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米中首脳会談における経済・貿易面の成果

~詳細は不明/年内3回の首脳会談を見据えて継続協議~

前田 和馬

2026年5月14~15日、米国のトランプ大統領は北京を訪問し、中国の習主席と首脳会談を行った。両首脳は「建設的な戦略安定関係」を構築することで合意した。また、経済・貿易面を巡っては「米中貿易委員会」と「米中投資委員会」を設立し、両国間の貿易不均衡問題の解決に取り組む姿勢を示した。ただ、詳細は不明であり、合意内容には流動的な要素が多いとみられる。米中首脳会談は年内にあと3回予定されており(9月24日の習主席訪米[予定]、11月18~19日のAPEC首脳会議[於深セン]、12月14~15日のG20サミット[於フロリダ])、詳細は今後の継続協議で固まる可能性がある。なお、両国は2025年10月に貿易戦争(中国によるレアアース輸出規制や米国による対中関税の引上げ)を1年間休止することで合意している。

経済・貿易面における両国の発表と、米国経済への影響は以下の通り。

① 関税引き下げ

米国:14日、ベッセント財務長官は両国が300億ドルの輸入を対象に関税を引き下げる可能性に言及。米国にとっての対象は「重要ではなく、国内回帰を目指していない製品」とし、花火などの低価格消費財を例に挙げた。

中国:16日、商務省は米中両国が相互に一部品目の関税を引き下げると公表。今後、具体的な品目を「米中貿易委員会」で協議。

米国経済への影響:米国にとって、関税引き下げ対象の300億ドルは2025年における対中輸入の9.7%、輸入全体の0.9%を占める。仮に300億ドルに限って(通商法122条に基づく)10%関税が撤廃されても、米国の実効関税率に与える影響は限定的だ。なお、実施時期は未定であるものの、米国は中間選挙を見据え、早期に象徴的な品目の関税を引き下げ有権者にアピールしたい意向が強いとみられる。

また、投資委員会に関しては、中国による安全保障等の懸念がない対米投資案件を独自(既存のCFIUSとは別)に審査する組織とみられるものの、対象となる分野や規模、中国側が投資するメリットも不明であり、現時点では大きな経済効果を期待できるものではない。

② 中国による米国製航空機の購入

米国:17日、ホワイトハウスは中国が米国製航空機200機の購入を承認したと公表。トランプ大統領は発注が最大750機まで拡大する可能性に言及。

中国:16日、商務省は中国が米国製航空機を購入するとしたものの、具体的な規模には言及せず。

米国経済への影響:影響は限定的に留まる可能性が高い。この背景として、「中国は具体的な規模に言及しておらず、実現性が不透明なこと」、「米メーカーの受注残の積み上がりを踏まえると、短期的に生産と輸出が急拡大する可能性は低いこと」、「中国向けの航空機関連輸出は米国全体の輸出の0.7%を占めるに過ぎないこと」などが挙げられる。

また、今回の訪中には米半導体企業の関係者が同行したものの、半導体等に係る協議内容は不明である。米USTRのグリア代表は米国の半導体輸出規制は主要な議題ではなかったと述べている。なお、2020年1月の米中合意(後述)で産業機械や医薬品、鉄鋼など幅広い品目の対中輸出拡大が挙げられたのと比べると、今回の工業製品に関する言及は非常に限られている。

③ 農産品貿易の拡大

米国:17日、ホワイトハウスは中国が2026~28年に毎年170億ドルの米国産農産品を購入すると公表。2025年10月の首脳会談後に、米国は中国が今後3年間に2,500万トン/年の大豆購入を約束したと公表しており、今回の購入はこれに新たに追加されるもの。

中国:16日、商務省は中国が米国産牛肉や鶏肉の輸入拡大に取り組む一方、米国も中国産乳製品や水産品の輸入規制緩和を進めると公表。ただ、中国による農産品購入等に関しては具体的な数量・金額に言及せず。

米国経済への影響:米国の対中農産品輸出は直近ピークの320億ドル(2022年)から56億ドル(25年)まで減少しており、中国による170億ドルの農産品購入は非現実的な数値ではない。とはいえ、中国が実際にこの規模の購入に踏み切るかは流動的であることに加え、米国の農産品輸出拡大による景気刺激効果は工業製品より低いとみられる。総じてマクロ的な影響は限定的な可能性が高く、11月の中間選挙を見据え、共和党の支持基盤である農村部に向けたアピールの側面が大きいとみられる。

また、14日にトランプ大統領は中国が米国産原油やLNGの購入を約束したことに言及しているものの、規模や時期を含めた詳細は不明である。

ちなみに、第一次トランプ政権下の2020年1月に米中両国は経済・貿易協定を締結し、中国は今後2年間で2,000億ドルに及ぶ農産品・エネルギー・工業製品・サービスの購入拡大(2017年対比)を約束した。ただ、こうした約束はほぼ実現しなかった。合意後の新型コロナウィルスによる経済的な混乱、及び米大手航空機メーカーの一部機体トラブルの影響は割り引いてみる必要があるものの、中国の輸入に占める対米比率はほぼ変化がなかったなど、中国がこうした約束を本格的に履行しようと考えたのかは疑問が残る。今後の米中貿易協議において、中国は具体的な輸入や投資の拡大規模に言及する可能があるものの、その実現性は冷静に評価する必要があろう。

図表
図表

以 上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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