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6月FOMCに向けた注目点

~ウォーシュ新体制の改革スピードは如何ほど?~

前田 和馬

要旨
  • 6月16~17日開催のFOMCはウォーシュ新議長の下での初会合となる。同氏は様々な政策転換を掲げており、初めてのFOMCはその本気度と改革スピードの試金石となる。現時点では穏当なスタートがメインシナリオだが、急進的な政策変更などの不確実性は残る。

  • ウォーシュ議長が6月FOMCで利下げを提案する可能性は低い。一方、ウォーシュ議長が多くのFOMCメンバーと同様に「様子見スタンス」を示すのか、或いは「エネルギー高によるインフレは一時的」とのスタンスを強調し利下げへの前向きな姿勢を示すのかが注目される。

  • ウォーシュ議長は「AI普及による経済的影響と金融政策への帰結」及び「トリム(刈り込み)平均などのインフレ捕捉の精緻化」に関心を抱いている。今後の利下げに向けてFOMCメンバーを説得するうえで、同議長はFRBスタッフにこれらの調査を指示する、或いは今後のFOMCで重点的に議論する姿勢を示す可能性がある。

  • ウォーシュ議長はフォワードガイダンスに懐疑的であるものの、6月FOMCでドットチャートを含む「四半期経済見通し(SEP)」の公表を中止する可能性は低いだろう。一方、「SEPのあり方を再検討すると表明する」或いは「自身の予測提出を拒む」ことを通じて、その重要度を低下させようと試みるかもしれない。

  • ウォーシュ議長はFRBのバランスシート(BS)縮小を巡り、「綿密に計画して」実施する方針を示している。また、BS政策は金利操作と同様にFOMCでの決議が必要となる。6月FOMCではBS縮小に向けた検討の開始が決定される可能性がある。

目次

5月22日、ケビン・ウォーシュ氏がFRBの第17代議長に就任した。同氏は「改革志向のFRBを率いる」と主張し、FRBが独立性を保ちながら二つ(物価と雇用)の目標に取り組めば、「インフレ率は低下し、成長率は上昇し、実質所得は増える」と主張した。同氏の金融政策とFRB体制を巡る主張は多岐にわたっており、今後はそうした改革をどのようなスピード感で実行するかが焦点となる。

FOMCではFRB議長も12票のうち1票を占めるに過ぎないこと(合議制)を踏まえると、ウォーシュ議長は6月FOMCでは他メンバーの強い反発を招く決定を避け、穏当なスタートを切る可能性が高い。ただ、矢継ぎ早に改革を実行する可能性も否定はできず、現時点では不透明な部分が多く残る。

利下げ(金利操作)

4月の公聴会、及び5月の就任演説において、ウォーシュ議長は政策金利に関する具体的な言及を控えている。この間、4月FOMC(4月28~29日開催)議事要旨では、多数の参加者が「インフレ率が持続的に2%を上回る場合、政策引き締めが必要になる可能性が高い」と指摘した。加えて、22日にはハト派寄りとみられていたウォラー理事が9月までの利下げを否定するなど、FOMC内部で「当面の金利据え置き」、及び「次の政策変更があれば利上げ」との見方が増えている。また、トランプ大統領もウォーシュ議長の就任時に「独立した」働きぶりを期待するなど、パウエル前議長に行った「利下げ要求」を当面は控える様子をみせている。なお、5月28日時点のFF金利先物(Fed Watch)に基づくと、2026年中の据え置き予想は43.6%であり、1回の利上げが40.6%、2回以上の利上げが15.2%の確率で織り込まれている。

FOMCメンバーの賛同が得られないことを踏まえると、ウォーシュ議長が6月FOMCで利下げを提案することはないだろう。一方、ベッセント財務長官は14日に「今後1~2回は強いインフレとなるものの、その後は大幅なディスインフレに向かう」と主張するなど、エネルギー高によるインフレは一時的との見方を保っている。会合時の原油価格動向を踏まえながら、ウォーシュ議長が多くのFOMCメンバーと同様に「様子見スタンス」を示すのか、或いはインフレは一時的との見方を示し利下げへの前向きな姿勢(ハト派姿勢)を示すのかが注目される。

AIの影響とインフレ指標の妥当性

ウォーシュ議長は従来からAI普及による生産性革命がディスインフレ圧力となることを指摘してきた。また、4月の公聴会では「FRBは生産性向上の可能性を掘り下げるべき」と述べた。一方、一部のFOMCメンバーはAIによる供給力の向上よりも、旺盛な需要がインフレや中立金利を押し上げる可能性に言及しており、AI普及と金融政策への影響は見方がわかれている。このため、6月FOMCまでにウォーシュ議長はFRBスタッフに対して「AIの経済的影響と金融政策への帰結」の調査を指示し、今後の利下げに向けて「FOMCメンバーの説得材料」を探し始めるかもしれない。

また、インフレ動向の把握手法を巡っても、ウォーシュ氏は見直しの可能性を示唆している。具体的には(食品・エネルギーを除く)コアPCEインフレ率よりもトリム(刈り込み)平均や中央値を重視するほか、ビックデータを活用しながらより精緻なインフレ指標を確立する考えを示している。ウォーシュ氏はFRB議長としてインフレ指標の改善に向けたプロジェクトをFRB内に発足させるかもしれない。また、具体的な調査を表明せずとも、AIの影響やインフレ指標の妥当性を今後のFOMCで重点的に討議する姿勢を示す可能性がある。

なお、FOMCは2012年1月にPCE価格の前年比を正式なインフレ目標として設定しており、これをウォーシュ氏が重要視するトリム平均などに変更するのはFOMCでの決議が必要となる。ただ、多くのFOMC参加者がこうした提案に賛同するかは不透明だ。そもそも、これらの代替指標は足下ではPCEやコアPCEよりも低く、インフレ目標の変更は利下げを正当化するための材料という印象を与えやすい。加えて、これらの指標は2021年以降のインフレ局面ではコアPCEよりも緩やかに上昇し、ウォーシュ議長が非難する「政策ミス(利上げの遅れ)」の一因にもなった。このため、ウォーシュ議長が実務的にこれらの指標を重要視しようとも、FOMCにおいて正式にこうした方針が採用される可能性は当面低いとみられる。

声明文のフォワードガイダンス

ウォーシュ議長は4月の公聴会において、「フォワードガイダンスは信奉していない」と述べるなど、平時においてFRB高官やFOMCが「政策予告」を行うことに否定的な見解を示した。具体的には声明文での言及のほか、後述するドットチャートなどの四半期経済見通し、或いはFRB高官のメディア等での発言が対象になると考えられる。

声明文を巡り、4月FOMCでは多く(many)の参加者が将来の「緩和バイアス」を削除すべきと主張した。4月FOMCの声明文では「更なる金利調整の時期と程度を巡り」と、次の金利変更が利下げになることが示唆されている。しかし、4月FOMCでは3名が同表現を維持することに反対票を投じたほか、22日の講演ではウォラー理事も同表現を削除すべきと指摘した。仮にパウエル体制が継続していた場合、6月FOMCでは同表現が「適切な金融政策スタンスを評価するにあたり」などと、中立的なものになる可能性が高かっただろう。

6月FOMCでは同表現を巡り3つの可能性がある。まず、4月時点における「①緩和バイアスの表現を維持する」シナリオだ。ただ、ウォーシュ議長がこれを望もうとも、4月FOMCの3名よりも多くの反対票が出る懸念があり、FOMCの多数決でこれが覆されるリスクすらある。次に、前述したような「②より中立的な表現に変更する」可能性だ。とはいえ、この場合でもウォーシュ議長は「特定の政策変更を示唆するフォワードガイダンスは適当ではないため、表現を変更した」と主張するなど、同変更がタカ派的とみられるのを否定するかもしれない。最後に、同表現を含めて声明文の構成を変更するなど、「③フォワードガイダンスに関連する記載を大幅に削減する」シナリオだ。この場合、6月FOMCでは声明文の変更よりも、ドットチャートの内容やウォーシュ氏の記者会見に焦点があたりやすくなるだろう。

コミュニケーション手法

ウォーシュ議長は公聴会で「FRBは金利や経済の見通しを全世界に公表している。しかし、人間である以上、彼らは必要以上に予測に固執している」と述べるなど、ドットチャートを含む「四半期経済見通し(SEP)」に否定的だ。ただ、ウォーシュ議長がこの「廃止」を考えているのか、或いは「改良」を想定しているのかは定かではない。また、FOMCは2007年にSEPを公表する方針を示しており、FOMCで決めたことをウォーシュ議長の権限のみで変更できるのかは不透明だ。ちなみに、ドットチャートへの否定論は「市場参加者が中央値に注目しすぎること」や「政策判断に機敏さが欠けること」といった経済学者等からの指摘もある(例えばBoocker and Wessel[2024])。

SEPの見直しは今後FOMCにて議論される可能性があるものの、6月FOMCで何らかの変更がある可能性は基本的に低いとみられる。6月FOMCでは従来と同様、ドットチャートで年内の利上げを予想する参加者が現れるか、或いは現状維持を予想する向きがどれほど増えるかが注目点となるだろう。ただ、リスクシナリオとして、ウォーシュ議長が自身の予測を提出せず、こうした動きに一部の理事が追随する可能性がある。このような議長を含まない予測が発表される場合、市場参加者にとっての重要性は大きく低下するだろう。

また、ウォーシュ議長は「あまりに多くのFRB当局者が望ましい金利水準に言及している」と述べるなど、FOMC参加者の積極的な対外発信を好ましく思っていない。ただ、議長がFOMC参加者の講演機会を制限するのは難しいかもしれない。(26年1月に再承認された)FOMC参加者の対外コミュニケーション方針では、「中央銀行の透明性は金融政策の有効性を向上させる」や「FOMC参加者は自身の見解を自由に述べられる」と明言されている。一方、「FOMCの機密情報を開示すること」は原則に反するとあり、FRB議長はこのような運用を厳格化することでFOMC参加者の発言機会を抑制しようと試みる可能性がある。

このほか、議長のFOMC後の記者会見の在り方や、FOMCの開催回数などに関しても、ウォーシュ議長は見直す方針を示す可能性がある。

バランスシート縮小

ウォーシュ議長は4月の公聴会にて、FRBの国債保有が「金融資産を持つ層に恩恵をもたらす」と否定的な見解を示し、危機時以外にこうした手段を用いる必要性を否定した。そのうえで、より公平で多くの国民に影響する「短期政策金利に重点を置いた」金融政策への回帰を掲げた。

とはいえ、実際にバランスシート(BS)を縮小するうえでは「綿密に計画され」行われるべきと強調したほか、財務長官と調整する必要性(財務省との新たなアコード締結)にも言及した。また、BS政策の変更にはFOMCでの決議が必要であり、この実施には慎重な見方を持つFOMCメンバーがいる。例えば、バー理事は14日の講演で「BS縮小は誤った目標」と明言している。加えて、BS縮小に際して、銀行の流動性要件など規制緩和の必要性を指摘する見方もある。以上を踏まえると、6月FOMCにおいてBS縮小に向けた検討を開始する可能性はあるものの、具体的な方針が示される可能性は低いだろう。

【参考文献】

Bernanke, Ben (2016), “Federal Reserve economic projections: What are they good for?” The Brookings Institution: Commentary, November 28, 2016.

Boocker, Sam and David Wessel (2024), “Advice for the Federal Reserve’s review of its monetary policy framework,” The Brookings Institution: Commentary, July 10, 2024.

Board of Governors of the Federal Reserve System (2026), “FOMC Policy on External Communications of Committee Participants.”

以 上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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