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2025.05.19
米国経済
米国経済見通し
米国経済全般
トランプ政権
トランプ関税
米国経済マンスリー:2025年5月
~関税の影響は未だ現れず~
前田 和馬
- 要旨
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- 1~3月期実質GDP成長率は前期比年率-0.3%と12四半期ぶりのマイナス成長に陥った。先行き4~6月期を巡っては、駆け込み需要の持続による個人消費の増加等を背景にプラス成長へと回帰する可能性が高い。
- 製造業ISMや消費者マインドなどのソフトデータが総じて悪化する一方、関税引き上げの影響は雇用統計や消費者物価指数などのハードデータには未だ現在化していない。企業は関税の小売価格への転嫁に慎重な姿勢を示しており、6月公表分の経済指標でも影響は限定的かもしれない。
- 5月FOMCでパウエル議長は「様子見姿勢」を明確にするなど、早期の利下げに否定的な見解を示した。一方、トランプ減税の延長や債務上限の引き上げに向けた議会審議が進んでいるものの、上下院の共和党内の議論が順調にまとまるかには不透明感が残る。

経済指標
- 1~3月期実質GDP
1~3月期実質GDP成長率は前期比年率-0.3%(2024年10~12月期:+2.4%)と12四半期振りのマイナス成長へと陥った。GDP上の控除項目である輸入が+41.3%(-1.9%)と関税発動前の駆け込みで急増した結果、純輸出の寄与度が-4.8%pt(+0.3%pt)と全体を下押しした。一方、民間最終需要に限ると前期比年率+3.0%(+2.9%)と堅調な伸びを保った。内訳をみると、個人消費が+1.8%(+4.0%)と19四半期連続で前期水準を上回った。衣服などの非耐久財やヘルスケアを中心としたサービスが増加した一方、前期からの反動もあり自動車等の耐久財は減少した。また、在庫変動は+2.3%pt(-0.8%pt)と関税引き上げに備えた在庫積み増しの動きを示した。他方、設備投資は+9.8%(-3.0%)と情報処理機器やソフトウェアを中心に大幅に増加した。この間、コアPCEデフレーターは前年比+2.8%(+2.8%)と横ばい圏で推移するなど高止まりしている(詳細は「米国 トランプ2.0はマイナス成長のスタート (25年1QGDP:1次推計、予測値)」)。
- 4月全米供給管理協会(ISM)景況感指数
4月ISM製造業PMIは48.7(3月:49.0)と3か月連続で低下し、その水準も2か月連続で好不況の節目となる50を下回った。同月発表の相互関税を中心とした一連のトランプ関税によって、製造業マインドは軟調に推移している。内訳をみると、生産が44.0(48.3)、在庫が50.8(53.4)とそれぞれ低下した一方、生産活動に先行する新規受注は47.2(45.2)と依然低水準ながらも前月から上昇した。他方、4月ISM非製造業PMIは51.6(50.8)と2か月振りに上昇し、市場予想(50.2)を上回った。サービス業活動は減速しながらも底堅さを保っている。内訳をみると、新規受注が52.3(3月:50.4)、雇用が49.0(46.2)と共に上昇した一方、事業活動は53.7(55.9)と低下した(詳細は「トランプ関税で生産が顕著な落ち込み(4月ISM製造業)」及び「米国 トランプ関税でコスト急増を懸念(4月ISM非製造業)」)。
- 4月雇用統計
4月雇用統計における非農業部門雇用者数は前月差+17.7万人(3月:+18.5万人)と、前月から小幅に減速した。同時に公表された2月実績は-1.5万人、3月実績は-4.3万人と共に下方修正された結果、3か月移動平均では+15.5万人(+13.3万人)と、堅調な水準を保っている。
4月の雇用者数を業種別にみると、医療・社会福祉は+5.82万人(+7.72万人)と人手不足を背景に39か月連続で増加し全体を押し上げた。また、輸送・倉庫が+2.90万人(+0.27万人)、娯楽・飲食・宿泊は+2.4万人(+3.8万人)、金融が+1.4万人(+0.6万人)と前月水準を上回った。一方、製造業は-0.1万人(+0.3万人)と3か月振りに減少するなど、停滞が持続している。他方、政府部門は+1.0万人(+1.5万人)と地方政府を中心に雇用拡大が続いている。連邦政府部門(米国郵政公社を除く)に限ってみれば-0.85万人(-0.38万人)と、政府効率化省(DOGE)が主導する職員削減を背景に4か月連続で減少したものの、雇用全体への影響は限定的に留まった(連邦政府職員のリストラと雇用市場への影響は2024/3/26付け「DOGEの連邦職員カットによる雇用市場への影響」を参照)。
この間、4月の労働参加率は62.6%(62.5%)と2か月連続で小幅に上昇した一方、失業率は4.2%(4.2%)と横ばい圏で推移した。また、広義失業率を示すU6(過去12か月に求職経験があるものの直近4週間は求職をしなかった者、及び経済的理由によるパートタイム労働者を失業者とカウント)は7.8%(7.9%)と高止まりしている。この間、週平均労働時間は前年比+0.3%(-0.3%)と27か月振りに上昇した一方、平均時給は+3.8%(+3.8%)と高水準で推移した。この結果、労働所得(=民間雇用者数×平均労働時間×平均時給)は+5.3%(+4.7%)と、賃金上昇を背景に増加基調で推移している。他方、CPI上昇率を控除した実質賃金は時間当たりで+1.4%(+1.4%)と24か月連続、週当たりでは+1.7%(+1.1%)と15か月連続でそれぞれ増加するなど、インフレの鈍化傾向を背景に堅調な雇用所得環境が持続している(詳細は「トランプ関税の発動も4月の米労働市場は堅調(雇用統計)」)。
- 4月消費者物価指数(CPI)
4月消費者物価指数(CPI)は前月比+0.2%(3月:-0.1%)と前月から上昇したものの、市場予想(+0.3%)は下回った。同月における相互関税の発動や対中関税の大幅な引き上げの影響は限定的に留まった。足下のトレンドを示す3か月前比年率でみると、総合指数が+1.6%(3月:+2.6%)、コア指数は+2.1%(+3.0%)と減速が続いており、その水準も+2%近傍へと落ち着いている。4月の内訳を見ると、食品は前月比-0.1%(+0.4%)と肉類や卵が下落した一方、エネルギーは+0.7%(-2.4%)と前月から反発した。この間、食品・エネルギーを除くコアベース指数は+0.2%(+0.1%)と前月から小幅ながら加速した。コアCPIの内訳を見ると、住居費が+0.3%(+0.2%)と3か月振りに加速したほか、住居費を除くコアCPIも+0.2%(-0.1%)と上昇に転じた。コア財は+0.1%(-0.1%)と家電や家具、医薬品などで上昇した一方、サービスではホテルや航空運賃など旅行関連品目の低下が続いた。この間前年比でみると、CPI総合は前年比+2.3%(+2.4%)、食品・エネルギーを除くコアCPIは+2.8%(+2.8%)と前月から大きな変化がなかった。先行きのCPIを巡っては、追加関税による輸入物価上昇が一時的に財価格を押し上げる可能性が高い一方、サービス価格は労働需給緩和による賃金鈍化や家賃の鈍化を背景に減速が続く可能性が高い(詳細は「米国 トランプ関税の4月CPIへの影響は限定的」)。
- 4月小売売上高
4月小売売上高は前月比+0.1%(3月:+1.7%)と2か月連続で増加した。4月の内訳をみると、家具が+0.3%(-0.1%)、家電は+0.3%(+1.5%)、オンライン販売を中心とした無店舗小売は+0.2%(+0.1%)とそれぞれ前月水準を上回るなど、幅広い品目で関税転嫁前の駆け込み需要がみられた。また、自動車・同部品は-0.1%(+5.5%)と、前月の大幅増の反動を背景に小幅に減少したものの、こちらも駆け込み需要を背景に高水準で推移した。この結果、GDP算出に用いられるコア小売売上高(自動車・ガソリン・建設材・飲食サービスを除くコントロール・グループ)は-0.2%(+0.5%)と3か月振りに減少した。先行きに関して、関税分の小売価格への転嫁が徐々に進行するに伴い、足下の駆け込み需要による反動減が小売売上を下押しする可能性が高い(詳細は「米国 トランプ関税駆け込みの反動で4月小売は鈍化」)。
- 4月鉱工業生産
4月鉱工業生産は前月比0.0%(3月:-0.3%)と前月から横ばい圏で推移した。4月の内訳を見ると、鉱業が-0.3%(+1.1%)とエネルギー安を背景に3か月振りに低下した一方、公益は+3.3%(-6.2%)と前月の反動もあり増加に転じた。一方、製造業は-0.4%(+0.4%)と6か月振りに低下したものの、緩やかな持ち直しが続いている。4月の内訳を見ると、自動車・同部品が-1.9%(+1.4%)とこれまでの反動もあり、3か月振りに減少した。また、飲食料品・タバコは-1.0%(+0.2%)、アパレル・革製品は-1.9%(+0.9%)と非耐久財が軟調に推移した。他方、航空機・その他輸送機器は+1.1%(+1.9%)と5か月連続で上昇するなど、2024年9~11月に実施されたストライキの収束以降は増産が続いている。先行きに関して、追加関税によるサプライチェーンの混乱、及び価格上昇を背景とした需要減少による生産下押しに警戒が必要だろう(詳細は「米国トランプ関税で製造業生産は縮小 (4月鉱工業生産)」)。
- 4月住宅着工件数
4月住宅着工件数は年率136.1万戸(3月:133.9万戸)と2か月振りに増加した。とはいえ、その増勢は限定的に留まるなど、住宅着工の低迷が持続している(前月比+1.6%;3月:同-10.1%)。4月の内訳を見ると、戸建住宅が前月比-2.1%(3月:-13.8%)と2か月連続で減少した一方、集合住宅は+10.7%(0.0%)と大幅に増加した。地域別にみると、最大市場の南部や北東部で前月水準を上回った一方、西部や中西部で減少した。先行きに関して、住宅ローン金利の高止まりが需要を下押しするほか、追加関税による資材価格の上昇や移民抑制による労働力不足が供給を抑制する懸念がある。この間、住宅着工に先行する住宅建設許可件数は年率141.2万戸(148.1万戸)と減少するなど、依然停滞の域を脱していない(詳細は「米国 先行き懸念によって停滞(4月住宅着工件数)」)。
経済見通し
2025年4~6月期実質GDP成長率(2025年7月30日公表)を巡っては、5月16日時点のアトランタ連銀によるGDPナウキャストが前期比年率+2.4%(1~3月期実績:-0.3%)とプラス成長に再び回帰すると予想している。個人消費は関税発動前の駆け込み需要を背景に高水準で推移する可能性が高いほか、設備投資も機械投資を中心に堅調な推移が見込まれる。
先行きの米国景気を巡る懸念要因としては、トランプ新政権における関税引き上げや移民抑制策によるインフレ再燃、長引くインフレやローン金利高止まりによる家計購買力の侵食、連邦政府職員や政府関連雇用の削減による労働市場の悪化などが挙げられる(詳細は「2025年の米国景気を占う6つの要素」)。5月のミシガン消費者信頼感指数は50.8(4月:52.2)、4月のコンファレンスボード消費者信頼感指数は86.0(3月:93.9)と共に5か月連続で低下した。期待インフレ率が民主党支持者を中心に関税懸念で大きく上昇しており、今後、消費マインドの軟化が共和党支持者にも波及するかが注目される。また、設備投資を巡っても、利下げ停止による金利高止まりに加えて、企業がトランプ政権の政策不透明感を踏まえて投資判断を一時的に保留するリスクにも警戒が必要だろう。例えば、Caldara et al.(2019)はトランプ一次政権と同様の通商政策の不確実性(実行関税率が3%pt上昇するとの懸念)が生じる場合、米国の実質GDP水準を0.3~0.9%押し下げると指摘している。
金融政策
- 5月FOMC(5月6~7日開催)
5月FOMC(5月6~7日開催)において、事前予想通り、FRBは3会合連続で政策金利を4.25~4.50%に据え置いた。声明文においては「純輸出の変動が経済指標に影響を与えている」と追加された一方、「経済活動は堅調な拡大を続けている。失業率はここ数か月低水準で安定しており、労働市場は引き続き底堅い。インフレ率は幾分高止まりしている」との従来の景気・物価認識は維持された。また、先行きのリスクを巡っては「経済見通しの不確実性が更に増している」「失業率とインフレ率の上昇リスクが高まっている」と述べられるなど、より一層不確実性が強調された。
パウエル議長は記者会見において、足下の経済が堅調であること、及び関税政策が経済・物価に及ぼす影響の不確実性を指摘したうえで、「様子見(wait and see)」と11回言及するなど、当面は政策金利を維持する姿勢を示した。また、具体的な利下げの時期や失業率上昇の許容範囲に関しては回答を避けたほか、今後は経済指標や関税交渉の行方を注視すると述べた(詳細は「FRBはリスクの高まりも利下げを急がない姿勢 (25年5月6、7日FOMC)」)。
- FRB高官発言

トランプ新政権
- 関税政策
8日、英国との貿易協定締結に合意したと発表した(詳細は「米英が貿易協定に合意」を参照)。米国は①英国からの輸入自動車の関税率を年間10万台まで27.5%(=従来の2.5&+追加分25%)から10%へと引き下げるほか、②鉄鋼・アルミニウムに対する25%関税を免除する一方、③相互関税の一律10%は維持する(英国は相互関税の追加分なし)。他方、英国は①牛肉の輸入関税を年間1.3万トンまで20%からゼロへと引き下げ、②その他の農産品、エタノール、機械等の市場開放(米国は「エタノール7億ドル、その他農産物2.5億ドルを中心に50億ドルの輸出機会を創出」と公表)を実施する。
他方、12日に米中両政府は4月初旬以降に引き上げた関税率のうち、双方の24%分を90日間停止し、大半を撤廃することで合意した(詳細は「米中が90日間の関税引き下げで合意」を参照)。米国は対中追加関税を145%から30%(フェンタニル対策の20%+相互関税の一律10%)、中国は対米追加関税を125%から10%へとそれぞれ引き下げる。なお、米国による鉄鋼・アルミや自動車などへの追加関税は維持される。米中は今後90日間において、中国の貿易障壁緩和や米国からの輸入拡大措置に関して協議を進める(最新の状況に関しては「トランプ関税ウォッチング」を参照)。
なお、米国は主要な相手国・地域を除く多数の国に対して、7月9日の相互関税の上乗せ分停止の失効後は一方的に税率を設定する方針を示している。18日にベッセント財務長官は多くの国と交渉を進めることが難しいため、中米やアフリカなどの地域単位で税率を設ける考えに言及した。
- 財政政策
16日、大手格付け会社のムーディーズは米国債の格付けを「Aaa」から「Aa1」へと1段階引き下げた。同米国債の格下げは2011年8月のS&P、2023年8月のフィッチに続くものとなる。ムーディーズは格下げの理由として、「10年以上にわたる支出拡大と減税による財政赤字の拡大」や「金利上昇による利払い費の膨張」を指摘したうえで、「今後10年は歳出増と横ばいの歳入を通じて、財政パフォーマンスは悪化する可能性が高い」と述べている。
18日、下院予算委員会はトランプ大統領の公約を含む「one big, beautiful bill」を可決した。同法案は2025年末に失効するトランプ減税の延長、及び気候変動対策予算である「インフレ削減法(IRA)」の縮小などを含む。16日時点では共和党の保守強硬派が「メディケイド(低所得者向け医療保険)などの歳出削減が不十分」として反対していた。今後、同法案は下院の本会議、及び上院の採決へと移行するものの、メディケイドの削減規模や州・地方税(SALT)控除の引き上げ幅などを巡って、共和党内の見解の一致が図れるのかには不透明感が残る。



前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

