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ベトナム共産党大会、ラム党書記長再任、高成長を目指す方針へ

~ラム氏の国家主席兼務観測もあり、中長期的に政治システムが変容する可能性も~

西濵 徹

要旨
  • ベトナムでは、1月19~23日に第14回共産党大会が開催され、最高指導部人事と次期5カ年計画が主要議題となった。ラム書記長体制の継続が既定路線となる一方、直前に開催された党中央委員会総会において、従来の「四柱」体制から「五柱」体制に移行する可能性が示された。よって、権力分散と同時に主導権争い激化の可能性が指摘されるなど、今後の国家運営への影響が注目されている。
  • 党大会の演説においてラム書記長は、今後5年間の平均成長率目標を「10%以上」に引き上げるとともに、2045年の高所得国入りを掲げた。行政改革、反汚職、インフラ整備、サプライチェーン強靭化を進めるとともに、民間経済や科学技術・デジタル分野を成長の原動力と位置付け、経済成長重視の姿勢を鮮明にした。
  • 党大会後、新たな中央委員会と政治局が発足し、ラム氏率いる新指導部が正式に始動した。クオン国家主席とチン首相は退任見通しとなり、後任の首相には経済通のテクノクラートの就任が有力視されている。治安・軍出身者の比率は低下した一方、北部出身者への偏りが続くなど、人事面の特徴が浮き彫りとなった。
  • ラム書記長の再任は政治的安定を示し、外国人投資家に安心感を与えると期待される。その一方、ラム氏の国家主席兼務による権力集中が進めば、集団指導体制を基盤とするベトナムの政治システムに変化をもたらす可能性があり、中長期的な政治リスクへの注意が必要になると見込まれる。

ベトナムでは、1月19~23日の日程でベトナム共産党大会(第14回全国代表者大会)が開催された。当初は25日までの開催が予定されていたものの、効率的な議事運営により想定より早く主要議題の討議が終えられたことを理由に、会期中に突如日程が短縮された。今回の党大会においては、最高指導部人事に加え、2026年から始まる5ヵ年計画が承認されるなど、その行方が注目された。最高指導部人事を巡っては、先月開催された党中央委員会総会(第13回中央委員会第15回全体会議)において、候補者の選定が「高い支持率で可決された」旨が明らかにされている。具体的な名簿は示されなかったものの、党トップ(党中央委員会書記長(党書記長))であるトー・ラム氏が代議員に謝意を伝えており、現体制の継続が既定路線となった模様である。さらに、最高指導部人事については長年、党書記長、国家主席、首相、国会議長の4人(四柱)による集団指導体制を敷くことにより、権力の集中を排除する仕組みが採られてきた。しかし、党内序列5位に当たる党書記局常務を格上げして、最高指導部人事を『五柱』とする可能性が示された。最高指導部の枠組みが増えることは、一人への権力集中を排除する可能性がある一方、奇数となることにより主導権争いが激化する可能性が高まる。この背景には、2011年にグエン・フー・チョン前書記長が就任し、公安部出身の同氏の下で「反腐敗・反汚職」を旗印にした党内統治の背後で派閥争いが激化してきたことがある。結果、党中央においては保守派が台頭する一方、急進派が放逐されてきた。そして、2024年にチョン氏が急逝し、直後にチョン氏と同じ公安部出身のラム氏が党書記長に就任したが、ラム体制下では公安部と人民軍のバランスを取る姿勢が採られてきた。しかし、この枠組みが変更されることに加え、仮に新指導部における公安部の影響力が拡大すれば、国家の在り様にも影響を与えることが予想される。

こうしたなか、20日に開催された党大会の開幕式典において、ラム氏は今後5年間の国政の運営方針に関する演説を行った。そのなかでは、今後5年間の平均成長率の目標を『10%以上』と昨年までの5年間(6.5~7%)から大幅に引き上げることを強調したうえで、2045年までに高所得国入りを目指す方針を訴えた。具体的には、1人あたりGDPを2025年の5,000ドルから2030年までに約8,500ドルとするとしている。さらに、ラム体制の下では、省庁再編のほか、地方の省や政府直轄市の統廃合による行政改革を通じた効率化を推進しており、官僚主義的な手続きの削減と世界貿易の拡大の必要性を訴えるとともに、汚職との闘いも継続する方針を示した。その上で、ここ数年のベトナムは度々自然災害に直面するなか、気候変動に適応し、強力な地域、地域間、そして世界的な繋がりを確保すべく、インフラを整備しなければならないとして、サプライチェーンの強靭化を図る考えをみせた。また、ベトナムでは1986年の党大会で採択された改革・開放路線(ドイモイ)から丸40年が経過しているが、その成果についてあらためて評価した。社会主義経済において国家を補う役割とされる民間経済について、最も重要な原動力と称するとともに、経済成長を促進するとして、科学技術やデジタル分野も推進する方針を示した。その意味では、ベトナムはこれまで以上に経済成長を志向する姿勢を強めていると捉えられる。

図表
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22日には、最高指導部人事の前提となる中央委員180人と、その補欠である委員候補20人を選出した。その後、党大会最終日の23日に最高指導部の政治局員19人を公表しており、ラム氏が率いる新指導部が正式に発足した。政治局員19人のうち10人が留任したものの、党内序列2位の国家主席を務めるルオン・クオン氏、3位の首相を務めるファム・ミン・チン氏はともに政治局員から外れており、次の国会で退任するとみられる。なかでも首相については、前述のように今後5年間にわたって高い経済成長を実現するなかでその舵取りを担うなど重要となるなか、国家銀行(中銀)出身で今回政治局員に再任されたレ・ミン・フン中央組織委員長の就任が有力視されている。フン氏を巡っては、父親が元公安部長でありラム氏に近いとされるうえ、中銀出身者として2016年に史上最年少で総裁に就任するなど経済政策に通じており、その手腕が注目される。一方、クオン氏が退任する見通しの国家主席を巡っては、ラム氏が兼務するとの観測が出ており、就任には国会での承認手続きが必要となるなか、当面はその行方を注視する必要がある。なお、政治局員にはラム氏を含めて公安部出身者が計4人、ファン・バン・ザン国防相をはじめとする人民軍出身者が計3人となり、合わせると7人と改選前の10人から3人減らされた。しかし、引き続き公安部と人民軍という実力組織が存在感を示す一方、新任の政治局員には多数のテクノクラートも登用されており、経済成長にも目配りしている様子がうかがえる。他方、出身地別ではラム氏を含めて北部が9人、中部が5人、南部が5人となり、北部出身者が半分近くを占めており、バランスを欠く状況が続いている。

ラム氏の再任により、政治的な安定が保たれていることが示されたことは、外国人投資家にとって心強いメッセージとなることが期待される。一方、前述したようにラム氏が国家主席との兼務を目指しているとされており、権力の集中が進む懸念があり、伝統的に集団指導体制に基づく内部チェック機能に依存してきたベトナムの政治システムが大きく変わることも考えられる。その意味では、中長期的にみたベトナムの政治体制を巡ってリスクを孕む可能性には注意が必要である。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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