Side Mirror(2023年9月号)

佐久間 啓

7月の所謂“中銀ウィーク”ではFRB、ECBともに市場予想通りの25bpの利上げ、会合後の総裁会見でも状況次第では追加利上げを排除しない姿勢を見せたもののタカ派な表現は少なくこちらも予想通りの内容であった。一方、日銀はYCCの修正を発表。事前予想ではYCC含め変更なし予想が大勢だったのでサプライズとなったわけだが、金融市場の反応は「えっ、こんなもん?」というぐらい昨年12月のYCC変動幅拡大から始まった債券ショートの“お祭り”からは考えられないほどあっさりしたものだった。

4月の植田総裁就任、4月、6月の決定会合を経て、学者出身総裁らしいコミュニケーションの取り方が市場に受け入れられた結果かもしれないが、アメリカ経済のソフトランディング期待が現実味を帯びてきたこと、10年債金利も安定していること、何よりグローバルにインフレのピークが見えてきたことから先行き不透明感が薄らいでいることがサプライズにもかかわらず金融市場が落ち着いている理由だろう。

それにしてもアメリカのFFレートが5.5%でも利上げ打ち止め宣言が出ないというのは1年前には想定できなかった状況だ。GDP成長率、雇用所得環境、インフレと金融政策の関係…金融市場はこれだけの急速な利上げ、QEからQTへの転換、逆イールド状態の発生から経験知でリセッション突入は確実だろうと考えていた。ところがそうはならないようだ。今回はパンデミックを挟み、そこからの景気回復と言う点で過去の景気循環パターンとは違うので引締めの結末も違うということだろうか。

経験知は所詮経験知でしかないが、理論も現実離れしたものでしかなかったり、単に過去の経済の動きをモデル化したものもあったりして経験知を否定するのも難しい。今回の景気循環では何が起きたのか?低インフレの時代は終わったのか?これから新しい“考え方”が定着していくのだろうか。尤も、やっぱり経験知通りでしたね、となることもあり得るが。

(佐久間 啓)

佐久間 啓


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