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2022.07.01
新興国経済
原油
ウクライナ問題
内外経済ウォッチ『アジア・新興国~OPECプラスは米ロ双方の「顔を立てる」~』(2022年7月号)
西濵 徹
世界経済は欧米など先進国を中心にコロナ禍からの回復が続くなか、ウクライナ情勢の悪化を機に欧米などは対ロ制裁を強化しており、需給ひっ迫懸念を反映して原油高が続いている。コロナ禍対応を理由にOPECプラスは過去最大の協調減産に動いたが、昨年以降は段階的縮小に動いてきた。ロシア産原油の供給が細るなか、米国などは戦略備蓄放出のほか、米国はシェールオイルの増産に動く一方でサウジやUAEに増産を求めるも、両国は慎重姿勢を崩さなかった。これはロシアを含む形でOPECプラスが全会一致を原則としていることに加え、両国が増産投資の無駄撃ちを嫌ったことや、中東諸国の間に米国への不信感が高まっていることも影響している。
他方、米FRBなど主要国中銀はタカ派傾斜を強めるなど景気に冷や水を浴びせる懸念の一方、中国では当局のゼロ・コロナ戦略にも拘らず最悪期を過ぎつつある。また、EUはロシア産原油の輸入停止で合意しており、年末にはロシア産原油の9割近くが停止対象となるなどロシア産原油の市場への供給は先細りが避けられない。さらに、OPECプラス全体としてもアフリカ諸国での生産低迷に伴い生産目標の未達状態が続いており、ロシア産原油の供給が一段と縮小すれば需給のひっ迫感が一段と高まることは避けられない。価格カルテルとしてのOPECの存在意義に疑問が呈される可能性が高まってきた。

米国では中間選挙が控えるなか、バイデン政権は物価安定に向けサウジやUAEに増産を求める動きを強めた。他方、サウジやUAEは地域の安全保障環境を巡って米国に対する不信感を強めるなか、米国から何らかの『譲歩』を模索する動きをみせてきた。こうしたなか、7月の協調減産の行方を協議するOPECプラスの閣僚級会合では、ロシアを含むOPECプラスの枠組を維持する一方、ロシアの生産減少分を他の国で補填して供給を確保することで合意形成が図られた。結果、協調減産に関するスケジュールを維持しつつ、計画上は9月に協調減産が終了する前提であるため、9月の協調減産の縮小分を7月及び8月に均等に上乗せする実質的な増産が図られる。
これは、増産を求める米国などの要求に一定程度応える姿勢をみせる一方、OPECプラスの協調減産の枠組維持によりロシアも影響力を維持出来るため、双方の顔を立てた内容と捉えられる。一方、OPEC内で増産余力を有するのはサウジとUAEくらいである一方、大幅増産はロシアの顔に泥を塗るとともにOPECプラスの瓦解を招くリスクがあり、枠内では目標未達の国が多数あるなど全体としては需給ひっ迫状態が続く可能性は高く、原油価格も高止まりが予想される。また、OPECプラスがロシアを含めた枠組を重視する姿勢を改めて強調したことは、米国などの増産要請に対して容易に応じない姿勢を示している。

西濵 徹


- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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