SDGsの羅針盤『企業に求められる「ビジネスと人権」の取組み』

奥脇 健史

目次

世界的に関心の高まる「ビジネスと人権」

世界的に「ビジネスと人権」への関心が高まっている。企業の「人権の尊重」はESGの「S(社会)」に当たり、取組みを推進することは社会課題の解決につながるとともに、投資の呼び込みなど自社にも好影響を与えると考えられる。その一方で、取組みが不十分と判断された場合には評判の悪化など経営リスクにもなりうる。

取組みの指針となるものとしては、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」)が挙げられる(資料)。指導原則では、企業に①人権方針によるコミットメント、②人権デュー・ディリジェンス(以下「人権DD」)の実施、③救済措置のプロセスの導入を求めている。企業は指導原則をはじめとする国際的な指針に沿って、取組みを推進していくことが求められる。

ビジネスと人権に関する指導原則の3つの柱
ビジネスと人権に関する指導原則の3つの柱

進む各国の取組みと企業に対する要請の強まり

各国では、指導原則に基づきNAP(ビジネスと人権に関する国別行動計画)の策定が進んでいる。指導原則が採択された2011年以降、2013年にイギリスが初めて策定、足元で策定国は20か国以上となっている。日本では、社会全体の人権の保護・促進や日本企業の国際的な競争力及び持続可能性の確保・向上、SDGs達成への貢献などを目指すものとして、2020年10月に策定された。

日本政府はNAPの策定に続き、足元で人権DDガイドラインの検討を進めている。人権DDとは、企業がサプライチェーン上を含めた自社の事業における人権リスク(例:強制労働など)を調査・分析するとともに、顕在的・潜在的なリスクが特定された場合には、その防止や軽減などを図ることである。ガイドラインの検討が進められる背景の一つには、欧州を中心に各国で人権DDを企業に義務付ける法整備が進んでいることがある。イギリスでは、2015年に「現代奴隷法」が策定され、イギリス国内で事業を行う一定規模以上の企業を対象に、毎年、人権DDの実施と、リスクが特定された場合にはその防止に向けて行った方策などの公表を義務付けている。

求められる官民連携による取組みの推進

世界的な動きの一方で、日本企業の取組みは道半ばである。昨年11月に経済産業省と外務省が公表した企業の取組状況調査では、人権DDの実施率は回答企業の約5割に留まることに加え、人権尊重の取組みが進んでいない企業の半数は、具体的な取組方法がわからないと回答している。このような中、企業のみならず多くのステークホルダーからガイドライン作成の要望があり、この点からも検討が進められることとなった。

ガイドラインは、人権DDに関して日本政府として企業に期待する具体的な取組内容等を示すものとして位置づけられ、中小企業の対応なども検討事項に含められている。第一回の検討会は3月9日に開かれ、今夏のガイドライン案のとりまとめを目指している。世界的に「ビジネスと人権」に関する動きが活発化し、企業への要請が強まる中、SDGsの達成への貢献に加え、日本の国際的な競争力の向上のためにも、官民が連携して取組みを推進していくことが望まれる。

(本稿は、2021年12月「企業に求められる『ビジネスと人権』の取組み~人権への関心の高まりと企業の果たす役割の重要性~」を基に作成、内容を一部アップデート。 https://www.dlri.co.jp/report/ld/175757.html)

奥脇 健史

奥脇 健史

おくわき たけし

総合調査部 マクロ環境調査G 副主任研究員
専⾨分野: 日本経済短期予測(~21年6月)、労働政策、国際経済(21年7月~)

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