インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ベトナム、2025年成長率は+8.02%と目標未達も高成長を実現

~次期5ヵ年計画では10%以上という高い目標を掲げるが、現実的な目標設定が必要になろう~

西濵 徹

要旨
  • ベトナム経済は、米中摩擦の激化を背景に「漁夫の利」を享受してきたが、昨年はトランプ米政権の関税政策に翻弄された。当初、米国はベトナムに対して46%と高水準の相互関税を課す方針を示したものの、協議の結果、関税率は20%に引き下げられた。一方、迂回輸出に対する高関税や、米国からの輸入関税をゼロとするなど、合意内容はベトナムにとって不平等なものとなった。しかし、早期合意による不透明感の解消や、輸出競争力への悪影響回避を重視した判断とみられる。
  • 相互関税発動前には駆け込み輸出がみられたが、その後も輸出は堅調に推移し、足元の景気をけん引している。これは、追加関税や迂回輸出の定義が不明確であることが一因と考えられる。事実、10-12月の実質GDP成長率は前年比+8.46%、通年でも+8.02%とASEAN主要国の中で最も高い伸びとなった。製造業を中心とする第2次産業の拡大に加え、対内直接投資、観光、個人消費なども景気を下支えしている。
  • 今月開催予定の共産党大会で承認される次期5ヵ年計画の下、平均成長率10%以上という高い目標を掲げる見通しである。ただし、関税の影響による投資減速や、対米貿易黒字拡大を背景とした通商交渉の不透明感がリスクとなる。高成長を維持するために財政支出が拡大すれば、財政運営への負担も増す可能性がある。よって、外部環境を見極めつつ、現実的な成長目標を設定することが重要となるであろう。

ベトナム経済は、ここ数年にわたって激化の一途を辿ってきた米中摩擦の背後で『漁夫の利』を最も得てきたとされる。その一方、昨年はトランプ米政権による関税政策に翻弄された。米国は当初、同国への相互関税を46%とASEAN(東南アジア諸国連合)主要国のうち最も高水準とする方針を示した。ベトナム経済にとって対米輸出額は名目GDP比で2割強に達するため、仮に高水準の関税が課せられれば実体経済に深刻な影響が出ることは避けられない。その後の両国による協議を経て、米国はベトナムに対する相互関税を20%に引き下げる一方、中国による迂回輸出を念頭に、第三国からベトナムを経由して米国に輸出される財に40%の関税を課すことで合意した。また、ベトナムは米国からのすべての輸入品に対する関税をゼロとするなど極めて不平等な合意となった。このように合意内容は不平等ながら、ベトナムにとっては税率の差が輸出競争力に影響を与える事態を回避し、税率が受忍可能な水準に抑えられたことで、早期合意による不透明感の払しょくを優先したと考えられる。相互関税の本格発動を前に、米国向けを中心に輸出が押し上げられる『駆け込み』の動きが確認されたため、本格発動を受けた反動が懸念された。しかし、その後も輸出は堅調に推移しており、足元の景気をけん引している様子がうかがえる。これは、追加関税や迂回輸出に関する定義が明確化されていないことが影響していると考えられる。一方、ベトナム政府はより良い合意の締結に向けた協議を継続しており、その帰趨は先行きのベトナム経済を左右すると見込まれる。

図表
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前述のように、足元においても旺盛な輸出がベトナム景気をけん引する動きがみられるなか、10-12月の実質GDP成長率は前年同期比+8.46%と前期(同+8.25%)から加速しており、3年強ぶりの高い伸びとなるなど底入れが続いている。なお、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率は3四半期ぶりに10%を下回る伸びに留まるなど勢いに一服感が出ているものの、引き続き堅調な推移をみせている。ベトナム政府は昨年2月に経済成長率目標を8%に引き上げるとともに、その後も米国との合意直後には目標を8.3~8.5%に再び引き上げるなど、経済成長の実現を優先する姿勢をみせてきた。昨年通年の経済成長率は+8.02%と政府目標には届かなかったものの、前年(+7.09%)から加速して3年ぶりの高い伸びとなるなど、ASEAN主要国のなかで最も勢いを増している。分野ごとの生産動向をみると、輸出の堅調さを反映して製造業や鉱業など第2次産業の生産は好調に推移するなど景気をけん引している。さらに、輸出の堅調さを追い風に対内直接投資の流入も引き続き底堅く推移している。また、中国からの来訪者数は依然としてコロナ禍前を下回るも、外国人来訪者数全体は旺盛な流入が続いており、観光関連産業の生産は拡大している。そして、インフレは比較的落ち着いた動きが続くなど実質購買力が下支えされていることも追い風に、個人消費も好調に推移しており、サービス業の生産を下支えしている。そして、洪水被害の頻発による悪影響が懸念された農林水産業の生産も底堅い動きをみせるなど、幅広い分野で生産拡大の動きが確認されている。

図表
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ベトナムでは、今月19~25日の日程で5年に一度の党大会(ベトナム共産党第14回全国代表者大会)の開催が予定されている。先月には、党大会前の重要イベントである中央委員会総会(第13回中央委員会第15回全体会議)が開催され、次期指導部候補が選定されており、2024年に党トップ(党中央執行委員会書記長(党書記長))に就任したトー・ラム氏の留任に道筋が付けられた模様である(注1)。党大会においては、今年から始まる次期5ヵ年計画が承認される予定である。昨年までの5ヵ年計画では、対象期間中の平均成長率を6.5~7%としていたものの、前述のように昨年は+8.02%と高成長を実現するも5年間の平均成長率は6.25%に留まった。これはコロナ禍の影響が色濃く現れた2021年(+2.55%)の低成長が響いた。こうしたなか、昨年11月に国会は次期5ヵ年計画の期間中の平均成長率を10%以上とする方針を承認しており、これまで以上に経済成長を志向する姿勢をみせている。ただし、対内直接投資の動向をみると、足元では頭打ちの様相を強めるなどトランプ関税による悪影響が懸念される状況にある。前述したように輸出は引き続き好調に推移しているものの、先行きは関税の影響が出る可能性は残る。さらに、昨年のベトナムによる対米貿易黒字額は過去最高を更新しており、ベトナムと米国による貿易協定に向けた協議が難航すれば、同国への投資環境が大きく変化することも考えられる。ベトナム共産党、及び政府が掲げる高い成長目標のハードルが高まるとともに、その実現に向けて公共投資をはじめとする歳出拡大に傾注すれば、足元の公的債務残高はGDP比で3割程度と上限(同60%)を下回る水準に留まるものの、財政運営に対する負荷が高まると見込まれる。よって、足元の動向のみならず、外部環境の改善を図りつつ、身の丈に合う目標設定を行うことが重要になるであろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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