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四半期見通し『欧州~物価沈静化も金融引き締めが景気を下押し~』(2024年1月号)

田中 理

目次

ドイツはマイナス成長に転落

2023年の欧州経済は、エネルギー危機対応の財政出動や雇用環境の底堅さが下支えとなった一方で、物価高騰による家計の実質購買力の目減り、金融引き締めの効果浸透、世界経済の低迷が打撃となり、年間を通じて低空飛行が続いた。2023年の実質国内総生産(GDP)は、ユーロ圏・英国ともに+0.5%前後の低成長にとどまったことが見込まれる。なかでも、海外経済の動向に左右されやすい製造業部門の割合や輸出比率が高く、エネルギー供給のロシア依存脱却でコスト高に見舞われているドイツ経済の不振が目立ち、主要先進国で唯一のマイナス成長となった模様だ。

過去の物価高が遅れて反映されるなか、企業の価格転嫁や賃上げの余韻が残っており、変動の大きいエネルギーや食料などを除いたコア物価は、ユーロ圏が前年比+3%台、英国が同+5%台で高止まりしている。ロシアとウクライナの戦闘長期化やイスラエルとハマスの衝突など、地政学的緊張が続いているものの、資源価格の高騰は足許で一服している。エネルギー価格の押し上げ剥落に伴い、ユーロ圏・英国ともにインフレ率のピークアウト傾向が鮮明となっている。ピーク時に前年比で2桁台に達した消費者物価は、ユーロ圏が同+2%台、英国が同+4%台に落ち着いてきた。

ユーロ圏と英国は辛うじて景気後退を回避

2024年の欧州経済は、これまでの大幅な金融引き締めの効果が残存することや、危機時対応で停止されていた財政規律の適用が再開され、各国の財政運営が緩やかな引き締め方向に転換することから、緩慢な成長にとどまると予想する。但し、以下の2つの要因が下支えとして働くことから、景気後退を回避するとみる。第1に、物価高が峠を越すため、賃上げ加速と相俟って、家計購買力の目減りが緩和され、消費の回復を後押ししよう。第2に、物価沈静化と景気減速を背景に、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(BOE)が年後半に利下げを開始する公算が大きい。2024年のGDPは、ユーロ圏が+0.7%、英国が+0.5%と低成長ながら、プラス成長を維持する見通し。

2024年の欧州は、3月のポルトガル総選挙、6月の欧州議会選挙、9月のドイツの州議会選挙、英国の総選挙(日程未定)などが予定される。欧州では近年、北アフリカなどからの移民の流入が再加速している。物価高騰による生活困窮と相俟って、国民の間で移民政策の強化を訴える右派ポピュリスト政党の支持が高まっている。右派ポピュリストがEUや各国の議会運営の主導権を握る可能性は低いが、連立参加や主流派政党の政策修正を促すことを通じて影響を及ぼす恐れがある。

資料1 ユーロ圏と英国の消費者物価(前年比)
資料1 ユーロ圏と英国の消費者物価(前年比)

資料2 ユーロ圏と英国の政策金利
資料2 ユーロ圏と英国の政策金利

田中 理


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