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ひとり親に寄り添うキャリア支援

~シングルマザーへの就労支援(2)~

福澤 涼子

目次

母子世帯の貧困問題について、筆者は前稿(『母子家庭の貧困問題と就労支援制度~シングルマザーへの就労支援(1)~』)で、さまざまな就労支援制度が充実しつつある一方、それらをいかに活用してもらうかという課題が残ると指摘した。

本稿ではそうした課題に対し、ひとり親に寄り添い自立を促している事例として、東京都江戸川区の「ひとり親相談室すずらん」を紹介する。

1.子どもの多い東京都江戸川区

東京都江戸川区は、人口約68万9千人、23区の中で4番目に人口が多く、子どもも多いという特徴をもつ。同区の0~14歳の年少人口は、世田谷区、練馬区に次いで3番目に多く(注1)、合計特殊出生率は1.20と23区のうち4番目に高い(注2)。

そして、江戸川区の18歳未満の児童がいる世帯の約13%がひとり親世帯(約9割が母子世帯)であり、そのうち約56%が児童扶養手当(ひとり親家庭の生活の安定と自立の促進のための手当)を受給している(注3)。

図表1
図表1

2.「ひとり親相談室すずらん」設立の背景

江戸川区では児童扶養手当の申請に訪れるひとり親に対して、漏れなく「ひとり親相談室すずらん」を利用するよう呼び掛けている。これは、江戸川区が立ち上げたひとり親向けの総合支援サービスである。就労のみならず、家計のこと、離婚後の生活のことなど多様な悩みにワンストップで対応している。最大の特徴は、相談員全員がキャリアコンサルタントの国家資格をもつことだ。就労・転職支援に際しては、労働市場とひとり親家庭の事情の双方をよく理解したキャリアコンサルタントからサポートが得られる。

ひとり親相談室すずらんは2016年にスタートした。その背景には、2014年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行され、2015年には政府の「すべての子どもの安心と希望の実現プロジェクト」において、ひとり親家庭の自立を応援する「自治体の窓口のワンストップ化の推進」が決定されたことがある。当時、年少人口の割合が23区でトップだった江戸川区は(注4)、同じタイミングで、子どもの貧困やひとり親に関する実態把握に乗り出した。その結果、「離婚後に養育費が支払われず、貧困に陥っている家庭がある」「子どもの手当をあてにし、経済的に自立できない家庭がある」などの報告が、保育園や学校の職員、民生委員等から寄せられた。

一方で、ひとり親当事者たちからは、「ダブルワークをしても収入が伸びず、転職したいが相談する時間がない」「非正規雇用を渡り歩いている。もっと力をつけたい」「忙しくて情報を集められない」といった声も届いた。当時は就業相談を区の窓口で受けた場合でも、その後にハローワークに行ってもらう必要があった。江戸川区は南北方向に広く、公的な窓口が偏在しているため、円滑な支援に結びつきにくいという課題もあった。

これらの状況を受けて、ひとり親の悩みをワンストップで受け付けるという点に加え、特にキャリアコンサルタントによる就労支援に力を入れて、経済的な自立まで伴走するという事業がスタートした。

図表2
図表2

3.ワンストップで各種サービスへとつなげる

ひとり親相談室すずらんの大きな特徴のひとつは、ひとり親の多様な悩みに対応する総合相談窓口という点である。相談室は江戸川区役所の児童扶養手当の窓口のすぐ隣にあり、児童扶養手当受給者に漏れなく案内をしているため、特に困っていることがない場合は、リーフレットを渡し短時間で終了となることもある。一方で、相談ごとがある場合、相談時間が1時間を超えることもあり、その内容は「養育費や面会交流の取り決めについて知りたい」「DV被害にあっている」「子どもが不登校になっている」など深刻で専門性が求められるものが多い。

そうした多様な悩みをまずは受け止めて、図表3のように最適な支援の窓口へとつないでいく。

図表3
図表3

4.一人ひとりに寄り添った伴走型の自立支援

就労関連や資格取得の相談の際には、そのまま相談員がキャリアカウンセリングに入ることになっている。

窓口に相談に来るひとり親のうち、正社員は2割未満で、それ以外の多くがパートや派遣社員などの不安定な雇用形態、もしくは無職である。そのため、「正社員で働きたい」といった相談も多く寄せられる。一方で、具体的に希望する条件を聞くと、「家から近く、体力的に負担が少なく、子どもが病気の際に休みが取りやすく、月に25万円以上の収入が見込める」といった、これまでの経験とミスマッチなケースもある。そのような相談者に対して、一緒に求人情報を探しながら、労働市場の現状を認識してもらい、共に妥協点を探っていく。そしてもし応募先が見つかった場合には、職務経歴書の添削、面接のアドバイスまで手厚くフォローする。

また、子育てなどでキャリアを中断すると、仕事に対する自己肯定感が低くなりがちである。そのような場合は、丁寧にキャリアの棚卸しを行い、向いていること、得意とすることを共に言語化していく。たとえば、ある相談者は「自分はキャリア経験がない」と話していたが、過去に家族の介護経験があるとのことだったため、その経験を活かして介護職に就くのはどうかと相談員から提案したところ、結果として、介護福祉士の資格を取得し就労に結びついた。このように、安定した職に就くための準備として、資格の取得を促す場合も多い。その際には、本人の希望に加えて、就労に有利かという視点でもアドバイスを行う。

目指す資格が決まったあとは、前稿で紹介した修業期間中の生活費が支給される「高等職業訓練促進給付金」や、受講料の補助が出る「自立支援教育訓練給付金」などの制度を案内する。カウンセリングでキャリアの棚卸しや目標設定を明確に行ったうえで制度の活用に進むこともあり、その制度の効果的な利用も期待される。江戸川区では、2021年度に「高等職業訓練促進給付金」の支給を受け資格を取得できた人全員が就業に至っている。

5.子どもが独立した後も、貧困にならないための支援

新型コロナウイルス感染拡大以降、すぐに転職したいという相談者は減っているものの、それ以前は毎年、相談室すずらんの相談者のうち50人ほどが就職・転職に至っていた(図表4)。これらはみな、無職から就業が決まったケースや、非正規から正社員になったケースなど待遇や条件面がアップしたケースだ。

図表4
図表4

一方で、ひとり親相談室すずらんの方針として、就職転職決定者の数だけを伸ばそうとは考えていないとのことである。むしろ、心身の不調などですぐには就業が難しいと思われる相談者には、求職活動を休止してもらい、心身の回復を促すための支援も行っている。

担当する江戸川区子ども家庭部児童家庭課の担当者は、「子どもが独立した後も相談者の人生は続いていく。50歳・60歳でも貧困にならず、活き活きと働いていくために今やるべきことは何かという視点を大事にしている」と話す。

今回紹介したような、一人ひとりに寄り添った伴走支援は、泥臭く手間がかかる支援ではあるが、長い目で見れば、貧困家庭を減らす近道になるのではないだろうか。

【注釈】

  1. 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和4年1月1日現在)」2022年
  2. 東京都福祉保健局「令和3年東京都人口動態統計年報」2022年
  3. 「江戸川区における養育費の取組」資料及び、母子世帯の割合は取材内容に基づく/公益社団法人商事法務研究会「令和4年度 養育費の不払い解消等に向けた自治体における 法的支援及び紛争解決支援の在り方に関する 調査研究報告書」2023年
  4. 2015年「平成27年1月1日住民基本台帳年齢階級別人口(市区町村別)」によると東京都江戸川区の年少人口割合は13.7%と23区内で最も高かった。

【参考文献】

  • 東京都公式ホームページ「令和3年 区市町村別合計特殊出生率の順位」2023年6月閲覧
  • 総務省「総計:令和4年度住民基本台帳年齢階級別人口(市区町村別)」2022年
  • 総務省「平成27年1月1日住民基本台帳年齢階級別人口(市区町村別)」2015年
  • 公益社団法人商事法務研究会「令和4年度 養育費の不払い解消等に向けた自治体における 法的支援及び紛争解決支援の在り方に関する 調査研究報告書」2023年
  • 内閣府「平成28年版 子供・若者白書」2016年
  • 江戸川区子ども家庭部児童家庭課「ひとり親家庭のしおり」2023年4月
  • 江戸川区「“子どもが輝く未来”に向けて~子どもの成長を支える江戸川区の取り組み~」2016年
  • 江戸川区「ひとり親相談室すずらんについて」2020年
  • 厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課「ひとり親家庭支援策の実態に関する事例集」2017年
  • 江戸川区ホームページ「ひとり親相談室すずらん」2023年6月閲覧

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福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

ライフデザイン研究部 研究員
専⾨分野: 育児、家族、住まい(特にシェアハウス)、ワーキングマザーの雇用

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