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四半期見通し『欧州~ガス危機克服で景気後退を回避へ~』(2023年4月号)

田中 理

目次

冬場のガス危機を回避

欧州経済への悲観論が急速に後退している。昨年10~12月期のユーロ圏の実質国内総生産(GDP)は前期比横這いと辛うじてマイナス成長への転落を回避した。コロナ後の経済活動再開や財政支援に助けられた面もあるが、景気は予想以上の底堅さを保っている。数ヶ月前までは、物価高騰に伴う家計消費への打撃に加えて、ロシアによる欧州向けガス供給の縮小を受け、冬場の需要期にガス不足に陥り、景気後退に陥るとみられていた。だが、代替エネルギー源の確保、ガス貯蔵の積み増し、省エネの取り組み、暖冬にも助けられ、欧州諸国は今冬のガス危機回避に成功した。エネルギー価格の押し上げ幅縮小を受け、ユーロ圏の消費者物価は、昨年10月をピークに上昇率が鈍化に転じている。ガス危機回避と物価沈静化により、景気回復期待が急速に広がっている。代表的な企業景況感である購買担当者指数(PMI)は、好不況の分岐点である50を回復した。

インフレへの警戒姿勢を強める欧州中央銀行(ECB)は、昨年7月に利上げを開始した。利上げ開始時にマイナス圏にあった下限の政策金利(預金ファシリティ金利)は、執筆時点で2.5%まで引き上げられ、3月にはさらに3.0%に引き上げられる公算が大きい。コロナ危機時に強化した量的緩和も、既に新規の資産買い入れを終了し、満期を迎えた保有資産の再投資を部分的に停止する量的引き締めを開始している。

図表1
図表1

コア物価の高止まりで利上げが長期化

先行きのユーロ圏経済は、物価上昇率の鈍化に伴い、これまで景気を下押ししてきた家計購買力の目減りや企業収益の圧迫が緩和に向かうことが予想される。ガス危機を回避したことで経済活動への下押し圧力が後退することや、中国のゼロコロナ政策の終了(リオープニング)に伴う世界需要の回復も、景気拡大を後押ししよう。ユーロ圏はテクニカル・リセッション(2四半期連続マイナス成長)を回避し、2023年の年間成長率は+0.8%とプラス成長を予想する。

コロナ危機とウクライナ危機時に適用が免除されてきた欧州連合(EU)の財政規律は、来年以降、規律を見直したうえで、適用を再開することが検討されている。金融引き締めの開始・継続と相俟って、政策面での景気へのサポートは一段と縮小に向かうことが予想される。

物価については、これまでの資源・食料品価格の高騰が他の財・サービス価格に遅れて反映されることや、経済活動再開による労働需給の逼迫もあり、高めの賃上げ妥結が相次いでいる。ヘッドラインのインフレ率がピークアウトした後も、コア物価やサービス物価の高止まりが予想される。景気の上振れとインフレ圧力の継続により、ECBの利上げが長期化するとの観測が高まっている。利上げ打ち止めは、コア物価の上昇率鈍化が確認される年後半にずれ込み、預金ファシリティ金利の最終到達点(ターミナル・レート)は4.0%に達すると予想する。

図表2
図表2

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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