インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

台湾2026年度予算案、防衛費大幅拡充もそのハードルは高い

~中国の軍事的圧力と米国の圧力に対応も、議会とのねじれ状態のなかで紆余曲折は不可避の状況~

西濵 徹

要旨
  • 台湾行政院は21日に2026年度予算案を発表した。歳出規模は前年比3.8%増の3.035兆台湾ドル、なかでも防衛関連歳出は22.9%増の9,495億台湾ドル、GDP比3.23%に引き上げられる。これは、台湾が中国の軍事的圧力に晒される一方、トランプ米大統領が「自助」を求める動きに対応したものと捉えられる。
  • しかし、台湾では政府(民進党)と立法院(国民党・民衆党連立)との間でねじれ状態にあり、様々な政策運営を巡って対立しており、なかでも外交・防衛政策では対立が激化している。2025年度予算を巡っては歳出が大幅に削減され、防衛費も削減された経緯もあるため、2026年度予算の成立にも困難が予想される。
  • さらに、民進党は国民党議員のリコールを通じて立法院の多数派奪還を狙ったが、国民投票は否決されている。これにより国民党は勢いを増しており、政府提出の対中政策関連法案にも反対姿勢を強めている。今後、頼政権は米国からの防衛費増額圧力と立法院との板挟みに直面すると見込まれ、2028年の次期選挙に向けて台湾政界の緊張はさらに高まると見込まれる。日本にとっても対岸の火事ではないと言えよう。

台湾行政院(内閣に相当)の卓栄泰院長(首相に相当)は21日、2026年度予算案を発表した。台湾では、昨年実施された総統選で与党・民進党から出馬した頼清徳氏が勝利する一方、同時に行われた立法院(国会に相当)総選挙では民進党が大幅に議席を減らした。結果、最大野党・国民党が第1党になり、『第3局』を謳う民衆党と連立を組む形で多数派を形成した。さらに、立法院長(議長に相当)は国民党の韓国瑜氏、副院長(副議長)も国民党の江啓臣氏(前党主席)が就任するなど、政府と立法院は完全な『ねじれ状態』となっている。よって、政府と立法院は政策運営を巡ってしばしば対立しており、なかでも外交政策では中国本土との関係を巡って民進党と国民党・民衆党の立場が大きく異なるなかで対立が激化している。その結果、政府は2025年度予算において、防衛関連歳出をGDP比3%とするなど大幅に引き上げる案を立法院に提出したが、最終的に立法院で承認された本予算では、歳出規模は政府の当初案から▲6.6%削減されるとともに、防衛関連歳出も同率で削減された(注1)。よって、2026年度予算案についても成立に向けては紆余曲折が予想される。

なお、2026年度予算案の歳出規模は3.035兆台湾ドルと今年度(2.9248兆台湾ドル)から+3.8%拡大させている。なかでも防衛関連歳出は9,495億台湾ドルと今年度から+22.9%と大幅に拡大させるとともに、名目GDP比で3.23%と今年度(2.5%)から大幅に引き上げられる。防衛関連歳出を大幅に拡大させる背景には、トランプ米大統領が台湾に対する支援の前提として、台湾による防衛予算の大幅拡充による『自助』を強く求める考えに対応したものと考えられる。さらに、台湾近海や太平洋では中国の人民解放軍が軍事演習を展開するとともに、中国海警局も警備を名目に威圧行動を活発化させるなど、台湾に対して圧力を強める動きがみられる。こうした状況にもかかわらず、上述のように今年度予算での防衛関連歳出の削減を受けて、米軍などとの軍事演習のほか、交流機会が制限されるなど幅広い軍事活動に制約が掛かる事態に直面している。よって、頼総統は今月初めに来年度の防衛関連歳出の大幅拡充を目指す考えを示しており、その方針に沿ったものと捉えられる。また、防衛関連歳出が大幅に拡充された理由として、行政院はNATO(北大西洋条約機構)の基準を参考に海洋委員会海巡署、退役軍人への退職給付などを盛り込んだことを挙げている。

ただし、上述したように予算成立に向けては立法院との協議での紆余曲折が予想される。さらに、台湾では先月、国民党所属の立法委員(議員)計24人に対するリコール(解職請求)の賛否を問う国民投票が実施されたが、すべての選挙区で必要票に届かず、リコールは否決されている(注2)。国民投票を巡っては、頼政権を支える与党・民進党が多数の国民党議員のリコール成立を通じて、その後の出直し選挙で立法院での多数派奪還によるねじれ状態の解消を目指したとみられる。しかし、結果としては民進党による強硬姿勢に対して、無党派層の間で少なからず反発が強まるなど、頼政権にとっては逆風となることが避けられなくなった。事実、この結果を受けて国民党は勢いを増すとともに、政府が立法院に提出している中国本土への対抗を念頭にした法案に反対する動きを強めており、来年度予算案に対しても同様の対応をみせる可能性は高まっている。トランプ米政権内からは、台湾の防衛関連歳出をGDP比1割と大幅に引き上げることを求める向きもみられ、頼政権は一層の圧力に晒される可能性は高い一方、立法院との『板挟み』状態となることは避けられない。台湾政界においては、2028年の次期選挙に向けて与野党の攻防が一段と激しさを増す展開が続くとともに、地理的に台湾と近い日本にとっても無視し得ない状況となる可能性に注意する必要がある。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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