方で、同世代との交流や、個人や友人、グループや団体で自主的に行われている多様な活動に関心をもつ人が多いことがうかがえる。

シニア世代がどのような形でそれらの活動を行っているか、また、今後どのような形で行いたいと思っているかは、健康状態や価値観の違いも大きい(注 2)。活動へのかかわり方も、既存の組織に直接かかわる形だけでなく、個人や新たな組織を通じて行われる活動への理解・協力など多様な形があるだろう。

これらの主体的な社会活動へのかかわりを含めて、シニア世代が他者や社会とのつながりを築き、重ねていくことは、幸せなライフデザインを考えていく際の重要な視点になる。いざというときに助け合えるつながり資産は、本来人生の早い時期から少しずつ築いていくことが望ましい。しかし、多くの人は、生計維持のための仕事や老後に向けた貯蓄、健康管理や健康づくりを行うなかで、つながり資産を豊かにすることや、「お金」「健康」「つながり」という 3 つの人生資産のバランスを整えることの大切さには気づきにくい。

シニア世代が主体的に行う社会活動を通じて次世代を応援したり、自身の人生を前向きに生きる同世代の生き方にふれることは、自身のよりよい生き方を考えたり、つながり資産を豊かにすることにもつながる。したがって、どのように他者や社会とつながるのかは、シニア世代が自身のウェルビーイングを考えるうえでの重要なテーマの 1 つである。その際には、仕事や他者のための活動と、自分のための時間のバランスを意識することや、双方の時間のよりよい過ごし方について考えていくことも、大切な視点になるだろう。


【注釈】

  1. このような機会の提供主体や実施・参加方法についての具体的な内容を調査票では示していない。

  2. 実際、これらの活動に参加したいと思わない理由についてたずねた結果では、健康・体力面の不安や人づきあいの煩わしさ、特に理由はない、家庭の事情(病院、家事、仕事)、同好の友人・仲間がいない、気軽に参加できる活動が少ない、どのような活動が行われているか知らない、などの点が比較的多くあげられている。

【参考文献】

1)第一生命経済研究所「人生 100 年時代の「幸せ戦略」」東洋経済新報社、2019 年 11 月

2)第一生命経済研究所「「幸せ」視点のライフデザイン」東洋経済新報社、2021 年 10 月

北村 安樹子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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