よく分かる!経済のツボ『「出向」が人材育成に効果あり?』

奥脇 健史

目次

人材育成への活用が期待される「在籍型出向」

昨年10月に閣議決定された総合経済対策において「産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)」の創設が明記され、同年12月に運用を開始しました。もともと「産業雇用安定助成金」はコロナ禍で業績の厳しくなった企業が雇用維持手段として在籍型出向を活用する場合に、出向元及び出向先企業に対し助成を行うものとして21年2月に創設されました。従来の形を「雇用維持支援コース」として残しつつ、「スキルアップ支援コース」では企業の業績に関係なく、働き手のスキルアップを目的に在籍型出向を活用した場合に、一定の条件のもと出向元企業を助成することとしています(資料1)。

図表1
図表1

新たにコースが設けられた背景には、DXの推進などに注目が集まる中で、社会的に働き手のリスキリングの重要性が高まっていることがあります。コロナ禍において雇用維持手段として活用されている在籍型出向ですが、活用した企業や出向を経験した働き手からは別の環境で働く中で能力開発につながったという声が出ているなど、人材育成にも効果があることが示されました(資料2、3)。このような企業の声を受けて、働き手のスキルアップなどに向けた手段の一つとして、政府は在籍型出向の活用を進めようとしています。

図表2
図表2

図表3
図表3

人材育成に向けた多様な手段の活用を

在籍型出向の実現に向けては、(公財)産業雇用安定センターが企業間の人材マッチングを支援しており、足元でスキルアップを目的としたものへの支援にも取り組んでいます。また、大企業とベンチャー企業間の人材マッチングを支援する企業などもあります。

在籍型出向の活用にあたっては働き手の理解が必要であるほか、人手に余裕がないなど活用が難しい企業もあると考えられます。人材育成手段については、在籍型出向を一つの選択肢としながら、Off-JTや副業・兼業の拡充など自社に適した手段を活用していくことも重要でしょう。助成金による後押しもある中で、様々な選択肢の中から人材育成手段の一つとして在籍型出向の活用が進むことが期待されます。

奥脇 健史


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