Side Mirror(2023年12月号)

佐久間 啓

日本の長期金利もようやく“市場で決まる”環境が整ってきたと言えるかもしれない。10月31日の日銀金融政策決定会合で今年度2回目のYCC修正が決まった。7月28日の決定ではそれまでの上限の0.5%を“目途”に変更、上限を1.0%に引き上げていたが、今回その上限1.0%を“目途”に変更し連続指値オペは金利情勢を見ながら適宜実施とした。事実上のYCCの終息宣言だ。

日銀はこれまでも国債買入金額を目標から目途に変更、目途は残しつつ実際の買入金額を削減するという手を使っていることから更なるYCC柔軟化に向けて動くという見方があったが、前回変更からわずか3か月で事実上の終息までもってきた。米国債長期金利が大きく上昇する中での政策変更でありタイミングを間違えれば相当な混乱が起きたかもしれないが、大きなボラティリティーの動きもなく市場に大きな歪みをもたらす可能性のある政策を変更できたことは日銀の作戦勝ちと言っていい。

FRBはグローバル金融危機(GFC)以降緩和→正常に向けた動き→コロナ禍で大規模緩和→インフレでQT含め金融引締めと動いており、ECBも2022年にはインフレへの対応でGFC以降初めて利上げに動き、バランスシートの縮小にも動いている。一方日銀はGFC以降一貫して金融緩和を強化する方向で動いておりバランスシートも拡大が続いているが、ようやく、若干だが方向感を変え始めた。YCCの終息で国債イールドカーブという経済の心電図がようやくダイレクトに把握できる環境に戻りつつある状況だ。

足元のイールドカーブの水準は2013年の黒田日銀による異次元緩和政策導入時に近いレベルだ。本来イールドカーブは日銀の金融政策、足元や先行きの景気、インフレ、債券需給、人口動態、国の形…実に多くの金利を動かしうる要因を探し、360度眺めまわして考え、議論し、市場で自由に売買した結果決まっている。動かないイールドカーブに慣れていると時として暴れるイールドカーブにビビるかもしれないが、それは産みの苦しみ。投資家にも覚悟が必要だ。

佐久間 啓


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