インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

内外経済ウォッチ『アジア・新興国~パキスタン、経済危機に一筋の光も、治安情勢を巡る不安が再燃~』(2023年9月号)

西濵 徹

目次

経済の危機的状況には一筋の光がみえつつある

パキスタンにおいては、コロナ禍に加え、昨年は国土の3分の1が冠水する豪雨被害に見舞われるなど景気の足を引っ張る材料が山積してきた。さらに、商品高や国際金融市場での米ドル高による通貨ルピー安も重なりインフレは大きく上振れしてきた。こうしたなか、外貨不足を理由に対外債務のデフォルトに陥ることが懸念されてきた。こうした事態を受けて、同国政府はデフォルトの回避を目的に、諸外国に対して資金支援を要請するとともに、IMFからの支援受け入れに向けて燃料補助金廃止など財政引き締めに取り組んだほか、中銀も金融引き締めに動いてきた。他方、外貨の節約を目的に広く国民に対して節電を要請するとともに、割安なロシア産原油の輸入に動いた上で、その決済に人民元を利用するなど『何でもあり』の対応を進めてきた。

こうした財政、及び金融政策面での努力も追い風に、IMFは7月に約30億ドル規模のスタンドバイ取極に基づく融資を承認し、直ちに約12億ドルの融資が実施されるなど経済の立て直しに向けた動きは着実に前進している。さらに、その後も中国が融資の借り換えのほか、返済繰り延べに合意する動きもみられる。7月末時点における外貨準備高は27.17億ドルと月平均輸入額の0.59ヶ月分に留まるなど、同国経済は深刻な外貨不足に直面してきたものの、その状況は改善に向かいつつあると捉えられる。

資料1 外貨準備高の推移
資料1 外貨準備高の推移

経済危機一服も、治安情勢を巡る懸念が顕在化

年明け以降も一段と加速したインフレ率は足下で頭打ちに転じており、調整が続いたルピー相場も落ち着きを取り戻すなど、経済を取り巻く状況は最悪期を過ぎつつある。他方、同国では昨年に政権交代が行われたが、カーン前首相の失職を巡って側近が大量に議員辞職し、議会下院は4割近くが空席という異常事態が続いている。なお、任期と憲法規定を勘案すれば、次期総選挙は11月までに実施する必要があるなど『政治の季節』が近付いており、各政党は次期総選挙に向けた選挙活動を活発化させている。

こうしたなか、過激派組織のIS(イスラム国)がイスラム強硬派と繋がりが深いとされる保守派政党を標的とする自爆テロを展開し、「真のイスラム教に敵対する民主主義への戦争」を標ぼうするなど民主主義に反発する動きをみせる。近年、同国においてはイスラム過激派が中国による一帯一路の一環で実施する中国パキスタン経済回廊を非難し、関連する権益を対象に断続的にテロ攻撃を展開しており、今後は同様の動きが活発化する可能性もある。その意味では、上述のように経済の立て直しに向けた動きは緒に就いたばかりだが、早くも政治を巡る動きが新たな波乱要因となる可能性がある。同国はインド洋における地政学上重要な要衝のひとつであり、地域情勢の行方のみならず、シーレーンを通じて日本にも影響を与えるなど、その動向に注意を払う必要があることは間違いない。

資料2 インフレ率の推移
資料2 インフレ率の推移

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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