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四半期見通し『欧州~低空飛行が続くユーロ圏経済~』(2023年10月号)

田中 理

目次

優等生ドイツが景気の足を引っ張る

ユーロ圏の実質国内総生産(GDP)は、昨年10~12月期に前期比▲0.1%と2020年10~12月期以来のマイナス成長を記録した後、1~3月期、4~6月期が揃って同+0.1%にとどまり、緩慢な成長が続いている。国別には、域内で最大の経済規模を誇るドイツの停滞が目立ち、ユーロ圏全体の足を引っ張っている。ドイツ経済は昨年10~12月期以降、2四半期連続のマイナス成長(テクニカル・リセッション)に陥った後、4~6月期もゼロ成長にとどまった。重要な輸出先である中国経済の低迷が続いていることに加え、ロシアからの安価なガス供給をエネルギー源に、高付加価値製品を製造し、それを国外に輸出する経済モデルが綻びをみせている。

7~9月期入り後は、物価高の悪影響継続や利上げ効果の浸透で、景気の下押し圧力が強まっている。代表的な企業景況感であるユーロ圏の総合購買担当者指数(PMI)は、6月に6ヶ月振りに好不況の分岐点である50割れを記録した後、3ヶ月連続で悪化モメンタムが加速している。

資料1
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資料2
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この間、ユーロ圏の消費者物価は昨年10月の前年比+10.6%をピークに上昇率が鈍化傾向にあり、8月は同+5.3%と半減した。エネルギー価格の押し上げが剥落したものの、食料品価格の高騰が続いており、コア物価も高止まりしている。

金融引き締めの効果浸透で利上げは最終局面

先行きのユーロ圏経済は、物価上昇率の鈍化で家計の実質購買力の目減りや企業収益の圧迫が緩和に向かう一方、利上げ効果の浸透で住宅需要や設備投資が下押しされ、低空飛行が続く公算が大きい。財政面では、新型コロナウイルスの感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻を受け、過去数年、財政規律の適用が全面的に停止され、拡張的な財政運営が行われてきた。今後は危機対応が一巡するとともに、財政規律の適用が再開され、やや緊縮的な財政運営が想定される。コロナ危機からの経済復興の起爆剤として期待された欧州復興基金は、2021年の運用開始以降、これまでに22ヶ国に合計1500億ユーロ余りの資金が拠出されてきた。だが、資金拠出は全般に遅れ気味で、基金の利用に消極的な国も少なくない。

物価高騰を警戒し、欧州中央銀行(ECB)は昨年7月以来、大幅な利上げを続けてきた。利上げ開始時にマイナス圏にあった下限の政策金利は、2000年代初頭に記録した過去最高圏に並んだ。これまでの金融引き締めの効果浸透で景気にブレーキが掛かっており、利上げは最終局面に近づいている。同時に、ピークアウト後も物価は高止まりし、人手不足を反映した賃金上昇圧力や企業の価格転嫁の動きも続いている。当面は景気や物価動向にらみで追加利上げの是非を判断し、利下げ転換は来年後半以降になると予想する。

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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