インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

内外経済ウォッチ『アジア・新興国~スリランカ、新政権も先行きは見通せず~』(2022年9月号)

西濵 徹

スリランカでは、コロナ禍による観光業の停滞に加え、外貨の節約を目的とする化学肥料と農薬の使用禁止策で農業生産も壊滅するなど、外貨獲得手段を失ったことで外貨不足に陥った。他方、2000年代半ば以降は中国の支援を通じたインフラ投資の拡大が景気を押し上げたものの、収益性の低いインフラ建設が進む一方で債務を巡る元利払いが滞り、権益が中国企業に接収される『債務の罠』に陥るなど財政問題に発展した。

さらに、商品市況の上振れは輸入増を通じて外貨不足を加速させるとともに生活必需品を中心にインフレを招いている。さらに、世界的なインフレによる米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜は、経済のファンダメンタルズの脆弱な新興国を中心に資金流出を加速させており、通貨ルピー安が輸入物価を通じてインフレを一段と昂進させている。こうしたなか、3月以降は最大都市のコロンボを中心に全土でゴタバヤ・ラジャパクサ前大統領の退陣を求めるデモが活発化し、政界を牛耳るとともに足下の経済危機の『元凶』を招いたラジャパクサ一族に対する批判に発展した。7月初めにはデモが激化して大統領公邸が占拠され、首相の私邸が放火される事態に発展し、ラジャパクサ大統領とウィクラマシンハ首相が辞任を発表した。ラジャパクサ氏はモルディブを経由してシンガポールに逃亡するなど辞任の先延ばしを画策したものの、最終的に議会議長に辞表を提出した。

図表1
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その後に議会で実施された大統領選では、与野党が入り乱れる形で3人の候補が出馬した結果、前首相のウィクラマシンハ氏が134票と半数を上回る票を獲得して勝利した。なお、ウィクラマシンハ氏はラジャパクサ前政権下での与党の支援を得て勝利を収めており、同党はラジャパクサ一族の影響力が強い上、上述のように首相就任に際して反ゴタバヤ(ラジャパクサ)色を打ち出すも実態としてラジャパクサ政権の延命に繋がった経緯もあり、議会では野党をはじめとする反ラジャパクサ陣営との対立は必至とみられる。

また、国民の間では若年層を中心に、6度の首相経験にも拘らず政治状況の悪化に歯止めが掛けられないなど批判も強く、そうした動きは既存の政治勢力全体にも向けられている。IMFは新政権との間で支援協議を早期に再開する考えを示しているものの、表面化しているものだけで対外債務の1割程度を占める中国は債務再編協議に後ろ向きであるなどその行方は見通せない。その上、中国の債務を巡っては契約の不透明さや実施主体の経験が浅いといった問題に加え、『隠れ債務』の存在も懸念されるなど、実態が明らかになるなかで事態打開の道筋がみえなくなることも懸念される。ウィクラマシンハ氏は挙党一致により難局を乗り越える必要性を訴えているが、果たしてそうした思惑は現実化するか、現時点においては先行きがまったく見通せない状況にあると判断出来る。

図表2
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西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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